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魅惑の炭鉱

更新再開遅くなってすみません。11章は全16話です。

「俺たちは炭鉱を1つ押さえる必要がある。そしてその炭鉱はビアステット家の支配下にある」

「ウィル、ドワーフの炭鉱は複数あるんだろう? そこじゃないと駄目なのか?」

「駄目だ。その洞窟は未開発だが、全ての種類の鉱石の採掘ができる」

「何故未開発なのにそんなことがわかる」

「えっと、俺の運がそう囁いている?」

「意味わかんねぇ」


 ソルとウォルターが言い争っていた。

 今日はウォルターの快気祝いのはずだったのだけど、そんな雰囲気じゃない。職人街の外れのレストランはがやがやと騒がしく、狭い座席と座席の間を縫うように給仕がエールの入ったグラスをせわしなく運んでいた。


 私たちは35階層のサンダー・ドラゴンを倒した。そしてウォルターだけが負傷した。それは想定外の怪我だった。想定外だけれど、普通であれば考えられない軽症だ。

 雷の直撃を受ければ即死していたかもしれない。というか普通は死ぬだろう。そして雷が落ちない意味がわからない。それほどあのボスフィールドでは雷が降り注いでいた。世界が白く染まるほどだ。

 けれども私たちはウォルターのラックにかけたんだ。ウォルターならきっと、雷が落ちない。そう信じた。

 これはファイアー・ドラゴン戦の甘い見通しと違ってギリギリまで方法を検討した上での結論だ。

 そして他に方法がなかった。

 これ以上ないほどの、思いつく限りの雷対策をした。万一ウォルターが雷の直撃を受けたら、全ての神樹を防御に回してウォルターの蘇生と回復を最優先にした上で撤退する予定だった。死んでも直後であれば蘇生できるというソルの言葉に乗ったそんな作戦。


 その最悪の事態は免れた。けれどもウォルターは直撃は避けたはずなのに倒れた。

 ウォルターは側雷撃というものを念頭に置いていなかったと言う。だからラックでそこまでは避けきれなかったんじゃないかと。それに近くに雷が落ちるのを避けられない以上、ラックがあっても即雷撃を避けるのは不可能だったかもしれないと。

 アレクがサンダードラゴンの首を切り落とした直後に振り返れば、ウォルターは地面に横たわっていた。まさかと思って駆け寄ると、生きていた。心の底からホッとした。けれども耳が聞こえていないようだった。あれほどたくさんの雷が至近距離で落ちたんだ。離れていた私たちでもその轟音に耳を塞ぐほどの音。ウォルターの鼓膜は破れていた。対策が甘かった。

 そしてその耐電装備を急いで脱がせると、高温の蒸気と熱気が立ち上る。急いでポーションを飲ませ、追いついてきたソルに回復を任せた。ソルはただでさえまだ解放下限に満たないコルディセプスを顕現し、ニーヘリトレという新たな神樹を操った。その魔力は大きく減じていたけれど、同じようにポーションをがぶ飲みしてウォルターを癒やす。

 それでもその場で全てを回復するには至らず、一命はとりとめたが残りは一旦戻って治療をするということになった。

 気がつくと、いつの間にか黒雲に包まれていた雷のフィールドは爽やかな青で満ち、晴れ渡っていた。


 私たちは次の冒険の準備をして、36階層の攻略を始めながら、夜にはソルが王城に詰めてウォルターに回復魔法をかけていた。

 それでようやく回復して、明日一緒に36階層を踏破する予定。この会食はその打ち合わせも兼ねている。

 さっきから私はなんとも言えないもやもやした気分に陥っている。

 それはなんというか。ウォルターの容姿に後遺症が残ってしまったからだ。まっ白でもちもちしていたウォルターの肌に稲妻模様の痣が赤く浮かび上がっている。それはリヒテンベルク図形と言うらしく、雷や側雷撃を受けた時に出来るものらしい。そうウォルターは得意げに告げる。

 多分ゲームのウォルターファンが見たら悲鳴を上げるだろうほどの痛々しい代物ではあるのだけれど。

 いえ、ソルに聞くと完治させることは可能なのだけれど、わざと残すことにしたそうだ。

 それで残すという理由がなんというか。


「あの、ウォルター、その傷跡……」

「おう、かっけぇだろ!」

「かっこいいよな!」

「いや、ソルもそういう事じゃなくて……」

「なんつーか厨二心を擽るっていうかよ」

「チュウニってなんだ?」

「いや、なんでもない」


 ウォルターとソルと妙に意気投合しているのは別にいいんだけど、なんていうか、その馬鹿みたいな喜び方がかぶるのだ。前世に。

 うーん、まさか、まさかね。全然違うもんね。でもよく考えたらその知識の偏り具合とか行動とかが前世のあいつにそっくりに見えてきたというか……。うーん。

 でももしそうならウォルターだって私に気づくよね、多分。ええと、だって今世で婚約者だったわけでしょう?

