第十四話 桜宮神社
桜宮神社は、決して大きくはないけれど、創建から千年以上の歴史ある社だ。
名前の通りたくさんの桜の古木があり、中でも一番古いものは創建当初に植えられたもので、推定樹齢千年ともいわれているらしい。たしか、エドノヒガンザクラっていう種類だったと思う。
普段は静かなこの神社も春の桜の時期には多くの参拝客が他県からもやってくるし、夏祭り、秋祭り、そして年末年始と、地元の人々にとっては無くてはならない存在となっている。
「……勢いで来てしまったけど、よく考えたら、俺撫子さんの家知らないじゃん……」
当たり前の話だが、神主さんが神社に住んでいるわけではない。
来れば何とかなるかもしれないと思ったけれど、撫子さん本人が居ないのではどうしようもない。
最悪神社の人に預けて帰るしかないか。
「あれ? もしかして命くん?」
撫子さん!? いや、ちょっと違うか。
振り返ると撫子さんを大人にしたような女性の神主さんが立っている。
撫子さんもある種人を寄せ付けない空気感を持っているけれど、それをさらに研ぎ澄ました真剣のような鋭さと、すべてを包み込んでしまうような柔らかさが同居していて、しばし見惚れてしまう。
「あ……はい、天津命です。もしかして撫子さんの?」
これまでも何度か遠目で見かけたことはあったが、こうして間近で会ったこともないし、話したことももちろんない。
でも、間違いなく撫子さんのお母さんだよな?
「やっぱり!! そうだよ、撫子の母、桜花。命くんが小さい頃何度も会っているんだけど憶えてないか~」
え……? そうなの? 知らなかった。っていうか、何ですぐに俺だってわかったんだろう……。
「ふふ、何でわかったのかって顔してるね? だって命くん、健にそっくりだから」
桜花さんの口から意外な名前が飛び出す。
「と、父さんを知っているんですか?」
「うわ……本当に何も聞いてないんだね。私と橘花は、学生時代健を争ったライバルだったんだよ。結局、健が選んだのは橘花だったんだけどね」
ちょっと待て、父さんの目は節穴かっ!? いやまあ、母さんも十分綺麗な人だったけどさ。
でもそのおかげで撫子さんがいるわけで……複雑だけど俺にとっては英断だったのかもしれない……のか?
「それにしても……大きくなったね」
「は、はい……」
桜花さんの目はとても優しくて、木漏れ日のように揺れている。
「あ、あの……桜花さん!?」
ふわっと花のような香りに包まれる。
気付けば桜花さんに抱きしめられていた。
「健と橘花のバカ……逝くのが早すぎるんだよ……」
久しく感じていなかった温もりに、熱いものが込み上げてくる。
「大変だったね」
堰き止められていたものが決壊したかのようにあふれ出す。
もう半年……まだ半年。
忘れられるわけなんてない。ただ泣かないことに慣れただけ。
自分で考えていたよりも、
俺は……ずっと無理していたんだな。
夕暮れ迫る境内で、
人目も見栄も忘れて、俺はみっともないくらい泣き続けていた。
まるで子どもに戻ったみたいに。




