4話 第一異世界人、そして披露
そう、これがご都合主義である!
町を目指す。簡単に言っても現実はそうとはいかない。まず生きる上で必要な水や食料がない。そのうえ地図も方向を示すものも何もないのだ。
魁も最初は楽観的だったが、数分後には顔を青くさせていた。
「…これはまずい。まず過ぎる。」
数時間過ぎたころには、誠心誠意謝っていた神に、魁は文句の一つでもつけてやろうと思っていた。しかしそんな考えは霧散し、感謝の言葉を口にしていた。
「おい、お前、なんたってこんな森の中にいやがるんだ?」
そこには、いかにもな皮鎧を身に着けた厳つめな見た目の冒険者(?)風の男がいた。
「神様ッ!!!」
「うおっ!なんだよ!どうしたってんだ!?」
「い、いやぁ、実は道に迷っていたところにお兄さんが現れたもんですから、つい、」
「お、おう。そうか。災難だったな、お前、」
「あ、お兄さん町に続く道って知ってますか?」
「あぁ。俺はリガールから来たから、リガールで良けりゃあ道を教えてやるぞ」
「ありがとうございます!!」
「だが、悪いがただじゃあねえ。お前さんは今あったばかりだからな」
「…ですよね。でも俺、一文無しで…」
「あぁ、金なんかいらねえよ。お前さんが何で飯食ってきたかわかるモンがあればそれでいい」
つまりこの冒険者(?)は職業を明かせ、と言っているのである。商人や貴族ならそれを示す紋章、料理人なら料理、戦いに身を置く者ならば装備を見て、職業を図る方法である。
「あぁ、なるほど。では音楽を披露します!」
「音楽?」
「はい!冒険者さん?はどんな曲が好きですか?」
「ヤンでいいぞ。そうだなぁ。音楽なんざ吟遊詩人のかおふくろの子守歌くらいしか知らねえからなぁ。なんかこう、力がみなぎる感じの、あるか?」
「任せてください!では、La Marseillaise(フランス国歌)です!」
今は俺しかいないため、楽器はない。しかしなんと、フランス語なんて習ったこともないのに歌う時だけ発音から文法、意味までもスラスラわかるのだ。現実逃避の副産物ではあるのだが。
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「ど、どうでした?」
「うおぉぉぉ!!!」
「おい兄ちゃん!すげえ、すごすぎるぜ!!なんかこう、内側から震える感じだぜ!」
言語が違って通じないかと心配していた魁だが、いらぬ心配だったようだ。なんともご都合主義ここに極まれりといった感じである。
「これは戦地に向かう戦士たちが歌った、正真正銘の戦いの歌ですから!」
まったくフランスとは縁のない魁だが、音楽の授業でこの歌を聞いたときにドハマりしたのだ。
「あぁ!そうだろうぜ!よし!俺がリガールまで送ってやろう!この森はあぶねえからな!」
「本当ですか!?ヤンさん、ありがとうございます!」
「あんな良いもん聞かしてくれたんだ、なんてことねえさ」
「いや~もっと人がいればより一層かっこいいんですがね」
「な、いったいどういうこった!?」
「え、いやね、楽器隊なんかがいればもっとかっこよく」
「すぐに手配しよう!!さぁ、そうと決まればさっさとリガールまでいこうぜ!」
「は、はいっ!」




