第十七話 許嫁
「おおっ!! すあまじゃないか!! わざわざお見舞いに来てくれたのか?」
すあまの入った箱を大切そうに抱きしめる撫子さん。生まれて初めて箱になりたいって思った。
いや、包装紙の方が直接……ってなんで笑っているんですか桜花さん!?
「いや、撫子さんが学校休んだの俺のせいかなと思って……さ」
「みこちんのせい? 何で?」
いや、真顔で聞き返されたら自意識過剰みたいで恥ずかしい。
「な、何でもない、それよりもう起きてきて大丈夫?」
顔色も良いし、私服も可愛い。いや、それは関係ないけど。
「もうすっかり治ったから大丈夫だ。でも、母上とみこちんが知り合いだったなんて知らなかったぞ。昨日聞いてびっくりした」
「いや、俺も今日知ってびっくりだよ。それに……その」
許嫁の話、どう思ったのか気になる。撫子さんの様子を見る限り普通……というか、まったく気にしていないように見えるけど。
「撫子は、金満成金くんと命くん、どっちと許嫁になりたい?」
桜花さんがとんでもない助け舟……いや、究極の選択をぶちこんできた。
お、桜花さんっ!? なんですか、その二択。いくらなんでも極端すぎる……。
「母上、許嫁って何をするんだ?」
そこからっ!? そこからなの撫子さんっ!?
「そうだね……ずっと一緒に暮らすって感じかな」
桜花さん!? 間違ってはいないけど、ふんわりしすぎじゃないですか?
「なるほど、それならみこちん一択。成金先輩は苦手だ」
な、撫子さん……う、嬉しい……究極の二択とはいえ、金持ちイケメンに勝った。
「みこちん……なんで泣いているんだ?」
撫子さん、これは嬉し涙なんだ。ありがとう、ありがとう。
「そうか……命くんか。ところで撫子、成金先輩を選ばないとなると、私たちはここから出ていかなくてはならないんだけどね?」
「え……? 母上、そんな話は初耳なんだが?」
「今初めて話したからね。でも困ったな~。神社に近くて、広い家を持て余しているような人なんてそうそういないだろうし……チラッチラッ」
桜花さん……口でチラッチラッって言う人に初めて出会いましたよ。
「あ、あの……、もし良かったら、家に来ませんか? 部屋もいっぱい余ってますし」
「おおっ、良いの? 助かるよ。撫子も構わないよね?」
そうだ、桜花さんはともかく、さすがに一緒に住むのは抵抗があるはず……
「うむ、大賛成。それに、許嫁なら一緒に住むものなのだろう?」
目をキラキラさせている撫子さん。え? 許嫁は良いの?
「これで毎日ザリガニを捕ることが出来るぞ!!」
うん、可愛い。理由なんてどうでも良いんだ。
一つ屋根の下、一緒に暮らせるなら全ては些事。
「じゃあ早速引っ越しようか」
「……は? い、今からですか?」
「言い忘れていたけど、明日の朝が返答期限なんだよ」
「「…………」」
◇◇◇
「母上、夜逃げみたいでワクワクするな!!」
「そうだね、似たようなものかも。私もワクワクしてきた」
撫子さんと桜花さんはとても楽しそう。
俺の役目は力仕事だ。辛いかって? とんでもない。気力があふれて今なら三日三晩休まず働けそうだ。
でもさ……それはそれとして、すあま、俺も食べたかったよ。
「すまん、みこちん……つい、な?」
「ごめんね、命くん……久しぶりで興奮しちゃってつい」
良いんだ。二人が喜んでくれたなら、俺がすあまを食べられなかったことなんて些細なこと。
さあ引っ越し引っ越し。