決勝戦3
「ったく、お前が高台取れなかったせいで新様に加勢するのが遅れてるじゃねえか」
「3人引き付けたんだから、もうちょっと労いの言葉くらい合ってもいいんじゃないか?」
四津とリンの二名が外周を回って走っている。
高台の白雲から位置がばれないように遮蔽物を最大限利用しながら蒼天院のもとを目指している。
「しかし、遮蔽物が多すぎて迷路みたいだね、これは」
四津がぼやく。
初戦ではほとんど意味を成していなかったが、この25メートル四方のフィールドには遮蔽物が大量にあり簡単には進めない。
さらに障害物の一つ一つは高さもあるため、乗り越えての移動も難しい。
だからこそ索敵に使える中央高台は重要だった。
「FPSゲームだったら待ち伏せ上等のクソステージだな」
「違いないな。お互い注意して進もうぜ・・・ってうおおおお!」
何かに足を滑らせ、四津が転んだ。
「何やってんだお前」
「いや、ここら辺、足元が滑るぞ」
リンが足元を確認する。
「濡れてんな。水魔法か?・・・滑り気があるな」
「10組で水魔法を使うやつは、五十嵐ってやつだけだな」
お互いに立ち止まり、状況を確認する。
「おいハゲ、相手の五十嵐とかいうやつは性質変化を持っていたか?」
「俺はハゲじゃないぞ間違えるな。・・・まあ、性質変化持ちなら成績上位者として公表されているだろ」
帽子を深くかぶり直しながら四津が返事をする。
「だよなぁ・・・」
リンが思考を巡らせる。
ただの水魔法だったら警戒する必要はないが、この水魔法は少し特殊なようだ。
この試合のルールとして、物の持ち込みは禁止されているから魔法なのは間違いない。
魔法に関しての情報は蒼天院家にほとんど入ってくるが、滑り気を帯びる水魔法の性質変化は聞いたことが無い。
性質変化ではないとして、考えられるのは・・・
「土魔法か?」
土魔法と合わせて泥のようにし、滑らせるくらいか。
先ほど触ったときの感触に違和感が残るが、可能性としては一番高いか。
「相手の土魔法使いと水魔法使いは1名づつだったな?この付近に2名いると仮定しよう」
「なるほど土魔法との組み合わせの可能性はあるな。となると大将は奇襲に失敗したか?」
「それか逃げてきたかどっちかだろう。・・・すぐにでも新様に合流したいところだが、ここからはゆっくり進むぞ」
「オーケー」
二人が辺りを警戒しながらゆっくりと進む。
物陰からの奇襲に備え、魔法を使えるように集中している。
そして、その先の遮蔽物の陰に五十嵐はいた。
・・・よし、相手の動きが遅くなった。
最短距離で戻って、ギリギリで相手の進行先に水魔法を展開できた。
なんだかんだ、このぬるぬるする水魔法も使いようだな。
「みんな大丈夫かな?」
心配になり自分たちの頭上にあるモニターを確認する。
うん、まだ誰もリタイアしていないな。
「レオ達の様子も気になるけど、とにかく今は足止めに集中しよう」
足止めだけじゃつまらないし、可能なら倒してやるけどね。
別の物陰に移動し奇襲のタイミングを狙いながら息を潜める。
一方、狙われている二人は、必要以上に警戒している。
足元の滑り気のある水魔法をリンの水魔法で流したり、けん制で物陰に魔法を撃ちながら進んでいる。
確実性を求めるあまり、かなり鈍行になっている。
1人に足止めをされていることに気付かずに。
「っち、面倒くせえな。仕掛けてきてくれた方がやりやすかったな」
「落ち着けって。集中力が切れた瞬間に奇襲かけられたら元も子もないでしょ?」
四津の方は余裕があるが、リンは痺れを切らし始めている。
「新様の方はもう戦闘が始まってるか?クソッ!もどかしいな」
新様の安否を確認するために、頭上のモニターを確認する。
その瞬間、遠くから何かがぶつかるような大きい音と、客席からの歓声が響き渡った。
「なんだ?!」
四津もモニターを確認し、苦い表情をする。
「まずいぜ、こっちが一人やられたみたいだ」
蒼天院の護衛についていた一人が体内魔素切れでリタイアの表記が出ていた。
味方が一人削られ4対5。
先ほどまで冷静だった四津に焦りが浮かぶ。
だが、逆にリンはニヤリと笑みを浮かべている。
「おい四津、奇襲はもう警戒するな。ダッシュで向かうぞ」
「何言ってんの?奇襲されたら危ないでしょ?」
「いまこの付近に潜伏しているのは五十嵐だけだ。間違いねえ」
「一人?どういうことだ?」
突如奇襲を警戒せずに走り出したリンに四津が続く。
「モニターにはリアルタイムで選手の魔素が表示されてるだろ?相手の王を見ろ」
「ほんの少しだけ減ってるな」
「10秒に一度はモニターを確認していたから分かる。間違いなくたった今減った。つまり戦闘に参加しているってことだ」
当初は土魔法と水魔法の組み合わせで足元を滑り気のある状態にしていたと予想していた二人だったが、モニターの情報からそれが否定され、単独で妨害を行っている線が強くなった。
それなら最悪ここで、1人犠牲になってももう1人は新様の加勢にいける。
そう思った瞬間、となりを並走していた四津の姿が消えた。
「四津?!」
物陰から突き飛ばされ、そのまま体制を崩していた。
「っ!!先に行け!」
「分かった!やられんじゃねえぞ!」
一瞥すると、リンは蒼天院のもとに駆けて行った。
そして崩れた体制を立て直し、四津と五十嵐が相対する。
「五十嵐か。いきなり痛いじゃねえか」
奇襲をくらった割には四津君は冷静だな。
もう反撃するために魔素を集めている。
「いいのか?リンは行っちまったぞ?」
「どうしても四津君を止めておきたかったんだ」
「お、嬉しいねー」
駆けだした瞬間に2人同時に足止めは無理だと思って、四津君の足止めにシフトした。
どっちでも良かったんだけど、理由はある。
「四津君の方が勝率は高そうだったしね」
「自信たっぷりだねー。俺そんなに弱そうに見えるかい?」
まあ実際のところ弱そうには見えないし、総合成績も僕の方が下だ。
ただ勝算があるとしたらリンさんより四津君だと思っただけだ。
僕の魔法は風魔法とフィジカルの強さで四津君と相性が良い。
「じゃあ気張ってくれよ!」
四津君が風魔法で空気弾を撃つ。
「勝負だ!」
それを迎え撃つように水弾を撃った。
緊迫した状況を打ち消すかのように、二人の放った魔法が相殺され戦いが始まった。




