お金で買えないもの
模擬魔法戦に優勝した翌日の朝礼。
今日も変わらずキリっとした雰囲気の刺島先生が号令をかける。
最初の話題はもちろん模擬魔法戦の話だった。
「昨日の模擬魔法戦だが10組は優勝することが出来た。今までの新入生の初めに行われた模擬魔法戦の中でも最もレベルの高い試合だった。みんな出場者の5人に拍手を」
刺島先生がそう言うと、教室中から拍手と歓声が巻き起こった。
普段はお喋りに厳しい刺島先生も今日ばかりは見守っている。
「お前らマジでよくやった!」
「いい試合だったぞ!」
「次は私も出たいなー」
突然のクラスメイトからの称賛に僕を含め猿堂と悠君はちょっと恥ずかしそうだった。
レオはあまり感情を表に出していないが嬉しそうではある。
人気者になって友達を作りたいと豪語していた影下君は、突然注目の的なったことで居た堪れなくなったのか腕を組んで寝たふりを始めている。
なぜ絶好のチャンスを棒に振るのか。
彼に友達が出来るのはまだまだ遠そうだ。
かつては僕のことをハレンチスケベナンパ野郎と蔑んでいた女子たちからも好感の視線が送られてくる。
・・・本当に頑張ったかいがあった!
入学早々不幸が重なり女子から蛇蝎の如く嫌われていたが、今回の活躍で挽回できたみたいだ。
きっとこれからは桜色の青春が待ち構えているに違いない。
「おかげで1ヵ月は昼飯代が浮いたぜ!」
「ほんとほんと、おかげで欲しかった服買っちゃった」
「あ、私もネックレス買ったよー」
ギャンブルの対象として見られていただけという感じを犇々と感じるが、あまり気にしないでおこう。
気にしすぎると心を痛める可能性がある。
とにかくクラスでの立ち位置が向上したという事実だけを考えよう。
「さて、そんな模擬魔法戦の次のイベントが開催される」
刺島先生が話を始めてクラスが静まる。
「来月には林間学校がある。大自然の中でグランピングを行う。碧水蒔財閥が管理をする高原で二泊三日の旅行になる」
レオの言っていた通りグランピングを行うみたいだ。
旅行先の高原が管理地というのは流石は碧水蒔財閥の財力といったところか。
期待に少しざわついた教室内だったか、刺島先生は話を続ける。
「皆も知っている通り碧水蒔高校は魔法技術の向上に重きを置いている。希望者のみになるが、魔法を使ったレクリエーションもある。ちなみに景品も用意されいてるぞ」
レクリエーションは希望者だけなのか。
僕としてはみんなと遊んでいる方が楽しみだから今回は遠慮しておこうかな。
この世界に転移した時にお金も貰ってるし、景品にも興味はない。
「レクリエーションは魔法を使用した課題がいくつか提示され、困難度に応じて景品が変化する。困難度が高ければ景品も豪華になる」
参加しない予定の僕には関係ない話だと思いを聞き流そうとした時、レオが手を挙げた。
「質問なんだが、景品って何が貰えるんだ?」
お金が絡むと積極的になるレオらしい質問だった。
この間の優勝賞品をほとんど転売して荒稼ぎしようとしているのに、まだやろうとしているのか。
「模擬魔法戦と違いそこまで豪華な景品は用意されてはいないが、予定としては学食の食券、購買部の割引券などが主だな。期待させないうちに言っておくが、あくまでレクリエーションだからな。1つの課題をクリアしても大量に手に入ったりはしないぞ」
さすがに前回の模擬魔法戦のように豪華な景品は用意していないみたいだ。
それでもレオはちょっとやる気な雰囲気を感じる。
「それと、変則的だが学期末テストの点数なんかもある。成績を引き合いに出すのは個人的には好まないが会議で決定した。さて、連絡は以上だ。それでは朝礼を終わりにする」
先生が教室を後にすると、先ほどの話でみんな盛り上がっている。
ただ、僕の心中は最後に先生の発言でそれどころではない。
学期末テストの点数だと・・・?!
「秀介ー、林間学校の話だけど・・・って、どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」
悠君が林間学校の話をしに来てくれたみたいだが、レクリエーションのことが気になってしょうがない。
「そ、そう?随分真剣な表情をしていたから、何かあったのかと思って。まあ、いいや。シュウはレクリエーションやるの?」
「やる。絶対やる。やらないわけがない」
「ず、随分気合が入ってるね・・・」
やる以外の選択肢は今の僕にはない。
なぜなら、テストの点数が手に入るからだ。
別に学校の成績が悪い訳ではないし、前の世界では上位には入っていてた。
前の世界とほとんど同じ世界に転移したため、この世界でも成績は悪くない。
そんな元の世界の知識を持ってしても、1教科だけ適応されないのだ。
社会科である。
数学や国語などは全く問題がない。
だが社会に関しては、前の世界と今の世界では歴史や人物が全然違うのだから分かるわけがない。
歴史、地理、現代社会、倫理、政治、経済もれなく全滅だ。
今の僕はこの国の首都がどこなのか知らないレベルで終わっている。
せっかくの魔法世界ライフを補修で過ごすなんてことは絶対にしたくない。
ならば僕の生きる道は一つ。
このレクリエーションで点数を荒稼ぎするしか道は無い。
席を勢いよく立つ。
戸惑う悠君を尻目に、レオのもとに歩を進める。
レオは先ほどの話を聞いてすでに戦略を考えているのだろう、真剣な表情だ。
席の前に立つと、こちらに気が付いた。
「レオ、レクリエーションについて話があるんだけど」
「・・・どんな話だシュウ?」
レクリエーションがどんな内容になるのかはまだ分からないが、悪知恵が働くレオなら力になるだろう。
「レクリエーションの課題で荒稼ぎする気はない?」
「なるほどな。1人より2人か・・・乗った」
レオとがっちりと握手を交わす。
こうして僕の成績を賭けた林間学校が始まる。




