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地の果てと世界の境界

「では作戦会議を始める。報告しろアビスゲー」


 空いた部屋に机と椅子を並べて会議室を演出する。ホワイトボードがあればばっちりかもしれん。

 みんな大人しく座ったり浮かんだりしている。共感は得られそうにないが、俺的には何となく満足するシチュエーション。


「はい魔王様。ゲート展開できる範囲は多少の凹凸はありますが、およそこのエスターライヒ国の国境の範囲です。その東西南北の4地点にゲートを開設いたしました。北は森林、西は街道近く、東は荒地、南は砂漠となります」

「で、結局誰も国境を越えられなかったわけか」

「そうねぇ。おかしいの。透明な壁があってその向こうには行けない。オープンフィールドの階層と同じ。でも抜けられるものもあった」


 ふうん。

 ダンジョン内にはオープンフィールドと呼ばれる場所や階層が複数ある。有名なところでは15階層の密林や16階層のワイバーンの丘。昨日主人公たちが超えたアイス・ドラゴンの氷獄もそうだ。

 そのフィールドの辺縁はどこまでも続くように見えても限りがある。俺も一度ワイバーンの丘の端っこまで踏破したが確かにそこには壁があった。視覚上はどこまでも景色が広がるように見えたけれども透明なガラスのような壁で阻まれて通れなかった。移動のために余分にポップさせたテスタロッサも、俺が色々持ち歩いてる素材や同じ階層に落ちていた石ころも。

 だからここが本当の壁なんだろう。これより向こうの景色は立体映像なのかなんなのかはわからないが、何かが投影されているだけなのだろう。まあただその辺縁ってのはおっそろしく遠くてな。全力のテスタロッサでも三日三晩かかった。全力で飛んで壁にぶち当たったものだから、テスタロッサはでかいたんこぶを作ってた。悪かった。


「ダルギスオンも同じだったわけだな」

「そうよな。霊体でも抜けられぬ。だがヘイグリッドと面白い実験を色々したのだ」

「うん。服は抜けられたの。だから抜けられないのは純粋に私たちの体だけ、ダルギスオンを考えると霊体もなのかしら?」

「ゴブリンを壁際に立たせてな。当然ながら抜けられはせぬのだが、こいつが殺したらその死体は壁の向こうに抜けたのだ。そしてわしが使役しようとしたら反応が妙だった」

「この人本当に面倒くさいのよう」


 ダルギスオンは『幻想迷宮グローリーフィア』でも死霊術師、ネクロマンサーだ。つまり死のエキスパート。自身を殺して自ら操っている設定になっている。つまり変態だ。こいつの言っていることを要約すると、死んだゴブリンに術が通った感じはしたが、失敗したようでもないのに動かない。そこに違和感があったらしい。

 足を掴んで壁の内側に全身を引き摺り込むとゴブリンは問題なく使役できた。けれども壁を越えることはできなかった。使役を解けば壁を越えて倒れ込む。次は頭部だけ壁の内側に残して使役した。そうすると壁の内側にある部分だけ動き、腹から下だけ内側に残した場合は術は通った感じはしたのに動かなかった。


「使役するには動かすための頭が必要だからな。おそらくわしの魔術か魔術の作用が壁を越えられぬのだと思う」

「ヘイグリットはどうだ」

「そうねぇ。私は魔法は専門外だけど剣は通ったわよ。壁の外の木は切れたわ。でも切った張ったは結果なのよねぇ。動かないものなんて刀を抜く前に切れるとわかるもの」

「ふうん。居合以外だとどうなんだ?」

「わからないわよ。大事な武器がすっぽぬけちゃったら回収できないかもしれないでしょう? そんなことできるはずないじゃない」


 ヘイグリットは純粋剣士だ。魔法のように剣術を扱うが魔法自体は使えない。

 鋼のようにしなやかに鍛え上げられた肉体から繰り出される技で全ての存在を断ち切る。魔法すらも。

 そしてその武具は特殊な方法で創られる。だからまあそれを失いたくないというのは当然で、その作り方故に信用できない他の武器を手にすらしたくないというのも理解できる。


「壁自体は切れなかったのか」

「そうねぇ。ダメだったわ。なんていうのかしら。対峙すると切れなくはない、そうは思うの。けれども実際剣を構えると何だかよくわかんなくなっちゃう」

「なんだそりゃ」

「魔王、それはあたしも確認したよ。西の壁は主要街道を横切っててさぁ、たくさんの人が行き来してんの。そんで多分、この国の人間が壁の外に出ようとするとふぃって反対を向いて元の道に帰っちゃうのさ。しばらく歩いていると帰ってることに気がつくみたいで、また壁に向かって歩いてくんだけど、またふぃって帰っちゃうの。まるであたしのイタズラみたい」

「フィーリエットの幻術でもダメなのか?」

「ダメだった。なんかくるくるその場で回っちゃうの。それはそれで超面白いんだけどー! ダルギスオンの言う通りだとしたらあたしの術が壁を通らないのかな。あ、でも外から来た人は自由に出入りしてたよ。変ねー」


