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宣戦布告に御武運を

「宣戦布告ですわ!」


 王宮に到着して回廊を進むコレットを出迎えたのは、亜麻色の髪の美少女だ。

 これぞ絵に描いた貴族のお嬢様という優雅なドレスに身を包み、三人の使用人と共に回廊のど真ん中を陣取っている。


 ――王宮への招待を断ることは、王子への恋心をこじらせているのと同義。


 前代未聞の冤罪を聞いてしまった以上は放置できず、家の立場も考慮した結果とりあえず王宮に行くことにしたわけだが。

 到着早々、何とも面倒くさそうな人物に遭遇してしまった。


 邪魔だとは思うけれど、王宮に入れるくらいなのだからそれなりの家の御令嬢だろう。

 どいてもらうよりもコレットが端を通った方が早いし、平和だ。


「御武運を」


 無視して通り抜けるのもどうかと思って挨拶するつもりが、謎の激励の言葉になってしまった。

 何と戦うのかは知らないが、頑張ってほしいものである。


 だがすれ違う瞬間、コレットの目の前に華やかなドレスに包まれた腕が伸びる。

 急だったので止まるのが間に合わず伸ばされた右腕に触れると、腕の主が甲高い悲鳴を上げた。



「ああ、わたくしの美しくか弱い腕が!」

 そう言うなり大きくよろめいた少女は、倒れかけた体を使用人達に支えられている。


「ナタリー様に、何ということを」

「暴力だなんて、あんまりです」

「骨が折れたらどうするのですか」


 使用人達が口々にコレットに文句を言い出すと、苦痛を堪えるような表情の少女……ナタリーが、それを制する。


「おやめなさい。きっと、この方に悪気はないのです。卑しい生まれと育ちゆえに、暴力を暴力と認識できず、すべてを力で解決してきたのですわ。ですが、いくら野蛮で下品だとしても、わたくしは人としてこの方に接したいのです」

「ナタリー様、何と慈悲に溢れたお言葉!」


 使用人たちの称賛を浴びたナタリーが、満足そうにうなずきながら右手で使用人達の頭を撫でている。

 普通に腕を動かしているところを見る限り、特に負傷してはいないようだが。

 何だかチラチラと使用人達の視線が突き刺さるのは、何か言えということだろうか。


「ぶつかってごめんなさい。でも急に人の前に腕を出したら危ないわ」

 謝罪と注意を口にした途端、使用人達が一斉にコレットを睨みつける。


「我が国の歩く至宝ナタリー・エルノー公爵令嬢に対して、なんという無礼!」

 無礼も何も歩く人の前に腕を出したのはナタリーの方なのだが、そこには触れないらしい。



「……もしかして、当たり屋?」


 街の中でも、わざと人や荷物にぶつかって慰謝料を請求する人がいる。

 幸いコレットは遭遇したことはないが、聞いた話では相手が悪いのだと周囲を巻き込んで糾弾する場合もあるらしい。


「重ね重ね無礼な! 公爵令嬢がそのような真似をなさるはずもないでしょう!」

「そうよね。お金に困っているとは思えないし」


 見る限りナタリーのドレスは高価そうだし、コレットから小金をせびる利点などないはずだ。

 そもそもコレットはお金を持っていないので、小金すら支払えないのだが。


「……だとすると、何で腕を出したの? 戦の前の準備体操なら、もっと広い場所でやった方がいいわよ」

「あなた、コレット・シャルダン伯爵令嬢ですわよね」


 使用人達を手で制すると、ナタリーはコレットの前に出てくる。

 両腕を腰に当てて人を見下すようにふんぞり返る様が、とてもよく似合っていた。


「よく知っているわね」

「もちろん。エリク殿下を誑かす下賤の者がいると有名ですもの」


 下賤はともかく誑かすは言いがかりだと思ったが、実際エリクは女神の魔法に誑かされているのでそういう意味では正解とも言える。


「つまるところ、私が気に入らないから文句をつけに来た、ということ? 宣戦布告って、私に?」

「とぼけても無駄ですわよ。エリク殿下の妃に必要な美貌、教養、慈愛の心……全てを兼ね備えるのは、わたくしです!」


 よくもまあ自分で自分を褒めるものだと感心してしまうが、実際に美少女だし血筋もいいらしいので仕方がないか。

 慈愛の心という部分は若干怪しいが、そのあたりはどうにでも誤魔化せる。


 ……いや、待て。

 何となくナタリーの話を聞いていたコレットは、重要なことにようやく気が付いた。



「あなたもしかして、あの王子のことが好きなの⁉」

「そ、そういう直接的な物言いが、品がないと言うのです」


 自分が美人で素晴らしいと自画自賛する方が余程品がない気がするが、そのあたりは生粋の貴族との感覚の差なのだろうからどうでもいい。

 重要なのは、ナタリーはエリクに好意があるかどうかである。

 コレットはナタリーに近付くと、じっとその瞳を見つめた。


「好きなの、嫌いなの、どっちなの⁉」

「……わ、わたくしの方が、エリク殿下を長い間想っていましたのよ!」

 何故か少し怒った様子で訴えるナタリーの手を、ぎゅっと握りしめる。


「――お似合い!」


「そう、わたくしとエリク様はお似合い……え⁉」

 間の抜けた声を出したかと思うと、ナタリーは首を傾げる。


「美貌に教養に過剰な自信と身分までばっちりだし、お似合いだわ。良かった、いい人がいるじゃない。これなら安心ね。それじゃあ、王子のことは任せたから、私は帰るわね!」

 勢いよくナタリーの手をぶんぶんと振ると、そのまま颯爽と踵を返す。


「――どこに行くのかな」


 決して大きくはないのによく通るその声に、コレットの動きがぴたりと止まる。

 恐る恐る振り返ると、そこには黒髪の麗しい王子が立っていた。





次話 「出入り禁止の交渉をしました」

 ほどほどの平手で、出入り禁止を目指します!


明日も1日2話更新予定です。



【発売予定】********


12/21「さあ来い、婚約破棄! 愛されポンコツ悪女と外堀を埋める王子の完璧な婚約破棄計画」

  (電子書籍。PODにて紙書籍購入可)

12/30「The Dragon’s Soulmate is a Mushroom Princess! Vol.2」

  (「竜の番のキノコ姫」英語版2巻電子書籍、1巻紙書籍)


是非、ご予約をお願いいたします。

詳しくは活動報告をご覧ください。


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― 新着の感想 ―
[一言] エリク殿下の妃には暴力も必要なんです。 だって靴を投げたり足蹴にして衝撃を与えなければいけないから。
[一言] 変態はコレットとくっついた方がいいって ツラに騙されて内面を見ない貴重な人材だ 最悪コレットに名義貸しして書類上はナタリーと結ばれたことにすれば
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