第二十三話 一緒に登校?
「じゃあ私は神社に行くけれど、二人ともイチャイチャし過ぎて遅刻しないように」
一足先に桜花さんが席を立つ。
俺をからかわないと死ぬ病か何かですか?
撫子さんとイチャイチャは……したいけどなあ。
ちらりと撫子さんを見ると頭にハテナマークを浮かべている。どうやら舞い上がっているのは俺だけのようで……くっ、悲しい現実。
「命くん、後で私のバスタオルの匂いを嗅いでも良いんだよ?」
落ち込んだ俺を慰めてくれる桜花さん。ありがたいんですけど反応に困るんですが。
「か、嗅ぎませんからねっ!?」
必死に否定する俺が面白くてたまらないといった様子で、クスクス笑いながら桜花さんは出かけて行った。
残された俺たち。いうまでもなく撫子さんと二人きり。
あれ……もしかしなくても、俺たち一緒に登校するんだよな?
撫子さんと二人で一緒に登校する。
数日前の俺だったら絶対に信じなかったはず。
ふふふ、誰かに見られたら大変だなあ……。
なーんて思っていた時期が俺にもありました。
「じゃあお先」
「……うん」
そうだった……撫子さんは自転車通学。女子は距離に関係なく自転車通学が認められている。
「……さ、俺も急がないと」
別に淋しくなんてない。1キロも撫子さんを歩かせるなんて申し訳ないし。
それに……今日からは毎日帰ったら撫子さんがいる。
『私も居るよ』
今、一瞬桜花さんの声が聞こえたような気がするが気のせいだろう。っていうかそうであってくれ。
◇◇◇
「おはよっす命」
「おはよう直樹」
いつもの教室、いつもの挨拶。何も変わっていない。
ちらりと目を向ければ、最前列で皆に囲まれる大きなリボンが見える。
さっきまで一緒にいたことが信じられない。学校での距離感は変わらない。
「命、何ニヤニヤしているんだよ……おっ、桜宮さん元気になったんだな」
俺の視線の先を見て何やら納得している直樹。
「そうみたいだな」
いかん……にやけそうになる。
「おはようございます~!!」
雅先生が教室に入ってきた。
あ……先生のこと忘れてたっ!?
そういえば家の離れに引っ越してくるんだよな。
今更やっぱり駄目ですとか言えるわけもないし。
……カオスだ。どう考えても普通の状態にはならない。
帰ったら二人に説明しないと。あと、先生にも。
「先生、あとで内密なお話があるんですけど」
廊下で先生が一人の時を狙って話しかける。
「ふえっ!? 駄目よ~、今はまだ私と天津くんは教師と教え子なのよ~?」
「……違います。引越しの件です」
先生……今じゃなかったら構わないと聞こえるんですが!?
「……なんだ、びっくりするじゃない~。わかった、じゃあ放課後美術室に来てね~」
先生の方はこれでいいか。
「命~、最近雅ちゃんとよく話してんな?」
やべっ……直樹に見られていたか。
『聞いたぜ、命ん家に住むことになったんだろ? 雅ちゃん』
くっ、もうバレているのか。まあいずれバレることだし、直樹には知っておいてもらったほうが良いかもしれない。
「たしかに同じ敷地内だけど俺んちじゃなくて、離れだけどな」
「くくっ、まあ似たようなもんだろ? でも心配していたからちょっと安心した」
直樹……お前、本当に良い奴だな。またすあま買わせてもらうよ。必ず。
「それより命、急がねえと次の時間体育だぞ」
「うわっ!? そうだった」
「なあ直樹……今日なんか雰囲気違くないか?」
なんというか、男子全体いつもよりやる気がみなぎっているというか、普通じゃないテンションだ。
「ああそれな。今日の体育は男女合同だから、女子に良いところ見せたくてはりきっているんだろ? 特に桜宮さんとか主に桜宮さんとかに」
なんでも体育教師が怪我をして急遽合同となったらしい。言われてみれば、運動部連中のやる気が痛いほど伝わってくる。
今日の体育はドッジボールか……。
ハンドボール部とバスケ部の連中が狂喜してやがるが、俺はいまいちテンションが上がらない。まったく、大事な指を怪我したらどうするんだよ……。
とはいえ……桜宮さんのことを意識しないなんて無理なわけで。
許嫁として格好悪いところだけは見せられないよな。
「桜宮さーん、俺のカッコいいところ見ててよ」
くっ、クラス一の人気者で、バスケ部の次期エースとも噂されている花城 薫か。思わず解説口調になってしまうぐらいの典型的な陽キャ野郎だ。
俺の撫子さんを気やすく呼びやがって。




