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因果応報

怒鳴り声で呼びつけるという悪質なマナー違反に、周囲の誰もが苦々しい顔でダルシニアを見た。だが、彼女は気にすることもなく、ズンズンと足音高く近づいていく。淑女の行動として似つかわしくない様子に私は頭が痛くなる。


「御機嫌よう。アシュフォード侯爵令嬢」


けれども呼びつけられたエヴァンジェリンは慣れた様子で挨拶をしてみせた。


「何でそんな他人行儀なの?自分だってアシュフォード家の人間じゃない!」

「私はアシュフォード家から離縁されてデイヴィス家の養女となりました」

「そんなことどうでもいいわ!!どうしてお姉様はクロード様に冷たいの!!婚約者だったんでしょう?振られたからって陥れようとするなんて意地が悪いわよ!!」

「陥れるだなんて、何を言っているの?」

「だから!!第二王子を王太子にするように陛下に言ったのはお姉様でしょ!!」

「まぁ!第一王子殿下は私のような小娘ごときの策略で、王太子になれなかったと言うの?酷い侮辱を受けましたのね、第一王子殿下」


そしてエヴァンジェリンは表向きは同情を装っていたが、内実では面白がっているのが彼女の瞳からは見て取れた。


「だっておかしいじゃない!!死んだくせに突然帰って来て、ずっと平民として暮らしてきた人間が次期国王なんて有り得ないわ!!」


よく分からない彼女の持論を聞いた者達は、こぞって私を見る。エヴァンジェリン同様に軽蔑や呆れ、それとは他に同情の色がそこにあって、私は更に居た堪れなくなった。ダルシニアの名を呼んで引き止めるのだけど、暴れる彼女を御すのは容易じゃない。


「クロード様が一生懸命お勉強をなさっておいでの時、農夫として畑なんて耕していたんでしょ?農夫を国王と崇めるって言うの!?」

「ダルシニア嬢。その辺で止めたまえ」


スティーヴンの側近となったラルフが割って入るが、ダルシニアは今度はラルフに食って掛かる。


「ですが!!クロード様の方が第二王子より勉学に励んでおられました!貴方だって見ていたじゃない!」

「しかし、スティーヴン殿下が王太子に選ばれたのは紛れもない事実です」


私は農夫に負けたのではない!第二王子スティーヴンに負けたのだ!これではまるで私が本当の農夫よりも劣る無能者のような話ではないか。


「お可哀想なクロード殿下。己の愛する者に恥をかかされるなんて」


哀れみが半分、嘲りが半分。いや、嘲りの方が強いのだろう。


「兄上……」


王太子付きのラルフがいるのなら、必然的にスティーヴンも近くにいたのだろう。


「貴方が帰って来たせいで!!クロード様はッ!!」

「ダルシニア!!」


食って掛からんばかりに気色ばむダルシニアに、周囲の護衛も殺気立つ。しかし、彼らが動き出す前に、エヴァンジェリンがスティーヴンの前に割って入り、ダルシニアを突き飛ばした。


「これ以上はお止めなさい」

「だってッ!!」


王太子となったスティーヴンは、我が国にとって比類ない存在。それを守るように振る舞うエヴァンジェリンの姿は、まさに王妃に相応しい在り方だと、私を含めその場にいた者達は思ったことだろう。


対して、ダルシニアの幼気な子どものような物言いに、眉を顰める者達。それはそうだろう。彼女は既に成人している。侯爵家の息女であるのならば、それなりの言動を求められるものだ。これまでは全く気にしたことはなかったが、彼女の未熟さは淑女としての欠点だと、今更になって理解した。


「だって!!第二王子なんか、帰って来なければッ!!」

「いいえ。第一王子殿下は、弟君の立太子をお喜びでいらっしゃるはずですよ」

「そんなわけないじゃない!!王になる為に勉強をされ、剣術に励んでおられたのよ!!」


そうだ。私は父上の後を継ぎ、この国をより良いものにする為に努力してきた。これまで口に出すことはなかったが、スティーヴンがいなければ私が順当に立太子したはずなのだ。


「まぁ。どうしてそのような未練がましい顔をなさっておりますの?」


私の顔を見て、エヴァンジェリンはとても驚いたような顔をした。その手の中にあった王冠が転がり落ちたのだ。口惜しがるのも当然だろうに、全く人の気持ちに寄り添うことをしない女だと腹立たしい気持ちにさえなる。


「殿下が私に仰ったではありませんか?」


私に睨みつけられたところで全く動揺の見えないエヴァンジェリン。

かつて私の前にいた彼女は美しい容姿であれど、その怜悧な眼差しは私の目には冷たく映った。愚かな自分を見透かされているような気がして、彼女を避けた。だが、今目の前にいる女は、果たして本当に彼女と同一人物なのだろうか。


何故笑うのだ。笑うところではないだろう?なのにエヴァンジェリンは優婉な淑女の顔に、傾国も逃げ出すような艶めかしい笑みを湛えている。誰もが見惚れる微笑が、私には震えるほど恐ろしい。恐怖を覚えるはずがないのに、人ならざる者を見ているかのような感覚。


「弟妹が欲しがるものを兄や姉が譲るのは当然なのだと。強欲な私とは違い、自分ならそれが出来ると仰ったではありませんか」


そうして、その形の良い唇を三日月にして言ったのだ。



「高潔な第一王子殿下が、今更になって御立場に縋り付くような無様な真似はなさりませんよね?」



己の言がそっくりそのまま己に返って来たことに、私は人目も憚らず、膝から崩れ落ちたのだった。

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