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魔王様の直近のご予定

「ブロディ、39階層を最初に抜けてくるのはおそらく主人公パーティだ。それは変わらない。次点の可能性はアルバートの王家パーティ。けれども同率2位はスタルケスの単独パーティだ。1人だからパーティというのはわからんが」

「スケルタスはなぜダンジョンを潜っているんだ? 1階層から降りてきているのだろう?」

「俺もさっぱりわからん。というか、マジであいつがスケルタスなのか?」

「名は知らん。あいつにもともと名前があったのかどうかもな」


 今日は特に会議というやつではなかったが、モニタルームに降りるとブロディアベルがモニタの1台を眺めていた。俺もここ最近、久しぶりにモニタを見ている。そして困惑していた。

 ここ1ヶ月ほどで急激に階層を下っている者がいる。しかも単独でだ。

 そして今、サンダードラゴンを1人で倒そうとして、感電してよくぶっ倒れている。意味がわからない。そしてその名をスケルタスと言うそうだ。『幻想迷宮グローリーフィア』ではスケルタスは全くグラフィックが表示されなかったが、あの姿で間違いがないのか? 困惑しかない。

 そしてあいつはどこまで降りてくるのだろう。


 41階層、魔族王ブロディアベルの吸血鬼の千年王国。

 42階層、死霊王ヴェスティンクニッヒの荒野の廃墓。

 43階層、獣王ヴィーリーの世界平原。

 44階層、人造王グーディキネッツの技術の塔。

 45階層、世界龍ティアマトの疑似世界。

 46階層、妖精王フィーリエットの幻想帝国。

 47階層、無謬のヴァッサカリア。ここの階層は特殊で、主人公パーティが40階層に到達した時点でフィールドの性質と階層ボスが決まる。複数タイプのボスが発生するが、その名は全てヴァッサカリアだ。

 48階層、魔人ヘイグリットの住処。

 49階層、最果てのダルギスオン。

 50階層、迷宮主魔王グローリーフィアの魔王城。


 『幻想迷宮グローリーフィア』でスケルタスが現れるのは特殊な条件が必要だ。主人公はダンジョンに一度も降りることなく内政極振りプレイをしているときのみ、最後半でギルドで雇うキャラだ。つまり主人公が最初からダンジョンに立ち入っている今、発生条件が欠けている。

 けれどもその名を聞くようになったのは最近だ。アッシュ公爵家という貴族家が雇ったという。しかしその貴族もダンジョン発生時からダンジョンに入っている。わけがわからない。

 このわけのわからない展開がバグによるものなのかはよくわからない。


「あいつはこれまでどこにいた? 都下にいたのか?」

「わからないわぁ。少なくとも私は見ていないけれど」

「アッシュ家はどこでスケルタスを雇ったんだ? ギルドに依頼したのか? 公爵家が?」

「ギルドに聞いてみましょうかぁ?」

「そうだな……手空きの時にでも頼む」


 公爵家がわざわざ子飼いではなくギルドを通して人を雇うのもなにか妙な気はするな。

 エスターライヒか。最近行けてないな。行けてない理由は明白で、グラシアノが地上に出たからだ。ギローディエが地上にいるのは知っていたが、あれはビアステッド家に常駐していて、職人街にこないからエンカウントしない。けれどもグラシアノ、というより主人公パーティは商人街に店を構えているし、アレグリット商会やら『幸運の宿り木亭』によく訪れる。ヘイグリットがいうにはグラシアノは特に宿り木亭の料理を気に入っているそうだ。

 そうすると、予想外のエンカウントの可能性がある。


 おそらくだが、魔王の欠片同士はソナー的な何かでお互いの存在を認識し合う。

 王都、つまりダンジョン外であればその指向性の追跡波はどこまでも空中に拡散して相手にぶち当たることはないのだろう。けれどもダンジョン内であれば広大なフィールドであってもソナーは減衰せず、おそらくダンジョン壁にソナーが反射して相対的な位置関係を把握することができてしまうのだ。

 俺もエルフの森で感じたが、グラシアノとギローディエの区別はつかないが、位置関係はリアルタイムでわかる。


 それで俺が2人と会えばおそらく戦闘になる。それはダンセフェストと会ってわかった。ダンセフェストがああなったのもひょっとしたら半分くらいは俺のせいかもしれない。もともとああなのかもしれないが。

 ともあれ俺がグラシアノかギローディエに会うと高確率で戦闘になる、と思う。積極的に闘うつもりはサラサラ無いのだが、欠片というものの性質によって運命がねじ曲がる、というより『幻想迷宮グローリーフィア』の強制力が強固に及ぶ可能性がある。

