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よくあるトラックに轢かれる話

こんにちぱいぱい



「キャー!」「救急車!早く呼べ!」「人が轢かれたぞ!」



新作のラノベを買った帰り道、聞こえてきた車のエンジン音とともに強い衝撃と痛みが駆け巡った。

激しく打ち付けられ体は指先ひとつ動かすことができない。

地面にうつ伏せに倒れ、視界に写るアスファルトには血だまりが広がっている。


(・・・ラノベの続き、読みたかったなー)


あまりの衝撃に神経が焼けてしまったのだろうか。痛みを感じることすら出来なくなってしまった僕は、読み損ねた新作のラノベのことを考えていた。


(ずっと読み続けてたラノベの最終巻なのに、せめて結末を見てから死にたかったな)


小学生の頃から読み続けていた大人気ファンタジーライトノベル、その最終巻の発売日が今日だった。

危険なモンスターが跋扈(ばっこ)する異世界で、勇者の末裔の主人公が世界の命運を賭けて魔王討伐の旅をする王道ファンタジーライトノベルの金字塔。

このラノベでファンタジーが大好きになったし、魔法や異能力に強い憧れを抱くようになり、同じ趣味を持つ仲間もできた。

憧れすぎて数年前は酷い中二病を患っていたが、いい思い出だ。

そんな自分のルーツとも呼べるラノベを読めずに死を迎えてしまうのは、残念という感情では言い表せない。


(・・・・・・やばい、意識が消えそうだ)


僕を中心に辺りが喧騒にまみれているが、思考すらままならない今の僕ではどこか他人事のような感覚だ。


そんな風前の灯火のような意識の中で、声が聞こえた。


「可哀想に。私は天の使いの者。何か望みがありますか?」



天の使い・・・天使?

この声がどこから聞こえるのかすらわからないが、騒めく群衆の中でも確かにはっきりと聞こえた。

死の狭間で、正気すら失われてしまったのだろうか。

なんとなく、頭の中で答えてみた。


(今の世界には不満はないけど、次に生まれるときは魔法が使えるファンタジーな世界がいいな)


稚拙な願いだと自分でも思うが、この短い人生で最も憧れを抱いた魔法世界に足を踏み入れて見たかった。

そして魔法を操り、冒険をしたかった。


「魔法が使える世界ですね。わかりました。」


騒がしい中、この声だけがやけに頭に響く。


(・・・あれ?いま頭の中で考えただけで会話が通じなかったか?)


自分の気が触れたのかと思ったが、間違いなく自分以外の誰かの声が聞こえる。


「今の世界に不満はないらしいので似ている世界に転移させてあげましょう!言葉もわかるようにしておきます!今なら出血大サービス!あ、違いますよ?あなたが血だらけになっていることにかけたジョークではないですよ、フフフ!成人するまでは衣食住に困らないようにしてあげますね!それでは、いってらっしゃーい。」


自称天使のテンション高すぎる。


(なんか、体が温かい。さっきまで何も感じなかったのに・・・)


そして、自分の体が淡い光に包まれていることに気付いた。

・・・なんか傷が治ってないか?

あれ、体が透けてきた!?

これは異世界転移ってやつか?それともあの世に行くってことか?

ちょっと待て!色々聞きたいことが・・・!


なぜこんなことが起こったのかまったく理解できないまま、俺の意識はそこで途切れた。





「待って!聞きたいことが山ほど・・・・・・ってあれ?ここ、どこだ?」


意識が戻ると、見知らぬ部屋にいた。

さっき車に轢かれて死にかけていたのは夢だったのかと思い、記憶を呼び起こす。


「いや、夢じゃない。どの記憶も鮮明すぎる・・・」


夢ならば、詳細が曖昧になりがちだがそれがない。

念願のライトノベルの最終巻に思いを馳せてあまり眠れなかったことや、買った時の高揚感、薄れ行く意識の中で感じた死の感覚も、あまりにも現実的すぎた。


ふと周りを見渡すと、窓から光が差し込んでいる。

昼過ぎくらいだろうか。

外では子供が遊んでいる声が聞こえてくる。


本当に異世界に転移したのかと思い内心期待を抱きながら窓に近づく。しかし窓の外に広がっているのは、日本のそこら辺にある住宅街と何ら変わりない光景だった。


「まあ異世界転移なんてあるわけないか」


じゃあここはどこなのだろうと、改めて考え部屋を見渡した。

畳の部屋、タンス、キッチン、ちゃぶ台。


「なんだろうあれ?」


ちゃぶ台の上に置いてある真っ赤な本に気づいた。

手に取って、確認してみる。

ポタリと、雫が畳に落ち染みを付けた。


「嘘だろ、これって・・・」


轢かれたときに手に持っていた、いまだ血が乾ききっていないライトノベルだった。

手から本が零れ落ち、血が辺りに散らばった。

反射的に轢かれたときに強く傷をつけた左腕や頭を触る。

痛みどころか、傷すらついていない。

しかし、それについている僕の血の手形が現実の出来事だと、嫌でも分からせてきた。


「本当に、転移しちゃったのか?」

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