第百三十三話 ロマンチックナイト
「照らせ常世の闇を……未来永劫人の世が続く限り……結界バージョンアップ!!」
パキーン―――
古い結界が砕け散り、まるでダイヤモンドダストのようにキラキラと舞う。
砕け散った破片がコーティングするように新たな結界の表面を覆い、最後に俺とすあま、まあすの神気を組紐のように結びつけて結界の外枠を補強すれば完成だ。
くっ……立っていられないほどの強烈な脱力感……思わず膝をついてしまう。
「……やったか?」
「……お兄さま、それフラグ」
「……世界が回っている」
すあまとまあすが意識を失って倒れるのを何とか身体を入れて受け止める。
あはは……情けないけど……もう……指一本動かせないや……
意識が遠のく……
ああ……綺麗だ。皆の想いが創り出した結界……無事に……完成して……良かった……
◇◇◇
「命さま、すあま、まあす……お疲れさまでした。三人とも立派にお役目を果たされたのですね……なんて……なんて神々しい結界なのでしょうか」
結界そのものを作り変えてしまうなんて……この目で見なければ到底信じられなかったでしょうね。
これが稀人の力……ううん、それだけじゃない。
……尊さま……英梨花……真さん……名も知らぬ無数の人々が積み上げ繋いできた想いが……時を超えて結晶となったのでしょう……。
この結界なら……私でなくとも……一族の者であれば誰にでも管理が出来ますね。
ならば……もう……良いでのしょうか? 私は……もう役目を終えても良いのでしょうか……?
結界が輝きを放ち、眩い光に包まれる……
これは……神託?
『……椿姫ちゃん、今までお疲れさま。大丈夫、これからは自由に自分のために生きるのですよ』
脳に直接語り掛けてくるような優しく慈愛に満ちた声……
「め、女神さま……はい……はい……ありがとう……ございます」
◇◇◇
「うっ……!? こ、ここは?」
目が覚めると広い和室……布団で寝かされていたようだ。
外はすでに日も落ちかけていて暗くなり始めている。すあまとまあすは……いないようだ。
だが、くノ一はいた。
「……おーい、琴都音、起きろ」
鼻ちょうちんを膨らませながら船を漕いでいる人間をアニメ以外で初めて見たかもしれない。
琴都音の肩をゆすって起こす。
「むにゃあむにゃあ……はっ!? に、忍法狸寝入りです」
一瞬ひだにゃんが化けているのかと思ったよ。
「……完全に寝ていたが?」
「寝てなどいません!!」
「ほお……じゃあキスしたことも覚えているんだな?」
「ふえっ!? き、キキキキスッ!? 未成年に何てことしているんですか!! ロリ旦那さま」
「……嘘ぴょん。やっぱり寝ていたんだな」
「……せ、成長期ですから」
「齢万を数えるんじゃなかったのか?」
「……エンシェントハイエルフの血を引いておりますので、まだまだ子どもです」
いかん……こんな問答をしている場合じゃなかった。
「琴都音、ここは?」
「村長城ですが?」
それはわかっているんだけど……質問の仕方が悪かったな。
「椿姫さ……椿姫と妹たちは? キアラさんの姿も見えないけど」
「椿姫さまでしたら西宮司と連絡をとっているそうです。すあまさまとまあすさまは、キアラさんと展望台だと思います」
そうだった。西にも結界はあるんだ。安心するのはまだ早い。そして……俺も展望台行きたい!!
「琴都音、俺も展望台に行きたいんだが?」
「ふえっ!? それは私を誘っているのですか?」
なんで照れているのかわからないが……?
「ま、まあそうだな」
「し、仕方ないロリ旦那さまですね。そうですか、そんなに私のことが好きですか……」
……ロリ旦那さまはやめようか。二歳年上なだけなんだけど!?
「待てっ!! 命殿は私と展望台に行くのだ」
バーンッと障子を突き破って転がるように部屋に飛び込んできた甲冑姿の美女。
千歳さん……障子って結構直すの高いんじゃ……?
「む、ムラナーガさま、えっと……旦那さまが誘ってくれたので……」
「黙れ、どうせその破廉恥なくノ一装束で惑わせたのであろう? 命殿、展望台に行くならばやはり城主たるこの私の方が相応しいと思わないか?」
えっと……なんでそんなにムキになってるのかわからないんだけど。
「じゃあ三人で行きましょうか?」
「そ、そうですね……」
「む、やむを得んか……」
話を聞けば、展望台へ誘われて一緒に行くと結ばれて幸せになれるとかで、この里では昔から乙女の憧れらしい。
「なんかロマンチックですね。じゃあ千歳さんは展望台へ誰かと行かなければならないときはどうしていたんですか?」
「……行ったことがない」
顔を赤らめる千歳さん。マジか……めちゃくちゃガチなやつじゃないか。なんか責任重大、意地悪な質問をしたことが申し訳なくなってくる。
っていうか城主なのに行ったことないってすごいな……
「もしかして琴都音も?」
「……わ、悪いですか?」
恥ずかしそうに顔をそむける琴都音。そういうところ案外普通の女の子なんだな。
「落下したら命に関わりますので」
そっちっ!? そっちなの? そういう時ぐらい眼帯外そうよ……。
「ロマンチックナイトペアチケット五万円です」
……この里何でも高くない!? え……五千円じゃなくて? 五千円でも高いけどさ。
「あの……城主なのにわざわざチケット買うんですか?」
冷静に考えればチケット買う必要ないよな?
「駄目ですよ、チケット買ってもらわないと効果がないんです」
なるほど……俺が払う事前提なんだな。ずいぶんと現金な伝説のようだ。
「でも千歳さん、これだけ高額だと、村の男子、プロポーズ以外では払えないんじゃないですか?」
高級ディナーとホテル代足したぐらいだし……。
「大丈夫だ。村の人間は半額で利用できるし、昼間はもっと安いからな」
なるほどね……半額でも高い気がするけど、たしかにわざわざ夜に来ることもないか。




