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高みを目指して

国王一家が帰ったあとは居間でのんびりとごろごろしている雷音。そんな所にトコトコと自分のスプーンを咥えながらアイスを二つ持ってくる繭。


「ほいお兄ちゃんアイス。今日頑張ったから私からのご褒美だよ」

「お、ありがとうな。ちょうど冷たい物が食べたい気分だったんだ」


兄妹二人白いバニラアイスを黙々と食べていると繭が口を開く。


「お兄ちゃん強くなったね。Sクラスに勝っちゃうなんてびっくりだよ。拐われたのもびっくりだけど」

「……笑えないぞ。でも俺も正直言って驚いてるよ。落ちこぼれって言われてたけど強くなれたからな。学園卒業して……戦果を上げれば、貴族に戻れるかな」

「そうだねぇ。そうすればルナお姉ちゃんと結婚できるもんねぇ」

「ぶっ!?ゲホゲホ!……いきなりそんなこと言うのはやめろ」

「ふふ……まぁ私は今の生活も嫌いじゃないけどね」

「そうなのか?」

「うん、お兄ちゃんのご飯は美味しいしルナお姉ちゃんも来てくれるし。だからお兄ちゃんが卒業して一人になっちゃうのはちょっと寂しくなるかもね」

「繭……」

「なーんてね。私だってやればできる子だから大丈夫だもん!だからお兄ちゃんはお兄ちゃんで頑張ってね?」

「ああ……任せろ」

「さーて、私は寝るとしますか。おやすみお兄ちゃん」


(卒業まであと一年ちょいか……軍役したら繭は一人か……少し心配だな)



――――



次の日学校に行くと雷音は生徒達からひたすら見られていた。今までは蔑まれた目線だったが今日はそういうものではなかった。下級生などからはむしろ憧れの眼差しで見られているかのようだった。