 必然性があってそうなるのなら仕方がないが、気をつければ回避できるところで下手を踏むつもりはない。俺は別に主人公パーティと揉めたいわけでも王都で戦闘がしたいわけでもない。アレグリット商会はそれなりに楽しいしな。


 アレグリット商会の用事はヘイグリットが聞いてくるし、王都の研究会と図書館の調査もヘイグリットとダルギスオンが向かっている。どうしても必要ならこちらの会議にソルタンを呼ぶこともできるだろう。

 けれども今、オファーが来ていた。

 武闘大会とファッションショーだ。

 武闘大会については武器の特性キャンセルのための器具はうち、というよりグーディキネッツが開発したものをつけることにした。流石に武器の力で勝ち抜いてもつまらないからな。


「ブロディもヘイグリットも武闘大会出ないんだろ?」

「興味がない」

「私も別にぃ」


 この辺も『幻想迷宮グローリーフィア』と異なるところだ。この2人は都下で現れる場所は違うが、主人公との好感度が上がれば両方とも武闘大会に参加するイベントが用意されている。

 ブロディはゲームと違ってそもそも引きこもっていて、都下に出た形跡がない。だからフラグの立ちようがないが、ヘイグリットは主人公の好感度がそこそこあるような気はするから武闘大会に出場すると言い出してもおかしくはない。そもそも論をいうとヘイグリットはゲームでは主人公が武器屋を開いた場合、その周辺でイベントが用意されているのであって、ヘイグリット自身が飲食店をはじめるというフラグはゲームに設定されていない。だからそのせいかもしれないが。


「魔王様は出場するんでしょう?」

「しねぇよ。したら俺が圧勝しちゃうじゃんか」

「あれぇ? そう言ってませんでした?」

「ああ、選手としてじゃなくて来賓挨拶みたいのに呼ばれてはいるんだがパスだ」

「俺は俺の国にしか興味がない。用は足りた。失礼する」


 ブロディはいつもどおり、興味を失えば自分の階層に戻っていく。

 ゲームではもう少し社交性があった気がするな。でもあまり変わらないような気もしなくはない。わからない。

 武闘大会にはギローディエが出ると聞いた。だから挨拶は断った。流石に視認範囲で目が会えばソナーが直撃しそうな気はする。万一遭遇して衆人環視の下で戦闘になるのも馬鹿馬鹿しい。

 そもそもグラシアノはともかくギローディエはビアステット家にいることが多いから戦闘になる機会は少ない。なのに自分から作ってどうする。


「ふぅん、じゃぁファッションショーは?」

「あっちはどうすっかなぁ。コンペ参加者として出て欲しいと言われてるんだよなぁ」

「ねぇ私、モデルっていうのやってみたいわぁ」

「お前が? うーん、お前結構ゴツいじゃんか」

「駄目かしら」

「俺の服はああだぞ、いいのか?」

「珍しくて面白いかなぁと思ってぇ」


 ヘイグリットのメイングラフィッカーは明け大山人さんだ。俺のテイストとは大分違う。なんだか二次創作みたいで妙な感じはするが、こいつに似合う服、か。そう考えると俺は既にヴェスの服を作ったわけで、くるまえびさんの二次創作をしている、ような。

 それにしてもヘイグリットがファッションショーに出るのか。そんなイベントは『幻想迷宮グローリーフィア』には存在しない。だからこれは俺の完全オリジナルなイベントになるのか。俺のイベント?

 何か支障はあるのかな。

 当然ながらヘイグリットが魔人で階層ボスなことを知ってる人間は転生者くらいだ。だから別に見られても困りはしないんだろうが、特殊サイズだなぁ。改めて眺める。ヘイグリットというのはただでさえ大柄で、鋼のようにしなやかなれど、ベースの筋骨は隆々と盛り上がっている。うーん、これがバエる服? えっと全年齢対象なんだよな、コロシアムでやるってことは子どもも見に来るんだよな。

 やっぱ。そうすると露出は抑えたほうが、いやいや、うーん。


「それでミフネちゃんと一緒にランウェイ? を歩くの」

「俺は自分の服は着ないぞ?」

「えぇ? そうなんですかぁ?」

「いや、流石にアレを自分で着ようとは……」

「つまんなぃ」


 けれどもファッションショーかぁ。

 パナケイア商会が色々なデザイナーに声をかけているようだから、正直見に行きたくはあるんだよな。『幻想迷宮グローリーフィア』のグラフィックはゲームなだけに奇妙奇天烈なのが多いのだが、一般市民の服というのはモブ感溢れる、というか実際モブなわけだけど、ともかく個性がなさすぎるのだ。

 グラシアノとギローディエが参加しないという状況であれば参加したいが、入場制限なんてできるものなのかなぁ?


