第百二十四話 これは天然
店を出て今度こそ村長のところへ向かう。
「見て見てお兄さま、素敵なお城!!」
「うむ、お兄さまにはやはり城が似合う。攻めとるぞ」
なぜついてきたんだ二人とも。まあキアラさんは構わないというし、喜んでいるから良いか。まあすの進言は却下だ。たしかに一国一城の主というのには憧れるが味方の城だよ?
それにしても……なんてこの場所に不釣り合いな建物なんだろう。
村の奥にそびえたつ断崖絶壁。その岸壁に張り付くような形で建てられているのが、『村長城』ここに村長がいるらしい。
「でもキアラさん、なんでそんちょうとかむらおさじゃなくて、むらながなんですかね?」
「ああ、今の村長が信長っぽくてカッコイイって付けたらしいヨ」
わりとどうでもいい理由だった……。
「じゃあ以前はなんて呼ばれていたんですか?」
「天空の城ムラオーサーだったかな?」
ノリがよくわからない……。
お城を背景に写真や動画を撮っている人たちがたくさんいる。
天守閣にある展望台行きのチケット売り場もあって、完全に観光名所化しているな。よもや、ここが結界を守る隠れ里だとは誰も本気で思わないだろう。
「そう考えると、この一風変わった名付けセンスも偽装のためにあえてやっているんだと思えますね」
「いや、単に村長の趣味だと思うヨ」
……まいったな。もしかして村長さんって結構変わった人なのか?
「命、そっちは観光客用の入り口だヨ」
展望台行のチケット売り場に並ぼうとしたら、キアラさんに止められた。
ええ……せっかくだから天守閣登ってみたかったのに……はっ!? まさか……これも結界の……?
キアラさんに連れられて城の裏手にまわる。秘密の勝手口から中へ入るらしい。
「ここが入口だヨ」
ただの石垣にしか見えないけど……?
コンコンコン。
「合言葉は?」
キアラさんが石垣を叩くと中から声が聞こえてきた。
「ひらけごま」
「……お待ちしておりました」
内側から閂を外す音が聞こえて扉が開く。
……余計なお世話かもしれませんが、もう少し合言葉を捻った方が良いのでは?
待っていたのはくノ一装束を身に纏った女の子。右目は前髪で隠れていて、左目には眼帯をしている。え……? それじゃあ何も見えないんじゃないかと思わなくもないが、それよりなんか怒ってません? 不機嫌オーラが半端ない。
「いや~、遅くなって悪かったネ、琴都音」
「……私、雅さんに言われてここでもう4時間待っているんですが……」
よ、四時間……なんだか猛烈に罪悪感が……
「ハハハ、まあイタリア人の血が入っているからネ」
都合の良い時だけイタリア人のせいにするキアラさん。いくらなんでもそれは無理があるんじゃあ……
「まあ、それなら仕方ないですね」
……通じてるうううう!? すげえなイタリア人。
「初めまして琴都音さん、天津命です。こっちが、妹のすあまとまあす」
「……これは失礼いたしました。天津命さま、すあまさま、まあすさま。ムラナーガ代理の葉隠琴都音です。こう見えて、実は忍びの者にございます」
……こう見えてと言われても、そのまんまなんだけど。これはツッコミ待ちなのか? 判断が難しい。
「あはは、琴都音さんって面白い人だね」
「……そうですか? そんなこと初めて言われたので新鮮です」
すあまのツッコミを真顔で返す琴都音さん……うん、ツッコむのはやめておこう。これは天然。
「ところで琴都音さん、疑問なんだけどそれでは前が見えないんじゃないか?」
よくやったまあす、ナイスツッコミだ!!
「ご心配なく、心の目、すなわち心眼で世界を見ておりますので……」
おお……なんだかカッコいい。ということはやっぱり見えていないんだよね?
「さあ皆さま、ムラナーガさまも首をもたげてお待ちしておりますので、案内します」
ムラナーガ……なんか下半身だけ蛇の魔物みたいだな。っていうか首をもたげているの!? 怖いんだけど。
ゴンッ
前を歩いていた琴都音さんが柱に正面から激突して廊下に転がりのたうち回る。
だ、大丈夫かな……心眼とか言ってたけどやっぱり見えていないんじゃあ……?
「お、お兄さま、アレを!!」
すげえ、廊下に倒れたと思った琴都音さんが、いつの間にか中身が丸太に変わっている!?
「ふふふ、変わり身の術です」
「え……? さ、さすが……ですね……琴都音さん」
額が真っ赤に腫れていてめっちゃ痛そうですけど、変わり身使った意味あるんですかね……ああ、そうか……たしかにあんな姿を人に見られたら恥ずかしいですもんね……はい、見なかったことにします。それはまあそれで良いんですけど……あの……
「琴都音……しばらく会わないうちにずいぶんと発育したのネ……」
「え? 何の話……って、きゃあああ!!!」
琴都音さん、丸太に服残しているから下着姿なんだよね……目のやり場に困る。
「……くっ、殺せ」
そんなに恥ずかしいなら変わり身の術とか使わなければ良かったのに……。
「土遁の術!!!」
あ……庭に穴掘り始めた。
「おーい、琴都音、そんなところに隠れていないで出てきなヨ」
穴に隠れてしまった琴都音を呼ぶキアラさん。
参ったな……これじゃあムラナーガに会えないじゃないか。
「もう終わりです……葉隠の一族は、殿方に裸体を見られたら死ぬか嫁ぐしかないという鉄のおきてがあるのです。ですが、命さまは次期当主、私のような卑しい身分の忍が嫁げる方ではありませんから、もう死ぬしか……」
「いや……裸体って……下着だからセーフじゃないの? そんなこと言ったら、水着の方がよっぽど露出あるだろ」
「水着はセーフです。お風呂上りにバスタオル巻いているのはグレーゾーンですね」
……基準がよくわからない。
「命、わかっているよネ?」
「お兄さま、琴都音さんが可哀そうだよ」
「大丈夫だ琴都音、聖お兄さまなら何とかしてくれる」
……なんだろう、この外堀を埋められた感。それとまあす、聖お兄さまってなんだ?
「……琴都音、良かったら俺の許嫁になるか?」
「よ、よろしいのですかっ!? ありがとうございます!!」
泣きながら穴を這い出てくる琴都音。あの……早く服着ようね。
ま、まあ……ちょっと変わっているけど、悪い子じゃないし、こんなんで死なれたら困るし。
こうして琴都音が許嫁に加わった。