勿論敵意満々で睨んでくる同級生もいたわけだが。

そんな中雷音に一人駆け寄ってくる赤髪の男がいた。


「よーっす!雷音。昨日は眠れたか?」

「あ、シュウおはよう。いや昨日はなんだか夜も疲れたよ」

「は……?昨日もルナちゃん来てたのか?」

「ああ、いつも通り来ていつも通り(飯を)求められたよ」

「ま、マジかよ。ど、どうだった?」

「ああ……(すき焼きが)うまかったって」

「な、何回シたんだ?」

「(おかわりは)四回、いや五回か?」

「凄いなお前ら。てか繭ちゃんもいたんだろ?」

「あいつは借りてきた猫のように固まってたよ」

「だよなぁ……そんな中でお前って奴は……」

「でも繭もうまいって言ってたぞ」 

「家族は駄目だろう家族は!」

「家族?ああ、でも(国王一家を)無下には出来ないだろう?それに(飯を)作るならいつだって俺は本気だぜ?」

「作るってお前妹相手に……」

「変か?」

「いや、親友(マブダチ)が決めたことだ。おれは口出さねぇ」

「シュウもたまには(飯を食いに)来るか?シュウなら大歓迎だぜ?」

「い、いや……俺は……色々嗜好はあるだろうが俺は応えられないぜ。すまない」

「ああ、気にしなくていいよ。残念だなシュウになら(飯作りを)本気を出してやるのに」

「ひぃっ……いや大丈夫だ。気にするな」

「そっか。てかなんでそんな距離をあけるんだ?」

「言ったろ気にすんな!さぁ早く教室いこうぜ」


暫くの間は雷音に決して背を……尻を……向けないと心から誓ったシュウであった。



雷音がシュウとEクラスに向かうと既に三人の姿があった。ヴィオは二人が教室に入って来るのを見ると一目散に駆け足で二人に近づいた。


「おはー!あーし達優勝したんだね!もう今日の朝までずっと寝てたから感動の瞬間を味わえなくて悲しいんだし!」


ヴィオはSクラスとの決戦の際に初めて神装を纏い、大金星を上げた。しかし初めて神装を纏うことによる必然的な後遺症の為に暫く気を失っていたのだ。

その為に優勝が決まった瞬間に勝利を分かち合うことが出来なかった。


「まぁ……残念だったな」

「なにそのあーし一人だけ優勝逃したみたいな言い方!?」

「いやいやヴィオの一勝は大きかったよ」

「そうだぜ胸は小っちゃいけどなぁ!」


バゴンっ!という音と共に雷音の隣にいたシュウの姿は一瞬にして教室の壁に叩きつけられていたのだった。


「コロス……」

「まぁまぁヴィオ、君のおかげで優勝出来たのは間違ってないよ。僕は負けちゃったし」

「そうでござるよ、某も敗北を喫したからな」


ネイルとリンはヴィオを横からフォローするように口を挟むがヴィオの視線はリンの胸を捉えていた。


「ええーい、リンっ! アンタのコレはなんなんだし!?こんなものこうしてくれるし!」


座っているリンの背後に周ってその豊満な果実を鷲掴みにするヴィオ。それを見ているネイルの顔は真っ赤っかだ。


「こんな大きなモノを持って……当てつけかぁ!?」


「ちょっとヴィオ殿!? 止めるで……あっ……」


リンは普段から凛として物静かだ。さらに細身で長い黒髪で清楚さもあるのだが、ギャップを感じさせるように()()()のだ。


「ちょっとヴィオそろそろやめた方がいいんじゃないかい?」


「うるさいうるさい!大体最近なんでアンタらいつも一緒にいるんだし!?」


「「へっ!?」」


ヴィオの一言にそっと半歩リンから離れるネイル。リンも顔を赤らめていくがその様子を見たヴィオの顔が顰めっ面になる。


「ぷぅー!全くなんなんだしぃぃ!!」


ヴィオの絶叫が響く中、教室にはティナが入ってくる。ウルスは病院で治療中の為に対抗戦が終わってからも代理でEクラスの担任をしていた。


「あらあら騒がしいわね。どうしたのヴィオさん?」

「先生、人生って不遇ばかりだし……」


「……なんなのよ一体」


教室の壁には気を失ったシュウ、顔を赤らめているネイルとリン、不貞腐れているヴィオと、非常に混沌としている状況の為に雷音はこそこそとティナに簡単な状況説明をした。


「ふぅ……どうでもいい事ばかりね。ほらほらみんな席に着きなさい。ヴィオさんはシュウ君を起こしてね」

「えーなんであーしが……」

「誰のせいかしら」



酷く冷たく射抜くような視線にヴィオの身体はカチコチと固まったまま自然とシュウに向かって行った。


「ではあらためて、皆さんおはようございます。昨日はお疲れ様でした。みんな頑張ったわね。先生は代理で少ししかあなた達を受け持っていないけど誇りに思うわ……優勝おめでとう」


雷音はその言葉が胸の奥に響いた。実は昨日の事は夢だったんじゃないかと今でも思っていた。

だけど実感が湧くと自然に目頭が熱くなっていく。




「天国のウルス先生もきっと喜んでるわ」

「「「「「え……?」」」」」

「やぁねぇ冗談よ」

「いやいや笑えねえよ!」


思わずシュウの口からツッコミが入る。

実際のところウルスは大きな怪我を負っている為に何があっても不思議では無いのだ。


「あの人は昔からしぶといから大丈夫よ。さて優勝したあなた達にお知らせよ。今年卒業する三年生の予餞会はあなた達が三年生の代表と闘うことになったわ」


「「「「「え?」」」」」


「今度は冗談でもなんでも無いわ。毎年やってることだからあなた達も知ってるでしょ?」


この学園では三年生が卒業間近となると予餞会を行うのだがその催しの中の一つが学年最強クラス同士の対決である。


普段はSクラス同士の闘いが定番になっているのだが今年の二年生は文句無しにEクラスが優勝した為に二年代表はEクラスになったのだ。


「先生、三年生のSクラスは聖徒会の人達ですか?」

「そうよ。あの子達は強いわよ。学園最強のディーン君を筆頭に強者ばかりよ。今回は流石に分が悪いかしら?」

「俺達が分が良い時なんてこの学園入ってから一度もないですよ。だから次だって勝つ気でいきますよ」

「ふふふ、期待してるわ。それじゃ授業を始めるわね。座学の後は身体を沢山動かしましょうね。相手は学園最強集団ですから今まで以上に()()にいきますから頑張ってくださいね」


クラス対抗戦の時も充分過ぎる程に苛烈だったろうと言い出したいEクラスの面々だったが、微笑みながらそう告げたティナに言える者はいなかった。



彼らは来る日もくる日も己を鍛え上げていった。対抗戦で二学年最強クラスという結果に慢心せず、最底辺であった彼らは高みを目指していく。


季節は巡りあっという間に三年生の卒業間近となる。次の日はEクラスと三年のSクラスとの対決の日である。

しかし……雷音達は三年生と手合わせをする事はなかった。

ここで第一部完となります。

第二部を今書き溜め込んでいる途中ですが時間がまだまだかかりそうなので一旦完結とさせていただきます。読んでくださった方ありがとうございます。

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