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絶対に間違えない

 その音で呪縛から解き放たれたコレットは、勢い良く立ち上がると扉に向かって走る。

 すると開いた扉からアナベルと青年が室内に駆け込んできた。


「殿下はどこです、さっさと出しなさい!」

「コレット、大丈夫? 危ないからこの人から離れて」


 青年に鋭い眼差しで睨みつけられたかと思うと、アナベルの腕の中に収められる。

 一体何なのかわからないが、アナベルと青年はひたすらに謎の言い争いを続けていた。


「私の可愛いコレットが、監禁なんてするはずないでしょう」

「実際に殿下のお姿が見えない以上、疑わしい人物に事情を聞くのは当然です」


「あなたの目は節穴ですか? この天使のように愛らしいコレットの、どこに疑わしい要素があるのです」

「あなたこそ目を調べてもらった方がよろしいのでは? 天使と言えば、私のナタリー一択! 異論は認めません!」


 ぎゃあぎゃあと不毛な会話が続くが、もしかしてこの青年がアナベルが言っていたジェレミー・エルノー公爵令息だろうか。

 日頃から妹自慢で競っていると言っていたが、まさかこんなに熱いどうでもいい会話だとは思わなかった。

 アナベルに抱きしめられながら、呆気に取られてしまう。



「何の騒ぎだ?」


 図書室の奥から姿を現したエリクに一瞬で静かになって二人共礼をする辺りは、さすが生粋の貴族と感心しきりだ。


「殿下、ご無事でしたか。このような下賤の者に閉じ込められるなど、さぞ不快だったことでしょう。やはり、殿下には我が最愛にして天使のナタリーが相応しいのです」

「聞き捨てなりません。天使の座はコレットのもの。これほどに愛らしい存在はこの世のどこにもいませんから!」


 王子の前でもどうでもいい妹自慢が始まってしまった。

 だが、これはチャンスだ。


 この機会にナタリーを推しておけば、女神の魔法が消えた際にもスムーズに本来のお相手に移行できるだろう。

 これでコレットへの興味を失ってくれれば、儲けものである。


「お姉様。エルノー公爵令嬢は身分も容姿も自信もモリモリのいい感じのお嬢様よ。ああいう何事も誰にも譲らない鋼の精神を持つ人こそ、王子の妃に相応しいと思うの」


 あれだけ自信満々でポジティブなら、何があろうと元気に乗り越えていくはずだ。

 するとジェレミーが目を丸くし、アナベルの眉間に一気に皺が寄った。


「何だ。姉と違ってわきまえたいい子じゃありませんか。ナタリーが妃になった暁には侍女になりますか?」

「それは嫌」


 ただでさえ貴族的なあれこれに慣れていないのに、そのど真ん中になど行きたくない。

 大体ナタリーが妃になったら絶好調でわがままになるのは目に見えているし、絶対にコレットに当たるだろうから遠慮したい。



「勝手に俺の妃を決めるな」

 エリクは呆れた様子ではあるけれどそれほど驚いていないらしく、どうやらこういったやり取りには慣れているようだ。


「それから、ジェレミー。コレットに対して下賤などという言葉を二度と使うな」

 じろりとエリクに睨まれてジェレミーは一瞬黙るが、すぐに口を開く。


「ですが、すべての条件でナタリーが圧勝です。もはや勝負にもなりません」

「馬鹿を言わないでください。コレットは可愛いです。可愛さだけで世界を統一できます」

「ナタリーなら世界の神になれます」

「コレットこそ世界です」


 だんだんスケールアップして天使どころかその上にいっているが、この二人はどこまで本気で言っているのだろう。

 異母姉も女神の魔法がこじれているのかもしれないと心配になるが、今はとにかくここから離れたい。


「どんな条件も関係ない。俺がコレットを選んだのだから、それで十分だ」

「私にも選択肢をちょうだい!」

 エリクに不満をぶつけると、優しい笑みと共にうなずかれる。


「じゃあ、今すぐ結婚と今すぐ婚約、どっちにする?」

「それ、どっちも同じ! どっちもしない!」


 何故その選択肢で二択が成立すると思ったのか、美しい黒髪の頭を叩いて問い詰めてやりたい。

 ……いや、頭部への衝撃でまたおかしなことになったら困るから、駄目だ。

 どうにもならないけれどせめてもの抵抗として睨みつけると、何故かエリクは嬉しそうに口元を綻ばせる。



「まあ、何にしても逃がすつもりはないよ」

 美という言葉が裸足で逃げ出すほどの眩い微笑みに、混乱と羞恥でコレットの頬が一気に赤くなる。

 アナベルは満足そうにうなずいているし、ジェレミーは視線でコレットを抹殺しそうな勢いだ。


 本当に、もうどうしようもない。

 女神の魔法よ、早く消えて。

 胸よ、頼むからドキドキしないで。


 偽りの恋に落ちてから魔法が消えて捨てられるなんて、嫌だ。

 絶対に間違えない!

 コレットは固く誓うと、早まるばかりの鼓動に耐えるべく、ぐっと唇を噛みしめる。


 これはもう……物理的に距離を取るしか生きる道はない。




次話 「領地への逃避行」

 物理的距離確保のため領地に向かう馬車に乗り込んだコレットを待つのは……!?


夜も更新予定です。



【発売予定】********


12/21「さあ来い、婚約破棄! 愛されポンコツ悪女と外堀を埋める王子の完璧な婚約破棄計画」

  (電子書籍。PODにて紙書籍購入可)

12/30「The Dragon’s Soulmate is a Mushroom Princess! Vol.2」

  (「竜の番のキノコ姫」英語版2巻電子書籍、1巻紙書籍)


是非、ご予約をお願いいたします。

詳しくは活動報告をご覧ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「ナタリーなら世界の神になれます」 >「コレットこそ世界です」 そこまで言うなら現役の女神に出張ってもらうしか 女神と変態王子のカップルとかとてもウザそうだけど
[一言] ジェレミーとアナベルの妹自慢は面白いです。 妹二人のいないところでぜひ聞きたいです。
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