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終幕 Ⅱ (ラルフ視点)

それからすぐにクロード殿下は毒杯を賜り、この世を去った。

出生まで遡って王籍を剥奪され、その遺骸は王墓には納められることはない。しかし、本人は計画など知らなかったことを理由に、国王陛下自らが墓所をお決めになった。誰かに暴かれることがないように、この国のどこかに埋められているそうだ。


国王陛下はクロード殿下の死後、気鬱の病に掛かってしまった。あの方は、本心ではスティーヴンよりクロード殿下を可愛がっていたのだから。母である側妃は陛下の王立学院時代の恋人だった。王妃殿下との御結婚の前からの仲だったとかで、身分差故に正妃に出来ないと分かって、妊娠という強硬手段を使って側妃に召し上げたのだ。


そんなことをしなくとも、せめて相談してくれていたなら許そうとしたと王妃殿下は仰っていた。しかるべき順序を踏んで事に及んでいたのなら、子爵家は甘い期待に踊らされることもなかったかもしれないと。


側妃一派へ下された罰は一見甘いようにも見えた。国王陛下が裏で画策していたことは分かっている。それに気づかぬフリをして、思い通りになったように陛下は感じているかもしれないが、決してそんなことはない。結局、側妃一派は黄泉路へと旅立ち、陛下の周囲に愛する者はいない。


これが王妃殿下の復讐だ。そして自らの血を引かない再従弟に、そうとは知らずに王位を譲るのだ。政略結婚という契約を足蹴にし、一等大事な息子を死に至らしめる原因となった男を、たとえ伴侶と言えど王妃殿下は許しはしなかった。



“スティーヴン”となった男は、相変わらずスティーヴンの人生を生きている。元は平民であったとは思えないほどの才覚を現し、今後も王室に貢献していくことになるだろう。彼を見出した王妃殿下や父宰相が支えていくと思うので、是非頑張ってもらいたい。


そんな彼の婚約者であったエヴァンジェリンは、クロード殿下が亡くなってすぐ、流行り病を得てあっさりと亡くなった。勇気ある淑女として名高い彼女の死に国中が嘆き悲しんだ。私もまた、その内の一人で、彼女の喪も明けぬ内に外交官に志願し、国を出たのだった。





「貴方、ちょっとこちらにいらしてくださいな」





庭先から妻の呼ぶ声がして、書き物を止めて書斎を出た。


「どうかしたのかい?」

「えぇ!ほら見てください。セオドアが一人で立っているのですよ!」


セオドアは私と妻の間に生まれた一人息子だ。妻の言葉の通り、ふっくらと柔らかそうな足で懸命に立つ息子の姿がある。


「おぉ!凄いじゃないか、セオドア!」


感極まって思わず抱き上げると、セオドアは嬉しそうにキャッキャと笑い声をあげた。ぎゅうと抱きしめ返される手の力が存外強く、子の成長をひしひしと感じる。

しばらく三人で庭で遊んでいると、乳母がやって来てセオドアに昼寝を促した。むずかる息子を私自身が部屋に連れていき、お伽話を読んでやる妻の声を聴きながら、ようやく息子は眠りに就いたのだった。


私によく似た顔立ちの息子。本当は娘も欲しかったが、万が一にも妻に似て、何か問題事に巻き込まれてしまうのは困るので、きっと我が家はセオドア一人を大切に育てていくだろう。



「エヴァンジェリン。今日も貴女が健やかに暮らしてくださったことに感謝を」



そう言うと妻は笑って言った。



「間違えていらっしゃるわ。今の私は“アンジェラ”ですよ、旦那様」



王家の墓所に埋葬されたエヴァンジェリンの棺の中身は空なのだと、多くの人々は知らない。






END

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― 新着の感想 ―
[良い点] めちゃくちゃおもしろかったです……読みごたえたっぷり こんな重厚なお話書いてみたい
[一言] ああ…ラルフは支えきったんだね… エヴァ…いや、アンジェラが幸せそうで良かった…
[良い点] 婚約破棄された公爵令嬢と泥棒猫の兄を読んで、 作者様のホームからこの作品へ。 あれ、読んだことあると。 感銘を受けた作品は、何度読んでも感銘を受ける。 [気になる点] セオドアのその後かな…
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