第二十話 みんなで晩御飯
「たなつもの百の木草も天照す日の大神のめぐみえてこそ」
……神道式の言葉なのだろうか?
聞きなれないけれど、こうして恵みに感謝するというのはなんだか素敵だ。後で教えてもらおう。
「「「いただきまーす」」」
綺麗にハモりながら箸を手に取る桜花さんと撫子さん。
「ん? どうしたんだみこちん、食欲が無いのか?」
「い、いや、そんなことないよ。ずっと一人で食べていたから、なんだか胸がいっぱいで」
嘘ではない。胸がいっぱいなのは本当だ。
しかし、テーブルに並んでいるのは、中々に個性的……というかワイルドな料理?
おそらくは野菜をぶつ切りにして焼いたと思われる真っ黒な物体。
控えめに言っても食欲はそそられない。お腹は空いているので有り難くいただくが。
真っ黒い炭のような塊に歯を入れると、中からじゅわっと野菜汁があふれでてくる。
どうやら中身までは炭になっていないようで安心した。味は……野菜だ。
「ふふふ、母上の料理は見た目は悪いが味は普通に食材の味がするだろう?」
良かった……見た目が悪いことはわかっているのか。たしかに食材の味はする。というか、食材の味しかしないんだが!?
「すまないな、命くん。料理はあまり得意じゃなくてね。切る、焼く、基本的にこの二つしか出来ない」
なんという潔さ!! 茹でるとか炒めるぐらいは出来そうだけど、苦手なものは誰にでもある。
「いいえ、俺も料理得意じゃないんで、いつも出来合いのものばかりで。美味しいです」
味はともかく手料理というだけで心がポカポカしてくる。みんなで食べると美味しいものだよな。
「すまん、私も基本的にザリガニ料理しか出来ない」
悔しそうに頭を下げる撫子さん。
うん……何となくそうかもしれないとは思っていたよ。はっ!? まさかザリガニも切って焼くだけとか?
「ふふっ、大丈夫、撫子のザリガニ料理は絶品だよ」
……やはり桜花さんは俺の心が読めるのではないだろうか? ガクブル。
「……おかずが無いですね」
「うむ……たしかに」
「さすがに野菜をおかずにご飯は厳しいか……」
そういえば冷蔵庫におかずになるようなもの無かったな。
うーん……あ、そういえば……。
「サバ缶食べます?」
とっておきの非常食だが、やむをえまい。
「いただこうか」
「よくやった、命くん!!」
なあに、二人の笑顔のためなら非常食の一つや二つ安いものですよ。
……って俺の分がああああ!?
にまにましていたら、あっという間にサバ缶は空になっていた。
撫子さんの早食いは、遺伝だったのか?
「ん? どうしたみこちん?」
「おや? 命くんの分のサバがないじゃないか!!」
「だ、大丈夫ですよ、野菜に塩かければおかずになりますし」
あ……塩、切らしていたんだった。
「無理するな、私の口の周りにまだ少し残っているから、遠慮なく舐めると良い」
たしかに桜花さんの口の周りにはサバのタレが少しだけ付いている。
では遠慮なく……って出来るかああ!!
「みこちん、悪かったな。私の箸で良かったらしゃぶると良い」
たしかに撫子さんの箸にはサバのタレが付着しているようだ。
それなら行ける……って、どう考えても変態です。
これは……俺も本気で料理を勉強したほうが良いかもしれないな。後で良い動画探しておかないと。
出前でも良いけれど、毎日だと飽きてしまうだろうし。非常食も多めに買っておこう。
「ところで、荷物の片付けは明日以降少しずつやるとして、今夜寝る部屋はどうします?」
「それなら問題ないよ。命くんの部屋で寝るから」
「そうですか……って、はあああっ!?」
桜花さんがとんでもない爆弾を投下する。
「安心して欲しい、命くんを部屋から追い出したりはしないから」
「いやいや、他にも部屋たくさんありますよ? なんでわざわざ」
「……命くんは感じないのか? 他の部屋からはおぞましい闇の波動を感じる。浄化するまでは危険だ」
桜花さんの表情が真剣なものに変わる。
「ひえっ!? ま、マジですか!?」
現役の神主さんである桜花さんが言うと洒落にならない……そんなこと言われたら夜中にトイレに行けなくなるんだけど……。
「むう……私にはわからないが、母上が言うのなら間違いない。大丈夫、私たちが一緒なら安心だ」
くっ、撫子さんまでノリノリじゃないか。
「わ、わかりました。でも俺の部屋狭いですよ?」
「構わないよ。狭いのには慣れてるからね。くくくっ」
こらえきれずに笑いだす桜花さん。もしかして嵌められた?
まいったな……怖くなっちゃったからありがたいんだけど、別の意味で寝れなくなりそうだよコレ。




