おとぎ話の締めくくり
魔法のiらんど第1回恋愛創作コンテスト 編集スカウト部門受賞作!
「灰かぶらない姫 女神のありがた迷惑恩寵でイケメン王子が求婚してくるけど、私は絶対に落ちません!」に改題して、タテスクコミカライズされました!
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女神といえども、時間と心に完全には干渉できないらしい。
正確に言えば、美学に反するから嫌なのだという。
今回、女神はまずエリクがコレットに興味を持つように魔法をかけた。
更にガラスの靴に祝福を詰め込んで渡したが、片方が破壊されたことで祝福『ラブラブときめき乙女ライフ』が発動。
本来は地味に祝福が滲み出て、最終的に靴が消える頃には自然と好意が育まれているはずだったが、一気に発動したせいで多少効果が強めに出たのだという。
「王子の態度が変化したのは、魔法が弱まったせいです。でもガラスの靴が片方残っていたから、完全には消えなかったのでしょう」
女神の説明を大人しく聞いていたが、結果は同じことではないか。
「だから何なの。魔法が消えて、私のことはどうでも良くなったんでしょう」
「ちょっと違います。私がかけた魔法は『コレットに興味を持つ』です。これが弱まったから、興味も弱まりました。そして魔法という枷が外れたから、今はすっかり王子自身の意思が戻ったわけです」
「……だから、魔法が消えて、私のことはどうでも良くなったんでしょう」
同じことを言われても困るし、何度も興味がないと言われるのもちょっと切ない。
だが女神は呆れたと言わんばかりに腰に手を当ててため息をつく。
こういうどうでもいいところで実に人間臭い女神だ。
「さっきの王子の言葉を忘れました? 好きだと言っていたでしょう?」
言った、確かに言っていた。
「どういうこと?」
興味を失ったコレットに対して言う言葉ではないし、単にナタリーを撃退する口実に使われたということだろうか。
いや、それにしてはその後も口にしていたような気もする。
「私の魔法は強制で装着した仮面のようなもの。その下には本人の意思が存在します。仮面が壊れた今、表に出ているものは王子の本心に他ありません。……ちなみに、興味関心を持つ以外の作用はなかったので、変態じみた好意はもともとすべて王子本人のものですよ」
後半もそこそこ嫌な驚きなのだが、さすがに前半の衝撃が強くて今は気にしていられない。
「嘘」
短くそう放つと、美貌の王子はゆっくりと首を振る。
「本当だよ。最近どうもコレットに好きだと伝えられないし、まともに見つめることもできないし、手紙すら書けなくて困っていたけれど。全部女神の魔法の残りカスのせいで行動が制限されていたみたいだね」
そう言ってコレットを見つめる瞳には、懐かしい優しさが感じられる。
「コレットからすると急に態度が変化して驚いたよね、ごめん。どうにか戦ってみたけれど、手強くて首が変な筋肉痛になったよ」
そりゃあ、あれだけ力を入れていたら当然のことだろう。
「でも、私のことがどうでも良かったのは事実じゃない」
「……そんなに寂しかった?」
軽口だとわかっている。
魔法のせいで行動に制限がかかっていたのなら、エリクだって大変だったのだろうとも思う。
それでも、胸の中に渦巻く感情はそんな言葉では慰めきれない。
「そんなの――寂しいに決まっているでしょう!」
悔しいし、寂しいし、ちょっとほっとしたし、嬉しいし。
変態は素だと聞いて引いてもいる。
よくわからない気持ちが溢れて、胸が苦しい。
また視界がぼやけて来たけれど、意地でも泣いてなんかやらない。
「うん……寂しい思いをさせて、ごめんね」
エリクは少し驚いたように瞬くと、すぐに優しい声と共にコレットをパンとガラスの靴ごと抱きしめた。
「もう、あんなのは嫌よ」
「うん」
「ちゃんと、そばにいて」
「うん」
抱きしめながらコレットの頭を撫でるエリクの声は、どこまでも優しい。
「……何でも『うん』って言うの?」
「コレットの望みなら、叶えるよ」
そう言われると嬉しいけれど、望みと言われてもすぐには思い付かない。
「じゃあ、私と一緒に女神にパンをぶつけてくれる?」
「いいよ。余計なことができないように、しっかりと釘を刺した方が良さそうだし」
「釘⁉」
女神が慌てて手で頭を押さえているが、何故頭部に一撃をくらうと思っているのだろう。
「とりあえず、女神に関する書物の『尊い・ありがたい』を『首に厳しい・ありがた迷惑』に書き換えさせよう」
「そんな⁉」
動揺の声が耳に届いたが、今は気にしないでおこう。
「コレットも、俺の望みを叶えてくれる? ――好きって、言ってほしい」
「……それだけ?」
首を傾げるコレットに、エリクは少しだけ眉間に皺を寄せる。
「大事なことだよ。嫌いじゃないとは言われたけれど、ちゃんと言葉で聞きたい」
そういうのは乙女が要求するもののような気がすると思いながらちらりと横を見ると、女神が輝くような満面の笑みでこちらを見ていた。
わくわくと顔中に書いてある女神は、コレットの視線に気付くと何故か胸を張る。
「大丈夫です。私は空気の読める女神ですよ!」
勘違いも甚だしい宣言と共に女神はあっという間に姿を消し、あとにはきらきらと光の粒だけが残った。
今更女神の一人や二人いてもどうでも良かったのだが、まあいいか。
コレットはエリクの胸を押して少し距離を取ると、その美しい紺色の瞳を見つめた。
「エリク様のこと、好きよ。……変態じみた部分以外は」
