第三十四話 かわいいと言ってくれ
「あの……桜花さん? たまたま同じ家名なだけじゃ?」
そんな話聞いたこともないし、そもそも親戚は居ないって聞いていたんだけど。
「ああ~、健も橘花も、命くんには出来るだけ普通に育ってほしいって言っていたからね。うちだって、撫子にはまだ説明していなかったから似たようなものだけど」
桜花さんの言葉に撫子さんも少なからず驚いているように見える。そりゃあそうだ。はいそうですかと信じられるはずもない。
「信じられないって顔をしているね? でも、思い当たるふし、あるんじゃない? たとえば……人とは違う能力があるとか」
あるかないかと言われればもちろんあるけど、そんな大げさなものじゃあない。
「動きが止まって見えるくらいしかないですけど?」
「……命くん、普通の人は止まって見えたりはしないんだよ?」
おかしそうに笑っているけど、心を読む力を持っている桜花さんに言われても……ね?
「おお、母上、みこちんの能力はすごかったぞ」
なぜか自分のことのように誇らしげにしている撫子さんが愛おしい。
「命くん、ここは黙って抱きしめるところだよ」
……お願いですから、心は読んでも口に出すのはやめてもらえませんかね……。
「ん? 誰を抱きしめるんだみこちん?」
近い近いっ!? ソファーに並んで座っているから、すでにさりげなく密着しているんだよな。冷静に考えたら。
至近距離からそんな純粋な瞳で見つめないでくれ。
「命くんはな、撫子が可愛くて仕方ないから抱きしめたいんだよ」
桜花さあああああん。
「お、おう……か、可愛い? そ、そうか、別に……構わないぞ? ほら、思い切り来いみこちん!!」
いや、思い切り来いとか言われても……じゃ、じゃあ、遠慮なく。
両手を広げて臨戦態勢の撫子さんの背中に、おそるおそる手をまわしてみる。投げ飛ばされそうでちょっと怖い。
「ふえっ!?」
抱きしめるよりも早く、撫子さんに抱きしめられて、変な声が出てしまう。
寝ているときはあったけど、お互いに起きている時の破壊力は比べ物にならない。
やわらかくてあったかい。まだほのかにシャンプーの香りも残っている。
「うむ……思ったよりも悪くないものだな。よし、これからは毎日やろう」
満更でもない様子の撫子さんだが、俺の理性が試されることになりそうだ。
「なあみこちん、さっきのは本当か?」
くうっ、密着した状態で耳元で話しかけないでくれ……下手すると死んでしまう。
「え……? なんのことだっけ?」
「むう……だからその……私が可愛いって!!」
ぐはっ!? え? 撫子さんが……照れている……のか?
「あ、ああ、もちろん本当だよ」
「だったら、ちゃんとそう言ってくれ」
ええ……でも撫子さんなら言われ慣れているから、逆にそういうこと言われるの嫌なのかと思ってたんだけどな。
「……言わないと駄目かな?」
めちゃくちゃ恥ずかしいんだが。
「駄目だ。ぜひみこちんから言われたい」
はううっ、かわいい!! かわいいいいい!! はっ!? 悶えている場合じゃない、ちゃんと口に出さなければ……。
「な、撫子さん……」
「なんだ?」
「とても……かわいい……よ?」
「そうか……ふ、ふふふっ」
お互い抱き合っているので、吐息が耳にかかる。
恥ずかしいやら、嬉しいやらでわけがわからない。いつの間にか結構しっかりと抱きしめ合っていることに気付く。
「おいおい、二人とも私を悶死させるつもりかい? これはたまらないな……よし、私も参加させてもらうよ」
ちょっ……なぜか桜花さんまで抱き着いてきたんですけど!?
「お、桜花さん!? 当たってます!!」
「は、母上、苦しいんだが!?」
「良いではないか、良いではないか」
桜花さんはご機嫌。撫子さんも嬉しそう。
やばい……俺、幸せ過ぎて死んじゃうかも?




