第四十一話 生徒会長
「生徒会執行部だ。すぐに生徒会室へ来てくれ。会長がお呼びだ」
生徒会長が? 俺に一体何の用なんだ……?
「待て、用件も告げず何の権限があっての呼び出しだ?」
撫子さんが間に割り込んで睨みをきかす。そういえば撫子さんは生徒会も掛け持ちしていたんだっけ。
「さ、桜宮、詳しいことは会長に聞いてくれ。俺たちは呼んで来てくれとしか聞いていない」
「大丈夫だ撫子さん、ちょっと行ってくるよ」、
このまま放置したら気になって仕方ないしな。
「おお、悪いな、じゃあ行こうか」
露骨にほっとした様子を見せる先輩たち。生徒会長ってそんなに怖い人なのか?
「お待ちください」
今度は葵が立ちふさがる。突然現れた葵に、先輩たちも見惚れてしまっている。
「天津さまはこれから私の手作り弁当を食べるのです。邪魔をするなら……消しますよ?」
「ひ、ひぃ!?」
絶対零度の殺気に先輩たちも腰を抜かして股を濡らす……憐れな。
これは……食べないと俺も危険だ。生徒会なんかより、葵の方がずっと怖い。
「というわけなんで、放課後伺いますって会長に伝えておいてもらえませんか?」
「わ、わかった……必ず一人で来いよ?」
生徒会執行部の先輩たちが逃げるように走り去る。余計な心配だが、替えの下着はあるのだろうか?
「みこちん、会長を倒すなら私も一緒に行くぞ?」
「いやいや、別に倒しにはいかないから大丈夫、一人でって言われているし」
撫子さんにちょっかいを出している生徒会長金満成金、どうせ碌でもない話だろうからな。
「天津さま、その生徒会長とやら……消しましょうか?」
葵が胸元からナイフを取り出して……するするとリンゴの皮を剥き始める。
葵さんっ!? やめて、え? 消すって何? まさか物理的にじゃないよね?
「二人とも気持ちは嬉しいけどとりあえず落ち着こうか」
「でも、気をつけろよ命、あの生徒会長、あまり良い噂を聞かないからな」
直樹までそんなことを言い出した。どれだけ人望ないんだ会長。
「そんなことより、星川さんとはどういう関係なんだ?」
花城め……。せっかく話題が逸れたと思ったのに蒸し返しやがって。
「花城さま、リンゴどうぞ」
「おお、ありがとう星川さん!!」
ナイスだ葵。花城をあっさりと無効化するとは。
まさか……毒とか入っていないよね?
葵の作ってきたお弁当はめちゃくちゃ美味しかった。飯マズ属性とか持っていなくて良かったよ。
食べきれなかった分は撫子さんが全部食べてしまった。一体あの細い体のどこに入るのだろう?
◇◇◇
放課後、約束どおり生徒会室へ向かう。
生徒会室は学食棟の5階、最上部にある。
我が校の生徒会は予算面でも人員面でも充実していて、生徒会役員をやっていると就職や進学にも有利になるから結構人気がある。
各部の活動予算は生徒会の承認が必要なため、強力な実権を握っているのだ。
エレベーターを降りるとすぐ目に飛び込んでくる大きな生徒会の文字。
そういえば、この階へ来たのは初めてだな。
「……なあ、葵」
「はい、何でしょう?」
「付いてこなくて良いって言ったよな?」
「はい、外で待機しておりますので、ご安心を」
相変わらずの無表情でそれが何か? といった風だ。
うーん、そこまで言われたら断れないか。でもそんなに頼りないかな、俺。
「……これ、どうやって開けるんだ?」
独特のセンスが感じられるタペストリーと文様が印象的な壁が立ちふさがる。入口らしきものは見当たらない。
とりあえず近づいてみると、壁が左右に割れて入口が現れる。
……何この無駄な演出。
「じゃあ行ってくるよ、葵」
「ご武運を。御身に何かあれば即座に踏み込みます」
……そうならないように用事が終わったらすぐに出てくるようにしよう。そうしよう。
あと、いい加減ナイフしまおうな? 一応ここ学校内だし。
◇◇◇
「生徒会執行部へようこそ。ご用件は?」
……うおっ!? なんというゴージャス感。高級エステサロンの受付みたいなんだけど!?
美人の受付嬢……じゃなかった。えっと名前は知らないけど、たしか入学パンフレットに載っていた女性だ。写真も美人だったけど、本物はもっと綺麗で可愛い。
「あ、あの天津命です。会長から呼ばれて来たんですけど……」
「ああ、聞いております。ご案内しますね」
にっこり微笑んで立ち上がると、こちらへどうぞと案内してくれる。
「会長、天津さまがいらっしゃいました」
「霧野くんご苦労。戻って良いよ」
案内してくれた女性が軽く会釈をして受付に戻ってゆく。あの人、霧野さんっていうのか。
会長室は学校が一望できるガラス張り、そこから差し込む日差しが後光のように会長を照らす。
間近で見たことはなかったけど、178cmの俺よりあきらかに背が高い。たしかアメフト部のスター選手なんだよなこの人……。
っていうか、高そうな金の刺繍が入った真っ白い制服……絶対に特注品だよな。まあ、葵のメイド制服のこともあるから文句は言えないけど、生徒会長って漢字で刺繍が入っているのが何気にダサくて残念過ぎる……。
部屋の中を見渡せば、あらゆる種類のトレーニングマシーンが置いてあって……もはや完全に私物化……いや、何も言うまい。
それにしても鍛え上げられた肉体、彫りの深い端正なマスク……見た目だけならイケメンなんだよなこの人。言うほど中身知らないし、噂だけで判断するのもアレだけどさ。
「生徒会長の金満成金だ。君が天津命で間違いないか?」
「はい、俺が天津命です、会長」
じろじろと足元から舐めるように俺を観察していた会長がようやく口を開く。
「桜宮撫子の許嫁だと聞いたが事実か?」
やれやれ……やはりそれか。知られているならむしろ好都合。今後ちょっかい出されないようにしっかり説明して諦めてもらわないと。
「事実ですが……それが何か?」
「単刀直入に言おう。桜宮撫子から手を引け」