 その、私の知識もずいぶん偏っているわけだからさ? でも偏り始めたのはエンディングを拒否して、つまり前世の記憶を思い出してからで、それでも術式装備とかをみればわかるような。

 けれどもソレって今は聞けない。皆が居るし。


「どうしたマリー?」

「いや、別に、何でもないの。それより、そ、そうね、36階層の話をしましょう。ウォルター、あなた本当に大丈夫なの? 体の方は」

「おう、ばっちり」

「体は問題ないはずだ」

「ソルが言うならそうなんでしょうけれど」


 それで36階層は砂漠の階層だ。

 階層ボスはサンド・ストーム。巨大な芋虫が見えない砂中から襲いかかる。けれどもその出現ポイントは振動でわかる。それに虫なだけに、その攻撃は単調だ。アレクの大剣があれば倒すのはさほど難しくはないだろう。

 作戦をある程度固めると、やはり話はその次の37階層に移る。鉱山のフィールドだ。

 『幻想迷宮グローリーフィア』ではここで鉱山、もっというと内政と科学技術の発展に必要な鉱物を発見採掘することがその後の街の発展に必須となってくる。そしていわゆるミニゲームが発生する。ゲームでは複数の鉱山のうちのいくつかを選択してサイを振る。鉱山によって出やすい鉱石や算出できる鉱石量が異なるけれど、そのサイの目に従って鉱石を得る。

 けれども現在、この世界では全ての鉱山がどこかの貴族との間で専属契約が成立していて、その管理下に置かれている。その大部分はビアステット家だ。


 私たちがエンディングを迎えるには、街の発展は必須なのだと思う。

 ゲームであれば主人公パーティが攻略の最先端にいたからどの鉱山でも選び放題だった。

 けれども各貴族が既に自らの管理下に在ると冒険者ギルドと国に届け出られていて、しかも実際に採掘を行っている。つまりどう見てもその貴族家が専有している状態といえる。他の貴族家が手を出しようがない。

 これがせめて王家、つまりアルバートのパーティであればその資材は王都に落ちる。それによって王都の技術開発に資するのかもしれないけれど、貴族家は自らの領地のためにダンジョンに潜っているのだ。全ての炭鉱が貴族家で占められているのであれば全ての資材が貴族家領土に流れる。つまり今後の王都の開発に支障を来す。


「ビアステット家から炭鉱を1つ借り受けることはできないの?」

「うーん、あんだけ派手に喧嘩別れしたからなぁ。その目はあんまり期待しないほうがいいな。それに俺はあのカステッロに嫌われている」

「あぁ、うーん」


 そういえば『幻想迷宮グローリーフィア』でも、本来グラシアノとアレクの相性が悪いように、本来ウォルターとカステッロも相性があまりよくない。従兄弟だってことは設定には全然出ていなかったけれど、ひょっとしたらそういうのも影響しているのかな。

 でも従兄弟だって知ったのって本当にほんのすこし前なんだけどな。アレクの出身国がバーヴァイア王国からキヴェリアに変更になっているし、身分的なものはそもそもずれているのかもしれない。

 何故そんな部分がずれているんだろう。身分でしょう?

 それこそ基礎的な設定なんじゃないのかな。

 それからもう1つ懸念すべきことは魔王の欠片のことだ。

 37階層には新しい魔王の欠片がいる。魔王の絶望ベルセシオ。この欠片は炭鉱の奥深くに眠っている。

 そしてビアステット家にはギローディエがいる。だからギローディエとの遭遇も予想された。ギローディエをテイムしているビアステット家が37階層の鉱山の多くを所有しているのだから。


 魔王の欠片同士はその位置がわかる。ベルセシオは埋まっているわけで、どの程度正確に位置がわかるのかはよくわからないけれど、そこに向かって掘り進めることは可能だろう。

 もし、欠片同士が出会ったらどうなるのか。

 『幻想迷宮グローリーフィア』であれば殺し合いが始まる。共存は不可能だ。けれどもエルフの森で会ったギローディエとグラシアノは戦闘にはならなかった。それはギローディエが今ビアステット家にテイムされているからなのか、それとも魔王の欠片としての必要な情報が欠けているからなのか。

 それはどちらかわからない。

 次にギローディエとグラシアノが会ったら、戦闘になるのだろうか。

 それもわからない。わからないことだらけ。


 それから。

 37階層にはアレグリットもいるかもしれない。アレグリットは上質な武器を製造している。現在の最下層到達地点は39階層で、その中で最も上質な鉱石が算出されるのは37階層。だからどこかの貴族家から鉱石を買い取っているか、鉱山の採掘権を借りているのかもしれない。ダンジョンに入るのもヴェークマン子爵家の許可証を借り受けていたようだから。

 正直、ヘイグリットに会うのは恐ろしい。王都以外で会いたくはない。

 ダンジョンでは何が起こってもどうにでもなる場所なのだろう。たとえ私たちが殺されたとしても、いいえ、行方不明になったとしても、それは冒険途中の不幸な出来事として処理されるだろう。


「どっちみち行ってみないとしょうがねぇ」

「それは……そうね。そういえばウォルター、鉱山で欲しい素材でもあるの?」

「あ? あぁ。俺は鉄が欲しいんだ」

「鉄? それならもっと上の階層でも出るじゃない」

「いや、上の階層の鉄は純度が低いんだよ」

「純度?」

「そう。簡単に言うと色々な不純物がまざってスカスカだ。ギルドで採掘品リストを見たが37階層の鉄は他の階層と密度が段違いなんだ。強い鋼と作るのには37階層で採掘ポイントを確保する必要がある」


 密度。鉄の密度なんてそんなことを考えたことはなかった。

 もともと私は鉱石なんて詳しくはない。これはこの世界では常識なのかな。

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