 けれどもいずれ、都下には近々いかなければならない。魔女との接触をエリザベート、いや、今はエルトリュールというんだったかな。それが行うらしい。それには参加したい。そろそろこの絡まった運命の糸を強制的に何とかできる人物、それが本当にいるのなら、それに強引にでも会わないといけない。俺がこの『魔王』という運命を抜けるにはそれしかないと思うんだ。


「ミフネちゃん、また難しいこと考えてるでしょう?」

「たまには頭も使わないと鈍るぞ。装飾品じゃないからな」

「私も結構使ってるもん、どうやったらミフネちゃんを倒せるかとかぁ」

「お前も変わんない(・・・・・)な」

「倒せるヒント下さいよう」

「そうだなぁ……たまには素手でやってみるか?」

「素手? 私の大切な剣はぁ?」


 ヘイグリットにとって何よりも大切な剣。

 ヘイグリットは魔人だ。そして48階層の階層ボスだ。俺が魔王であるのと同様に、その運命の糸はヘイグリット自身にも深く絡まっている。


「しゃぁない、稽古すっか」

「やった! じゃぁ行きましょう」

「いや、今日は他の所が良い」

「他だと邪魔が入っちゃうわよう」

「そうだなぁ。ワイバーンの丘にでもいってみるか」


 17階層へ向かう転移陣を抜け、荒野に出る。

 この階層の中心に目を向けると、わずかに緑が見えた。

 ここは48階層ではない。48階層というのはいわば『ヘイグリット』が支配するヘイグリット自身だ。そこから切り離すこともなにかの変化になるだろう。


「何ここ。何も無いわねぇ」

「17階層はすげぇ広いんだよ。それでここはその端っこだ。テスタロッサでも全速力で3日かかるから誰も来ねぇ。ゲーに転移陣を作らせた」


 ヘイグリットが物珍しそうに透明な壁にふれる。

 以前調べたが、ここの先はおそらく何もない。ただ、遠くまで広がっているように『見える』だけだ。グーディキネッツに調べさせたところ、幻覚というよりはどこまでも見えるようなテクスチャが張られているらしい。

 だから魔女の結界とは違うものだ。


「やるぞ、ヘイグリット」

「喜んで」

「けれども素手だ。剣はしまえ」

「あの、本当に?」

「あぁ。守破離という概念があってだな」


 ヘイグリットは出した剣を残念そうに仕舞う。

 ヘイグリットの家に行けば自慢したいのかヘイグリットはこれみよがしに並べ立てているが、そもそもヘイグリットとその剣は同一体だ。言葉にするのは難しい。倒して食らった者を自己の力とする。それが魔人の生態だ。

 それでヘイグリットは俺が俺から折り取って作った『魔剣グローリーフィア』だけを外に出す。ヘイグリットが取得はしたが、手に入れていない力。


「『守』というのは最初の教えを守って身につけることだ。お前も一番最初は誰かに習っただろう?」

「ええ。そうねぇ。随分昔にお師様が居たわぁ。でも殺して食べたの。とはいっても、お会いした時既に大分弱られていたから力を引き継いだというのが正しいのかしら」

「へぇ。それで『破』というのは他の流派や教えから優れたものを手に入れて、既に取得した守の殻を破って発達させる段階だ。お前が集めてる剣みたいなものだな」

「優れたもの。そうねぇ、たくさんの人を食べてきたわね。それで強くなったのよ。ミフネちゃんには全然敵わないけど」

「それで『離』というのはこれまでの学び、破から得たものから離れて自ら独自のものを組み上げることだ」

「離れて?」

「そうだ。お前が大切にしてきたそれらの剣の形に捉われるな。それにお前はそれが出来ていたはずだ。多分」

「私がぁ?」

「うん。何故ならその剣どもはお前の内から出現しているからだ。そうだろ?」

「私の……?」


 ヘイグリットは自身の手のひらを眺めた。アディーユのような細身の剣であればヘイグリットはその手のひらから剣を出現させる。グリアーイオのような巨大な剣はその胸だか腹だかから出している。あの巨大な銀鉄板の長さはヘイグリットの身長を越えていて、物理的に体内に収納できるサイズじゃない。だからあれらの剣はヘイグリットがわざわざ体内で組成し、その体内から分離して作出しているのだ。それなのにわざわざ自分とは異なる存在だと定義づける。

 俺にはそれはひどく二度手間な行為に感じる。

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