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いいなずけ無双~中身が小学生男子な学園一の美少女と始める同居生活が色々とおかしい~  作者: ひだまりのねこ


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第七十話 居場所


 やっと寝たか。


 おかげですあまを食べ過ぎて、すっかり胃袋をつかまれてしまったではないか。



「それにしても天津命……なんという無防備な寝姿」


 長く伸びた首と手足……もはや化物だな、ふふふ。そしてターゲットで許嫁。どうしてこうなったのだろう……。


「……この子のせいだきっと」


 いびきをかいて眠るひだにゃんをひたすらモフる。かわいい。  


「さて、そろそろ行くか」


 名残惜しいがいつまでもこうしてはいられない。



「いってらっしゃい。気を付けてね」


「っ!? 桜花……さん」


 この人は苦手だ。気配がまるで読めないし、心の奥底まで覗かれているような気がして居心地が悪い。


「なぜ私を自由にしているんだ? 私の正体に気付いているんだろう?」


「そうだね……でもその理由は理子ちゃんが一番よくわかっているよね?」


 やはり苦手だ。でもまあいいか。邪魔されないなら今はそれで。


「……行ってくる」





「遅かったですね、リコリス。状況を聞きましょうか」


 黒衣の拠点に戻り、頭領に経過の報告をする。


「……天津命、想像以上の手練れ。周囲の人間も隙が無く、計画の練り直しが必要」


 実際は隙だらけで、想像以上にモチモチしていて美味しかった。



「……お前ほどの手練れでも難しいのですか!? やはり簡単な任務ではないようですね。それで……どうするつもりですか?」


「居候としてターゲットの家に住み込むことに成功した。少し時間はかかるが、油断させてから確実に仕留める」


「なるほど。さすがはリコリス。絶対に失敗が許されない以上、それしかないか。だがあまり時間はないですよ。いざとなれば刺し違えてでも……わかっていいますね?」


「……わかっている」







「はぁ……はぁ……」


 必死に呼吸を整える。感情が暴走したがっている。


 危なかった……あと一歩で殺してしまうところだった。


 

 風呂で撫子に傷を消されたとき、封じられていた記憶が蘇った。


 血の海と燃える屋敷。


 私を逃がそうと必死で時間を稼いでくれた家族や使用人たち。


 ずっと忘れていた。その事実が許せない。


 

 天津命を食べたとき、世界の視え方が変わった。


 私の中に眠る力……彼岸家の魔眼……死者の残した記憶や思念が見える。


 

 頭領に染みついた殺された者たちの思念が教えてくれた……自分たちの悪事が暴露されることを恐れた黒津家によって……私の家族や一族は殺されたと。


 どんな顔をすれば良い? これまでそんな奴らに道具のように使われてきた私は何を思えば良い?



『貴女の名前は理子よ。人の気持ちがわかる優しい人になりなさい』


『感情で動いてはいけないよ。世の理を見極めなさい。道理を知り摂理をおさめれば、自ずと正しい道が開けると知りなさい』


 優しく聡明だった両親。


 許せない……絶対に!!


 だから……殺す? 


 

 黒衣の者は皆私と同じような境遇で記憶を消されて使われているだけ。


 犠牲者同士が殺し合って何になる?


 黒津家をなんとかしなければこの連鎖は止められない。


 悪事の証拠を集める……? 駄目だ。そんなものを残すようなへまはしないし、仮にあったとしても揉み消されるか、トカゲの尻尾切りされて終わってしまう。


 黒津家の人間を消す……?


 仮にも直下五家、根回しもなしにそんなことをすれば、一族全てを敵に回すことになる。私一人ではいずれ返り討ちに合って野垂れ死にするだけ。


 考えろ……一体どうすればいい?



『理子ちゃん、困ったことがあったら何でも相談してくれ』


 天津命……そういえば、そんなことを言っていたな。


 ……相談してみるか。


 冷静になれば、あいつは黒津家の本家、宗主家の嫡男。次期当主となれば道は開けるかもしれない。


 


「…………」


 びよーん


 天津命の体を伸ばして懐に潜り込む。


 あたたかいな……誰かの温もりを感じながら寝るなんていつ以来だろう。


 ぽかぽかのパンケーキみたいな奴だ。さっきあれだけ食べたのに、また食べたくなってくる。


 もきゅもきゅ……ほのかな甘さがくせになる。



「父さま……母さま……」


 かすかに憶えている温もり。甘いはずのすあまが今はしょっぱい。


 おかしい……もう涙など……人の心など失くしたものだと思っていたのに。



「むにゃむにゃ……理子ちゃん……食べたらちゃんと歯を磨くんだぞ……むにゃむにゃ」


 なんだ……寝言か。


「まったく……私は年上だと何度言えば……」


 見ず知らずの私にぬいぐるみをくれたり、家に連れて帰ったり、どれだけ不用心なんだ。


 蜂蜜まみれのすあまぐらい甘い奴。



「仕方が無いから、お前が立派な当主になるまで守ってやる」


 お前に何かあったら、家族の仇も取れないし、ケーキや美味しいものたくさん、食べられなくなるから。 



 無防備で美味しそうな横顔。


 びよーん


 伸ばしたほっぺたにそっと唇を寄せる。これはキスに入るのだろうか?


 まあいいか、恩を受けて返さないのは理にかなっていないから。キスということにしておく。

 


「おやすみ……天津命」


 こんな私に居場所を作ってくれて。


 こんな血塗られた私を受け入れてくれて。


 言葉にはしないけど……感謝してる。





「おやすみ理子ちゃん……せめて良い夢を」


 どこかで桜花さんの声が聞こえたような気がした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] すあまになった身体をかじるという、ギャグかホラーな場面なのに、何というか、しんみりというか、理子ちゃんの幸せを願いたくなりました! 命頑張れ!
[一言] 早く、解放されるといいなぁこの因果から(;'∀')
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