1話 今世にさよなら
「やっぱ川山画音は天才だな、、、」
ついさっきリリースされた新曲を聞き終えた俺、柳魁はいつも通りの道を通ってバイトからの帰路に就いていた。右手にスマートフォンを持ち、左手に水が入ったペットボトルを持ち、スマホから発される熱と、ペットボトルが発する冷気を楽しんでいる。ように見せるのに必死だった。
(やべえ今日はあったかい飲み物にしとくべきだったっ!この気温はやばすぎる!!!)
「柳君は本当に見栄っ張りだねぇ」
そう言ってくるのはバ先の先輩、高崎麗凪である。この先輩はなぜか俺が見栄を張っていることに気づいている。(店員や常連の客も気づいている)
そして通っている大学が同じであることが分かった。ひとしきり嫌な教授トークで盛り上がったその日の帰り道、やけに道が被るなと思ったら、住んでいるアパートが彼女の家の道を挟んでお向かいさんであることが分かった。
「…さあ、何のことやら僕にはわかりませんね」
「ふふふ、柳君が嘘ついてるときの癖がわかるからね」
「なっ、、、!そんな癖あったのか俺、、」
「しかもすっごくわかりやすいよ、その癖」
「…いつか俺もぎゃふんといわせてやりますよ」
「いつになるのやら。まぁ、まっててあげようじゃないか」
そんなこんなでもう家に着く。今日も良くも悪くもない一日だった。先輩におやすみでも言って帰ろうとしたその時、後ろからまぶしい光と唸るようなエンジン音が聞こえてきた。
「おっ、おい!!兄ちゃんたちあぶねえぞ!!」
ばっと後ろを振り返ると、大型トラックが近づいてきていた。
(やばい!!!)
とっさに先輩のほうを見ると、完全に呆けていた。
「先輩!!」
咄嗟にタックルするように歩道に接している民家の塀のほうに跳ぶ。そして彼女をかばうように塀に当たる。
ドガッ
「痛ってぇ、、あっ、先輩!大丈夫っすか!?」
「う、うん。あっ…柳君、血が…」
「あれ、そういえば、なんか、力はいんないや」
「嘘、嘘!柳君、しっかりして!」
「おい!こっちの兄ちゃん、頭から血でてるぞ!救急車呼べ!」
(あぁ、もうだめか。もっといろんな邦楽に触れたいなぁ。先輩とも、もっと一緒にいたかった。)
「先、輩、お、元気、で」
「馬鹿な事言うな!絶対大丈夫だよ!絶対、絶対大丈夫だよ!」
「い、え、僕、には、音楽、あれば、だい、じょうぶ」
「こんな時にも、君はかっこつけるの、?」
「せ、んぱいが、笑って、くれるかと、おもって」
「…」
「たのし、かったです。いままで、あ、りが…」
そうして俺は交通事故ではなく、回避行動中におけるしょーもない事故で死んだ。