 フィーリエットは妖精女王のふりをしている不思議生命体だ。存在するものの認識を塗り替える。商人や町人の太刀打ちできるレベルではない。そうすると外から来るものは自由に行き来し、内から出ようとするものは閉じ込められる、わけか。


「例外はなさそうか」

「わかんなぁい。入った人とぉ出ていこうとした人全員に手下を貼り付けてるんだけど。うーん、今んとこは全部当てはまるかなぁ。ねね、なんであたしたち出らんないの?」

「それを今調べてんだよ」

「魔王はお外に出たいの?」

「あ゛?」

「お外に出たいから調べてんの?」

「俺は寧ろ出て行きたかねぇな。けどな。出ないといけねぇ時が来るかもしんね。そん時に出れねぇと困るじゃぁねぇか」

「なんで?」

「何でもだ」


 少し頭がチカっとした。チッ。こいつ今、幻術かなんかかけようとしたな。油断も隙もねぇ。

 俺は頭の中に浮かんでるその未確定な可能性を今説明するのがいいことかどうかがわからねぇ。こいつらがゲームの中でどういうキャラかのおおよそは知っている。けれども1年経った時、それがどう変化したのかはわからん。だからとりあえずどんな奴かがわかるまでは様子見だ。


「次だ。アビスデー。報告しろ」

「承りました。ダンジョンにおける難易度設定は現在5段階が可能です。仮定的に容易なものから難解なものまでを1から5の難易度として表示しますが、任意の階層においてその変更が可能です。現在のグローリーフィアは全て3の設定となっております」

「ねぇアビスデー、その難易度というのを上げたり下げたりするとどうなるの?」

「はい。難易度は地形及びポップするモンスターの強さとして反映されます。1であればより平板な地形でより弱いモンスターが少量発生します。5であればより急峻な地形に強いモンスターが大量発生します」

「難易度を5にして欲しいわぁ」

「申し訳ありません。ヘイグリット様に変更権限はございません」

「魔王様ぁ」

「俺にもねぇよ、諦めろ。他に可能なものはあるか」


 今の俺にできること、そしてヘイグリットたちにできること、アビスたちにできること、それぞれのできないことを一つずつ紐解いていく。このダンジョンで作り出せるもの、不可能なもの。そんなものを選り分けていく。


 最もダンジョンを動かせるのはアビスたちだ。

 アビスたちはゲーム内に存在しなかった存在だが、まさにこのダンジョンを動かすために存在する。ゲートを作り、ダンジョン内の調整を行い、ダンジョン内のモンスターを管理する。まごうことなき元々の俺の部下。

 そして41階層以下はヘイグリットたちネームドが階層ボスとなっている。彼らはその階層を一定の範囲で自由に作り変えることができる。

 そして俺。俺は魔王グローリーフィアだ。このダンジョンの最高位に君臨し、世界に栄光と恐怖をもたらす存在。そしてもう一つの名を持つ。このぎゅうぎゅうと窮屈に押し込められた広大なダンジョンを支配する者としての名前。

 アビスたちの報告を聞くうちに俺は確信を深めていた。

 俺ができること。俺ができなくなったこと、俺の存在について。


 俺は形作られた俺の右手が果物をつまむのを眺めながら左腕で頬杖をつく。猫28世男爵画伯さんが形作ったこの俺の体を。指が長くてきれいだな、やっぱり。まあそんなことは別にいいんだが。

 一通りの確認を終えて解散する。

 残ったのはヘイグリットとフィーリエットだ。


「おら、てめぇも解散しろ」

「魔王、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないの? あなたは一体誰なの?」

「あ゛ぁ? 俺が誰だろうとお前らになんか関係あんのかよ。魔王だよ」

「ごまかされないんだから!」

「別にごまかすつもりはねぇよ。正確にいうと俺は魔王グローリーフィア・ミフネだ」

「何よそのミフネって」

「設定外事象だ」

「わけわかんない!」

「以上だ、出てけ。叩き出すぞ」


 フィーリエットはぷりぷりしながら部屋を出ていった。

 フィーリエットはその言動から、恐らく魔王の地位を狙っているのだろうな、とは思う。フィーリエットはゲームでは妖精女王という設定だった。けれどもあれはそれを装っているだけにしか思えない。

 いや、本当はやっぱりよくはわからない。1年を経過して変化した存在ではないかと思っているがこいつはそもそも認識をいじるからな。俺は影響をうけていないとは思うがそこの認識自体をいじられてればよくわからない。


 基本的には俺が厳密な意味で『魔王グローリーフィア』でなくなってから、その態度を変えた者はいる。ヴェスティンクニッヒなんて呼んだって反応1つしやしねぇ。ヴァッサカリアはまだ存在しないからわからんが。だがそれは別にいい。俺はこのダンジョンにいる意思ある者全てに『好きにしろ』と言ってある。

 ポップするモンスター類は自由もなにもなくダンジョンのシステムに従っているが、名前のある奴らには多少なりとも自由意志というものがある。


「さて魔王様、今日もお手合わせをお願いしたいわぁ」

「いいぜ。俺も腕が鈍るしな」

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