第十三話 何でも揃う斉藤商店
「正樹おじさん、賃貸の件、ありがとうございました」
美術部の活動が終わって、帰りに斉藤商店に立ち寄る。正樹おじさんには本当に助けてもらっている。
「おお、命くん。良いんだよ、困ったときは遠慮なく頼ってくれ。これでもおじさん結構顔が広いからね」
そう言ってウインクするイケオジの正樹おじさんは、直樹の父親で、父さんの親友だった。
そのせいか、俺のことはやけに可愛がってくれているような気がする。元々愛想が良い人だけどね。
「それより命くん、雨野先生は本当に可愛らしいね。中学生にしか見えないよ、ははは」
「ははは……本人気にしているみたいですけどね」
おじさんは気遣いの出来る人だから本人の前では絶対に言わないだろうけど。
正樹おじさんはそうなのかい、と笑いながら言葉を続ける。
「他に何か困っていることあるんじゃないのかい?」
ああ、まったく正樹おじさんには何でもお見通しだな。
「あの、実は家政婦さんを雇ったり出来ないかな、と思っているんですけど……」
「ああ、たしかにあの広さだもんね、何か希望とか条件とかある?」
一瞬メイド服姿の撫子さんが頭をよぎったが、全力で抹消する。
「いいえ、特にないです」
本当は美少女とか美少女とかネコミミとかうさミミとか希望はあるんだけど……いやこれは妄想だな。
「そうかい、そうだな……相場は大体こんなものかな。任せてくれるなら心当たりに声をかけておくよ」
おじさん、というか斉藤商店の人脈は異常なほど広く、多岐に渡っている。ここで買えないものはないというのが噂になっているほどに取り扱い品目が多いのもそのおかげなのだろう。
きっとおじさんの中ではすでに候補が上がっているのかもしれない。
まあ正樹おじさんに任せておけば間違いはないだろうし、ここは素直にお願いすることにした。
そのまま帰ろうと思ったが、ふと、思いつく。
「おじさん、絶対に無いとは思いますけど、すあまと胴長、ザリガニ釣りセットなんて置いてないですよね?」
次回があるかわからないが、撫子さんとお揃いというか、一緒にザリガニを捕りたいという不純な動機だ。
「すあまって、和菓子の? もちろんあるよ。胴長とザリガニ釣りセットも先日取り寄せたばかりだから、すぐに渡せるけど?」
……あるんだ。まさか、撫子さんもここで買ったんじゃ!?
心なしか正樹おじさんがにやにやしている気がする。
まさか勘付いてはいないだろうな?
おじさんに家政婦さんの件をお願いして店を出る。ついでに庭の設備点検もお願いした。胴長とザリガニ釣りセットはその時に一緒に届けてもらうことにして、すあまを二箱だけ持ち帰る。
撫子さんのお見舞いに行くのだ。
先生の話だと本当にただの風邪みたいなので、正直ホッとしたけど、やっぱり昨日の今日だからどうしても責任を感じてしまう。
彼女に会いにゆく口実が出来たっていうのもあるけれど、神社で神様に御礼を言いたいのだ。
撫子さんとの縁をありがとうございます……ってね。