「うん、ありがとう。俺はコレットの平手打ちなら両頬に受けたいくらい大好きだよ」
「だから、そういうところよ」
眉間に皺を寄せるコレットに構わず、嬉しそうに微笑んだエリクはそのままひざまずく。
靴を履いていなかった足をガラスの靴に収めると、コレットの手を取ってまっすぐに見上げた。
「――コレット・シャルダン。俺と結婚してください」
月の光を浴びて輝く笑顔に目を細めたコレットは、そのまま残っていた自分の靴を脱いであっという間に池に投げ入れた。
「女神、出て来―い!」
コレットの叫びに呼応するように姿を現した女神は、落ち着かない様子で頭上の靴を取って握りしめている。
「え、何、何ですか?」
「今のエリク様の言葉は、女神の魔法と無関係?」
大事な質問をぶつけると、女神は顎が外れんばかりに口を開いた。
「嫌です、信じられません。ムードぶち壊しじゃありませんか、もう!」
「仕方がないでしょう。前科持ちだし」
コレットは何も頼んでいないどころかいらないと言ったのに、勝手に『ラブラブときめき乙女ライフ』を押し付けたのだ。
警戒するのも当然である。
「私は尊くありがたい女神ですよ⁉ 前科持ちだなんて酷いです!」
「さっき、首に厳しいありがた迷惑の女神に改名したじゃない」
「してませんっ!」
「それなら、女神らしくいい感じの雰囲気にしてみせてよ」
ぷんぷんと怒っていた女神の白い瞳が、コレットの言葉にきらりと輝いた。
「リクエストですか。挑戦ですか。どちらにしても受けて立ちますよ!」
女神が勢いよく手を広げると、途端に夜空いっぱいに星がきらめき、流星がこぼれ、どこからか甘い花の香りが風に乗って届いた。
一瞬での見事な変化に、コレットはうなずく。
「うん、綺麗。パンを投げつけるのは今度にしてあげる」
ぐるりと空を見回し深呼吸をすると、コレットは女神にパンを差し出す。
「え、結局投げるのですか?」
少し困った表情の女神はそれでも素直にパンを受け取ると、大袈裟に肩をすくめる。
「まあ、いいです。これからもまだまだ私の祝福を送りますよ!」
「もう大人しくしてくれない?」
気持ちはありがたいけれど素直に喜べないのは、仕方がないことだと思う。
だが、女神に引き下がる様子はない。
「駄目です。私、あなたのことが気に入っているんです。好きなんです。嫌がられても逃がしませんよ。必ず祝福してあげますからね!」
まるで悪役のような高笑いと共に、女神は光の粒になって姿を消した。
ほぼ脅迫だし、本当にウザい。
それでも何だか憎めないのは、女神ゆえの特性だろうか。
「それで、コレット。返事は?」
「ああ、結婚ね。……うん、いいよ。結婚する」
身分差をはじめとして色々あるのだろうが、ここまで来たら自分の気持ちに正直に生きていきたい。
きっと、母もトゥーサンもそれを望んでくれるはずだ。
「良かった。俺もコレットを手放す気はないし、独占したいし、ちょっとその靴で踏まれたいくらいには好き」
「だから、エリク様の話は後半が怖いのよ。やっぱり変態じゃない」
よく考えると前半もおかしいのだが、何だかもう感覚が鈍くなっているのかもしれない。
それでも嫌ではないのだから、困ってしまう。
エリクは残っていたガラスの靴をコレットに履かせるが、女神が作っただけあってサイズはぴったりだし、履き心地もいい。
ドレスの裾を摘まんでじっと足元を見るが、月の光を弾いて七色に光る靴は夢のように美しかった。
「女神に祝福されて伝説のガラスの靴でプロポーズだなんて、おとぎ話みたいね。『女神にガラスの靴を賜ると真実の愛を手に入れて幸せになる』だったかしら」
ただの作り話だと思っていたけれど、案外本当のことなのかもしれない。
その祝福が想像よりもだいぶウザいので、手放しでは喜べないけれど。
「おとぎ話の締めくくりには、まだ足りないものがあるよ」
「何?」
するとエリクは微笑んで、コレットの頬に手を滑らせる。
「――王子様の、キス」
エリクの麗しい顔が迫ったかと思うと、そっと唇が重ねられる。
「エリク様」
「うん?」
鼓動がバクバクと落ち着かないまま腕を伸ばしてエリクの顔を引き寄せると、コレットはその頬に唇を寄せた。
互いに頬を赤らめたまま、じっと見つめ合う。
「私、王子様に幸せにされるだけのお姫様じゃないわ」
「知っている。何せ伝説のガラスの靴を叩き割ったくらいだからね。それじゃあ、俺を幸せにしてくれる? たくさんコレットをちょうだい」
コレットの腰を抱き寄せたエリクは、そのまま頬を撫で、額と頬に順に唇を落とす。
ただでさえ麗しい顔が至近距離にある上に、抱きしめられてキスされるという事態に、そろそろ鼓動も限界を迎えそうだ。
「大好きだよ、コレット。これから俺の気持ちを余すところなく伝えるから、覚悟して」
心臓が爆発しそうな甘い吐息と声に、何もかも忘れて抱き着きそうになるのだからエリクの存在が恐ろしい。
大体、既に十分変態気味に伝えられていた気がするのだが、あれ以上何をするというのだろう。
「ま、負けないから!」
「これからが勝負だね」
既に色気で瀕死のコレットが力を振り絞って顔を上げると、嬉しそうに細めた紺色の瞳が目に入る。
星空を写し取ったかのような美しい瞳に映るコレットの姿はどんどん大きくなり。
ついにコレットだけがその瞳に映ると、二人の唇がゆっくりと重なった。
これで「灰かぶらない姫」は完結です。
お付き合いくださり、ありがとうございました。
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