第百二十話 一人サッカー観戦
「あの……そろそろ始めましょうかキアラさん」
「ひ、ひやい」
あああ……緊張しすぎて変な声出た……何やってんの私。
でも、ほぼ初対面の男性とたとえ添い寝だけだとしてもいきなり一つの布団に入る……よく考えたらおかしくない!? あえて布団である必要ないと思うんですけどっ!?
そんな私の葛藤などお構いなしに命の手が触れる。
ふわあ……命の神気がヤバいヨ……身体の力が抜けてゆく心地良さ。
そういえば雅が言ってたっけ……命に抱きしめられたら気絶するかもって。
あの時は大げさだと思っていたけど、全然大げさじゃなかった……
筋肉繊維一本にまで……いいえ細胞一つにまで神気が満ちている……冗談みたいだけど、もうこれって人間の枠を超えて半分神さまじゃないの?
これは本当に危険だ。もうすでに我を忘れかけてきているわ……まだ触れられただけなのに……。
「それじゃあ失礼しますね」
震えている私を気遣って、ふわりと包み込むように抱きしめてくれる命。
優しい!! めっちゃ好き!! あ……でもヤバいかも……溶ける溶けてしまうヨ~。
「ち、ちょっと待って……し、死にそうだから……」
正確には死ぬほど気持ちがよくて気を失いそうなんだけど……
「ええっ!? それは大変だ、今何とかしますから」
え……? ち、ちょっと待って……命の身体から更なる神気が……?
嘘……もしかして……今まで神気を抑えていたとでも!?
駄目……本当にそれは駄目……これ以上は死んじゃうから~!!!
あ……意識が……なんか……もうどうでも良くなってきた……
「あれっ!? キアラさん? キアラさん……」
あはは……命が私を必死に呼んで……うふふ……可愛い……
◇◇◇
「雅先生、どうしようキアラさんが……」
おかしいな……神気相当抑えたはずなんだけど猫になってしまった。
「あはははは、あのね、キアラは神気に人一倍敏感なのよ~。おかしい~」
お腹を抱えて笑い転げる雅先生。
それ……先に言ってくれませんかね。
弱っているのかと思って神気を注いでしまったじゃないですか!?
「んふふ~ところで天津くん」
「な、なんですか?」
急に真顔でくっついてくる雅先生。背が低いので、常に上目遣いになるのが反則的に可愛い。見た目の幼さもあって、妙な背徳感も相まって悪いことしているみたいでドキドキしてしまうんだよな。
「実はね、私も……人一倍敏感だったりして~?」
な、ななな何を言っているんですか、雅先生!?
「ねえ……試してみたくない? 本当かどうか?」
ごくり……見た目とのギャップがヤバすぎる……
「先生……俺、試してみたいです」
「良く言ったわ天津くん。頭使うとね、神気が欲しくなるのよ~さあ思う存分私に頂戴~!!」
それ……甘いものの間違いじゃ? あ……でも俺の神気すあまだし、間違ってないのか。
「……どうしよう。雅先生まで気絶しちゃったんだけど」
なぜかとても幸せそうな顔で眠る二匹の猫を見て途方に暮れる。
「ひだにゃん、ねえひだにゃん……」
仕方がないので、二階の部屋に戻り、霧野先輩の谷間で眠るひだにゃんを慎重に起こす。うっかり巻き込まれたら二次災害が発生してしまうからな。
『むにゃあむにゃあ……なんにゃ?』
急にくわッと目を見開くのやめてください。心臓が停まるかと思ったじゃないですか。
「与えすぎた神気を吸い取る俺にでもできる方法ってないの?」
『にゃああ……そんなのいつも命がやっているじゃにゃいか』
いつもやっている? ああ……なるほど。
「ありがとうひだにゃん、おやすみ」
『待つにゃあ命』
ブチブチッ
「い、痛てええ!?」
ひだにゃんに髪をむしり取られた。なんなんだ一体?
『にゃふふ……すあまスティックにゃあ……』
寝ぼけながらすあまスティックを食べるひだにゃん。
はああ……俺も食べたいすあまスティック……だが俺が食べたらただの髪の毛。
「起きてくださいキアラさん」
目覚めのキスをすると、パチリと目を開くキアラさん。
状況を察したのか、みるみる顔が真っ赤に染まって悶絶しているのが可愛い。
「もしかして……き、キスしたの? 命」
ジト目でにらんでくるキアラさんから思わず目を逸らしてしまう。
「は……はい」
「……もう一回」
「……え?」
「だから、覚えていないからもう一度しなさいヨ」
さすが世界の天才指導者。その後、合格をもらうまでみっちり居残り特訓をさせられた。
「さてと……次は雅の番ネ」
「あの……何をしているんですかキアラさん?」
なぜか雅先生の上着を脱がし始めるキアラさん。目のやり場に困るんですけど……
「何って雅を起こすに決まっている」
「それなら俺がキスで……」
「それは駄目、私で散々遊んだんだから、きっちりお返ししておかないとネ」
キアラさんが怖い。これは黙って見ているしかなさそうだ。
「ふふん、相変わらずサッカーボールみたいなモノ持ってるじゃないノ」
たしかにサイズはちょうどサッカーボールにも見えなくもないけれど……
え……キアラさん? まさか……
「ほらほら、早く起きないと大変なことになるわヨ~?」
両足で器用に蹴りながらドリブルを始めるキアラさん。あの……何してんすか?
キアラさんに蹴られるたびに大きくバウンドしながら揺れる雅先生のサッカーボール。
「くらえ、必殺パイシクルシュート!!」
ひいい……やめてキアラさん、そんなの痛すぎます!!!
さすが元サッカー少女のキアラさん。ボールの芯を捉えたシュートは大きく弧を描きながら、床で跳ね返り、勢いそのままにキアラさんの顔面を撃ち抜いた。
「うーん……あら、おはよう天津くん。キアラったら、まだ寝ているのね~ふふ、お寝坊さん」
「せ、先生……あの、上着……」
「きゃあー、天津くんのエッチ~!! 寝ている間に何をしたのかな~? 正直に先生に答えなさい~んん~?」
何をと言われましても……キアラさんの一人サッカーを観戦していました……信じてください。




