第三十七話 転校生
「おい聞いたかよ、転校生がくるらしいぜ、しかもとんでもない美少女だって!!」
朝、教室に入ると、クラス中そんな話題で持ちきりだった。どうやら職員室で転校生と雅先生が話しているところを見たものがいるらしい。
ふーん……美少女の転校生か……。まあ撫子さんがいる俺には関係ない話だが……気にならないと言ってしまうと嘘になる。やはり転校生というのはロマンがあるからな。
「おはよっす命。わかっているとは思うが、お前には撫子さんがいるんだ。転校生ちゃんにはちょっかい出すなよ?」
「……直樹、俺がそんな軽い男に見えるか? 撫子さん一筋に決まっているだろうが!!」
まったく……失礼な話だ。今の俺なら美少女の一人や二人、動かざること山の如し。
と言いたいところなんだけど、許嫁を集めなければならない俺に言う資格はない。ぐっとこらえるしかない。
それにしても撫子さんは今日も可愛いよな……。なぜか学校では余所余所しいところがまた猫みたいで可愛い。可愛いしか言っていない気もするが、可愛いんだから仕方がない。
視線を感じたのか、撫子さんが小さく手を振ってくれる。はああ……癒される。
「皆さん、転校生の星川葵さんです。お仕事の都合で今日からこの学校に通うことになりました。仲良くしてあげてくださいね」
雅先生が転校生を紹介すると、教室が騒然となる。
無理もない。輝くようなサラサラとした銀髪に憂いを帯びた銀色の瞳。まるで異世界から飛び出してきたような非現実的な美しさに同性からもため息がもれる。
だが、騒然としたのはその美少女然とした容姿のせいだけではない。
メイド服……だとっ!?
先生を除くクラス中の誰もが心の中でツッコミを入れたに違いない。
よくあるフリフリのメイド服じゃなくて、スカート丈の長いビクトリアンスタイル。日本人離れしたルックスだからこれ以上ないほどよく似合っている。
「……星川葵、職業はメイドです。よろしくお願いします」
星川さんの発言にクラス中がどよめく。職業ってなに? 学生なのに働いているの? コスプレではない本物のメイドさんにみんな大興奮。
「星川さーん、彼氏いるの?」
「ハーフかなんかですか?」
次々と質問が飛ぶが、星川さんは表情を変えることなくクラス中を冷静に観察している。
「……プライベートに関する質問は一切受け付けません。以上」
「「ひぃっ!?」」
前方の席から軽い悲鳴が上がる。見た目の可憐さとは裏腹に絶対零度の眼差しが怖い。無表情だから余計に。遠目からでも近づいたら斬り殺されそうな迫力がある。やはり本物のメイドさんともなると戦えるのかもしれない。アニメは正しかったようだ。
「えっと……星川さんの席は……」
「先生、大丈夫です。席は決めておりますので」
……決めているとは一体?
「葵ちゃーん、俺の隣空いてるぜ!!」
すかさずアピールする直樹。実際、現状そこしか空いている席はないのだが、あの威圧を見せつけられた後なのに、そのアグレッシブさは本当に尊敬するよ。
星川さん、ゆっくりと優雅に、歩いているのにまるで音がしない。
メイドというよりも忍者じゃないの? もしかして暗殺者とか?
「…………」
だが、星川さんは直樹の席を素通りして俺の隣の野原さんの前で止まる。
「え……? な、何で私?」
星川さんにじっと見つめられて真っ赤になる野原さん。たしかに凄まじい美少女オーラだ。撫子さんのおかげで耐性が上がっていなければ、俺も危なかったかもしれない。
一方で無視された直樹は、手を差し出したまま動かない。なんと憐れな……。
「野原さま、申し訳ございません。席を譲っていただけないでしょうか?」
「ふえっ!? どうして私の名前!? は、はははい、喜んで」
あっさり席を譲ってしまう野原さん。無理もない、お願いされたら俺でも譲ってしまうだろう。
野原さんが直樹の隣に移ったことで、必然的に俺の隣の席が空く。
……ちょっと待て。なんだこの展開は?
ラノベの主人公でもこうはいかないんじゃないか?
いや待て、浮かれてどうする。俺には撫子さんが……って、なんか星川さんがものすごく見つめてくるんだけど!?
ご飯粒でもついているのか? いや、今朝はパンだったからそれはないか。
「天津命さま、星川葵でございます。よろしくお願いいたします」
席が決まったところで授業が始まる。
「じーっ……」
あの……星川さん!? 俺じゃなくて前見ようね? あとじーって口に出すの流行ってるの!?
星川 葵 / イラスト こすもすさんど様
FAありがとうございます。




