第百三十四話 展望台へ
「ペアでないと入城出来ませんが?」
チケット売り場のお姉さんが冷たく言い放つ。
なんてこった……俺たちは三人。誰かが余ってしまうじゃないか。
「四人分払いますので、何とかなりませんか?」
「駄目です。例外は認められません」
くっ……売り場のお姉さんめっちゃ厳しい。たかが展望台なのに……。
「……私はチケットを売っているのではありません。愛とロマンを提供しているのです」
「……ごめんなさい」
「仕方がない、悪いが琴都音は残れ」
「ええええっ!? 嫌ですよ、私だって行きたいです!!」
千歳さんの言葉に全力で抵抗する琴都音。気持ちはわかる。だが俺も行きたいから代わってはあげられない。許せ。
でも参ったな……あと一人誰かいれば良いんだけど……
「旦那さま、誰か連れてきてくださいよ。転移出来るんですよね?」
そうしてやりたいが、誰を連れて来るかでもめて、結局全員連れて来る羽目になる未来しか見えない。それに、向こうは向こうで、今も蒼空さんの居場所を探して奔走しているメンバーもいるはず。一緒に展望台に……なんて言えるわけがない。
仕方がない。こうなったらその辺で村人系許嫁を探して……いや待て、いっそのこと、売り場のお姉さんを誘うという手も……
「ふふふ、私がいるではないですか」
「椿姫!!」「椿姫さま!?」
「まさか……この私が展望台に行く日が来るとは思ってもいませんでした」
椿姫はずっと結界にかかりきりでしたからね……。
「椿姫が望むなら何回でも連れて行ってあげますよ」
「命さま……嬉しい」
「むう……なんだか私と扱いが違う気が……」
「何を言っているんだ? 椿姫はこれまで頑張ってきたからな。ご褒美だよ」
「私だって、ずっと暗黒世界で苦しんできたというのに……」
……いや、お前のは自業自得だと思うぞ。いくらなんでも比べたら椿姫に失礼過ぎるだろ。
まあとりあえず四人揃ったし、これでようやく入城できるぞ。
「ロマンチックナイトペアチケット二組分ですね? 十万円です」
高いな……いやまて冷静になるんだ……うん高いよ。
さすがにぼったくりじゃないのかという思いがあふれてくる。
「え? ぼったくり? 何言っているんですか旦那さま、このチケットがあればドリンクや軽食二時間食べ放題なのですよ」
なるほど……それは良いな。一人二万五千円ならば、秘境というロケーションを考えればアリかもしれないが……。
「うむ、それにな命殿、噂によれば専用カップルシートなるものも用意されているらしい」
すごいな展望台……完全にデートスポットみたいじゃないか。
「さらにこの半券があれば、村内の宿泊・商品・飲食が二割引きになるのですよ、命さま」
何それめっちゃお得!! あれ……? 総合的に考えるともしかして安い? なんかよくわからなくなってきたぞ。
展望台は村長城八階地上三十メートルの天守閣バルコニーにあるらしい。
エレベーターでも行けるらしいけど、せっかくなので景色を見ながら螺旋階段を上がることにした。
「旦那さま!! 早く!! 急いでください!!」
「琴都音、そんな焦らなくたって、景色は逃げたりしないぞ?」
「何悠長なことを言っているのですか? 食べ放題飲み放題は時間との戦いですよ?」
え……? もう時間カウントされているの!?
「……わかった。一気に駆け上がろう」
琴都音は成長期だからお腹も空いているだろうし。
「旦那さま、抱っこ」
「……仕方ない奴だな」
たしかに琴都音にとって前が見えないと階段は危険だ。面倒くさいからもう眼帯を外せとは言わない。
「気を付けてくださいね? 罪の重さに比例して私の身体は重くなりますから」
何それこわい。知らずに犯している罪の重さに震えることになるのだろうか……俺。
「……命殿、私も同じことを所望する」
はいはい、千歳さんも抱っこですね? お安い御用ですよ。並みの男なら、その甲冑の重量に怯むところでしょうが、俺にとってはアルミ箔のようなものです。
「……わ、私も……」
椿姫は特等席で肩車にしますね。
「え……? 肩車? 恥ずかしいんですが……?」
たしかに104歳で肩車は恥ずかしいかもしれない。
「じゃあ琴都音が肩車な」
「ふえっ!? わ、私は一万十四歳……」
問答無用で琴都音を肩車、二人を抱っこして階段を駆け上がる。
ギシギシ……
うおっ!? さすがに四人分+甲冑の重量だと足元が不安だ。
こっそり神気で階段を補強しながら展望台がある八階まで到達する。
「おお……ここが展望台……」
「……素敵です」
「うむ……絶景なり」
「ロマンチックですね……」
なんてお洒落な……そして……なんという絶景……手を伸ばせば星に手が届きそうだ。空気が澄んでいると星がこんなに綺麗に見えるものなのか……。
正直、この景色だけでも十分大金を払う価値はある。一緒に眺めれば雰囲気だけで相手を好きになってしまいそうだ。
「ほら、旦那さまも早く取らないと!!」
……琴都音は色気よりも食い気みたいだけどな。
「……すごいなこれは……」
軽食っていうから、クラッカー程度かと思ったら、サンドイッチやらおにぎりやら、唐揚げにフライドポテトまである。見た目で何の料理だかわからないものを含めると30種類くらいあるんじゃなかろうか? 明らかにやり過ぎ感があるが、不満はない。
ドリンクもすごい。最新式のドリンクバーシステムが導入されている。おまけにお洒落なバーカウンターまであって、お酒を飲むことも出来るのか。
「……琴都音、お前いつの間に眼帯を外したんだ?」
琴都音の黄金色の右目が月の光に反射している。おお……邪眼かどうかはともかく、カッコいいじゃないか!! っていうか、めっちゃ美少女だな。隠しているのがもったいない。
「外していませんよ? 透明な眼帯に交換しただけです」
……それって意味あるんだろうか。まあジュース溢したら大変だし、ツッコむのは野暮だな。
「ちなみに左目は何色なんだ?」
「銀色ですよ。危険なので世界改変と邪気封印で二重の備えをしています。お見せ出来ないのが残念です」
……悔しいけれどちょっとだけ興味はある。
「あははは!! 飲み放題の術~!! 食べ放題の術~!!」
視界封印というリミッターを開放した琴都音が、凄まじいスピードで飲み物や食べ物をトレイに乗せてゆく。
うん……楽しそうで何より。でも……ちゃんと全部食べ切れるんだろうか……?




