第百四十一話 修行あるのみ
「……お兄さま遅いね?」
「むう……里を代表する猛者ばかりだからな。いかな命殿とはいえ、ここまで辿り着くのは容易ではなかろう」
「あはははは、命ってばまた気を失っているんじゃないのカ?」
「……ご武運を祈っております」
許嫁たちが奥の湯でそんな話をしているとき、命はあっけなく撃沈されていた。
「……また来てしまいました」
『……いらっしゃい命くん……ぷぷぷ……あははははは!!!!!』
「女神さま……助けてください」
『仕方ないわね……ほら復活させてあげる』
「え……? ち、ちょっと待って……うわああああ」
『……頑張ってね、命くん、まだ先は長いわよ』
「はあ……はあ……やっと辿り着いたぞ……ここが……奥の湯」
「お兄さま遅い~!! 待ちくたびれちゃった」
「お兄さまああああああ!!!!」
「命殿、よくぞここまで……さあ褒美を取らせる」
「命さま……さあご一緒しましょう」
「えっと……この流れだと私も参加するんだよネ? ほ、ほら、早く入るよ命」
「まさか本当に辿り着くなんて……仕方ないですね、私も秘めた力を開放するしか……」
そんな……ちょ、ちょっとだけ休ませ……ぎゃあああああ!?
「……あの、もしかして遊んでます?」
『ええ、思い切り楽しませてもらってるわ』
「俺……こんなことしていて良いんですかね?」
『良いと思うわよ? お風呂に入って身を清めることは大切な神事なのよ?』
……身を清めることから一番遠いことをしているような……?
『まあ明日は大変だからね。今日くらい楽しんでいらっしゃいな』
楽しむ余裕が無いんですがそれは……?
『ふふふ、修行あるのみよ命くん』
◇◇◇
「……黒崎殿、本当によろしいのですな?」
「もちろんです。遷家の発議、受理していただけますね?」
「うむ……条件を満たしている以上、我々としては拒否することは出来ない。明日、緊急の長老会議を開催しよう」
「……恐れ入ります」
歴史的な遷家の発議の知らせは瞬く間に各所に届く。
すでに知っている者はとうとう来たかとため息を隠さず、初めて知った者は耳を疑いこれからどうなってしまうのかと話し合いを始める。
「命、雅から連絡があったヨ。黒津家が正式に遷家を発議したらしい。明日、緊急の長老会議が招集される」
……いよいよ来たか。
「キアラさん、当然俺も参加するんですよね?」
「会議に参加するのは、長老会のメンバーと直下五家の当主、東宮司の当主、白衣衆の長、そして次期当主候補の二人ネ。当然命も参加することになる」
「命さま、ご安心ください。遷家の発議は私が差し戻ししますので」
優しく微笑む椿姫。
こちらには東宮司当主である椿姫がいるから心強い。
あれ? でもそうなると……
「椿姫が発議を承認しなかった場合はどうなるんだ?」
「……もし、先方が引き下がらなかった場合、候補者同士の決闘となります」
え……? 決闘? 聞いてないんだけど……
「大丈夫だヨ、命ならワンパン」
キアラさんが豪快に笑う。
いやワンパンって……そんなわけないですよ、相手はあの最強の武闘派黒津頼人ですよ?
「でも実際問題、お兄さまに勝てる人類がいるとは思えないんだけど?」
「そうだぞ、弾丸すら通用しない上に、時間まで止められるんだからむしろ相手が可哀そうなレベル」
……そうだな、俺もそう思うよ。人間やめてるし、我ながらチートが過ぎるからな。だって自分自身でどうやったら倒せるのかわからないんだからな。
やったことないからわからないけど、たぶんトラックに跳ねられてもダメージ受けない気がする。つまり残念ながらうっかり異世界転生できない。
攻撃の方はどうかな……うっかり殺しちゃったら大変だから、威力を確認しておかないと……
大丈夫だと思うけど、顔を殴って頭が吹き飛んだりしたらヤバい……
「椿姫、粉々になった人間を元に戻せるか?」
「生きていれば戻せますが……」
なるほど……急所を狙うのはやめておこう。
とはいえ、油断は禁物だ。無いとは思うけど、能力無効とかスキルを盗むみたいな滅茶苦茶な能力があるかもしれないし。
「相手の能力がわかる能力とかあればいいのにな」
そんな都合が良い能力があるとは思えないが……
「命殿、私の能力がまさにそれだが?」
え……マジで? 千歳さんナイス。これはぜひとも同行してもらわないとな。万に一つも負けるわけにはいかないんだ。
「それからネ、雅から伝言。しっかり全員と関係を深めて力を覚醒するようにってネ」
……ですよね~。わかってましたよ。出来ることはすべてやっておきますよ。ええ、わかっています。すあまですよね?
「わーい、今夜はすあまパーティーだね」
「うむ、今夜もすあまパーティーだ」
すあま、まあす、なんかパジャマパーティーみたいなノリだな。
「命さま? すあまパーティーとは一体……?」
「命殿、パーティーなど生まれて初めてだ……楽しみ過ぎる」
「はわわ……すあまって、あの和菓子ですよね? ワクワク……」
まあ会場へは転移出来るから明日出発しても間に合うし……今夜は英気を養うとしよう。
……寝れるかな、俺?




