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雷崋49

目の前の鉄鍋に牛脂をひき雷音は一人昂っていた。


「こいつが……今日の俺の集大成だ!」


一年の教室からEクラスに戻った雷音。祝勝会をしようという話になったが、ヴィオがしばらく意識を取り戻さないだろうということで祝勝会は後日となり、今日はそのまま解散となった。


ちなみに対抗戦終了後、担任のウルスはかなり強引に病院を抜け出したようで速攻で病院に戻っていった。正確にはティナに引き摺られていったのだが。



妹にご馳走をせがまれていたために雷音は帰りに買い物をしていつも通りに帰路についた。

雷音の方が帰るのが早かった為に家には自分一人だ。


「ただいま……って今日は帰ってくるのは俺の方が早いんだな。ルナもまだいないみたいだし晩飯の支度をしちゃうか」


雷音が学校帰りに買ったものは肉以外に白菜、葱、えのき、豆腐、そして春菊という香草に似た葉物の野菜を切る。

彼が利用する蒼天家に代々伝わるという書物には色々なレシピがあるのだが材料が揃わないこともある。

というよりは知らない物や売っていない物が多いという理由の為だ。

何故過去にあった物が今は影も形も無いのか雷音も疑問に思うが、無いものは無いと割り切っている。


「さて……次は牛肉だ。柔らかくなれよ」


雷音が買ってきたのは牛肉の切り落としだが当然値段は庶民価格。それでも今日は奮発した方だ。主に量の話だが。


何故か最近闖入者が多い為、念には念を入れ量だけは多めにした。


(気付いたら鍋もデカいの買っちゃってたんだよなぁ。ルナのせいだな……)


「さてこいつを仕込んで……ちょっと値は張ったけどこいつを使うとするか」


袋から取り出したのはキウイフルーツだ。蒼天家秘伝レシピにはこの果肉で肉を挟めば肉が柔らかくなると書いてある。高い肉を買えない蒼天家ではこの様な工夫が成されていた。


(しかしウチは元々貴族だよな?貴族と言えばその血を絶やさぬ様に昔から家があった筈だし金はあったんだろうに、なんでこんな節約レシピが多いんだろう?)


疑問には思いつつも準備を進めていく雷音。あらかた準備は終わり、調理前に湯船にお湯を溜め始めておいたので風呂に入ることにした。



(ああ……いいお湯だ。今日は本当に疲れた。実際に身体を動かした訳じゃないけど神力(ルミナス)も尽き果てる間近だったしなぁ。それにしても今日発現した新しい力……雷の系統じゃなかったしなんだったんだろう?

まぁいいや、今日はもう考えるのやめよう。ゆっくり食べてゆっくり寝るとしよう)


ゆったりと湯船な使っていると疲れが溜まっているせいか雷音は少しうとうとし寝てしまった。

そして当然のぼせてしまった。



(うう……入りすぎた。身体を拭いたら少し休もう。まだ誰も居ないしこのままでいいか)



ふらふらと一矢纏わぬ姿で居間に向かう雷音。こんなこともあろうかと氷をたくさん入れたグラスにお茶を注いでおいたという準備万端さだが、彼自身風呂で寝てしまっていたというのを忘れてしまっていた。



「ふぅ……飲み物飲み物……あれ無い?って……」


そこにはお茶の入ったグラスを持ちくつろいでいたルナの姿があった。


「あ、雷音お邪魔してるわ……よ……」


一矢纏わぬ姿を見て思わず固まってしまうルナ、そして必死の形相で焦る雷音。



「いやぁぁぁあああ!ちょ、ちょっとなになになんでなんで裸なのよぉぉおお」


茹で上がったかの様に顔を真っ赤にするルナを前に雷音は慌てて風呂場に戻るしかなかったのであった。




「もう信じられない!最低よバカっ!!」

「というか勝手に入ってきて……ここ俺んちなんだけどなぁ……」

「なんか言った!?」

「いえ何も」

「ただいまー……ってどうしたの?」


学園から帰宅したルナが見たのは仁王立ちで怒り心頭なルナと正座している兄の姿だった。


「繭ちゃん、雷音ったらいきなり素っ裸でアタシの前に現れたのよ!?変態よ!」

「いや俺は風呂上がりなだけだったんだが」

「あー、いつものラブコメね。取り敢えず私もお風呂入ってくるね」


繭にはこの二人がしでかすことはすでに慣れっこな為にすでに受け流しのスキルが身についていた。


「ちょっと繭ちゃん!……もう早くご飯にして!」

「お前今日の優勝者を少しは労われよ」

「それとご飯は別! 急いで!」

「はいはい。ちょっと待ってろよ」


渋々とキッチンに戻り、材料を再度確認して鍋に火を入れた。


(よし、大丈夫だな。軽く肉と葱を焼いて……焦がしすぎ無いようにしないと。よし、あとは割下を入れて煮て……)


鍋に火をかけその間に雷音は居間に卓上型コンロを用意した。ある程度煮えたら鍋を居間に移動させるが、その時に鍋からの匂いは花の蜜に惹かれる虫のようにルナの視線を釘付けにした。


「もしかして今日は……?」

「見ての通りだよ」

「すき焼きよね!?やったぁ!アタシこれ好きなの!早く早く!溶き卵とご飯持ってきて!」

「はいはい、ちょっと待ってろよ」


やれやれ、と思いつつも雷音は台所に戻り三つの卵を一つずつ碗に入れた。もちろん雷音、繭、ルナの分だ。そして取り敢えずルナの分の大盛りご飯をよそいついでに麦茶も用意して居間に持っていった。


「ほら、持ってきたぞ。飲み物お茶でいいか?」

「うん!雷音大好き!」

「ったく。先食べてていいぞ」

「分かった!いただきまーす」


雷音は食べる前に包丁やまな板を先に洗っていたが、ちょうどその時お風呂から上がった繭がひょこっとやってきた。


「……あー、卵もらうね。じゃ……」

「卵なら持ってたぞ?」

「無いの」

「ルナがもう食べちゃったのか?まぁいいや」



雷音は経験上誰かが来たのかと勘付いていた。最近になって繭の態度を見て闖入者が現れたことがわかってきたのだ。



(今日は誰だろう?流石に試合した連中は来ないだろうし聖徒会の人達かな?それにしては繭が緊張していたような)


考えても仕方ない、そう思うことにして雷音は居間に戻るがそこにいた鍋をつついている者達に雷音は固まってしまった。



「おお、雷音久しぶりだな。息災か?」

「お久しぶりね雷音ちゃん。今日は格好良かったわよ」


雷音の視界に映るのは黙々と食べるルナと無表情で食べる繭、そして優しく雷音に声をかける夫婦はルナの親である()()()()であった。


「久しぶりに食べたがすき焼きは美味よな。今度城でも作らせるとするか」

「あなた、これは蒼天家のレシピで作って食べるから美味しいのよ?前にシェフに作らせたら全然違う味だったわ」

「うむ……残念よのぉ。ところでルナよ野菜も食べたらどうだ」

「お父さんうるさいわよ。アタシは好きなものを食べる主義なの」

「む、父に向かってなんだその態度は」

「あなた怒らないの。ルナちゃんもちゃんと食べないと太るし肌荒れるわよ」

「はいはい分かりました」

「はい、は一回でしょ」



所謂ロイヤルファミリーが何故学園の寮の一室で鍋を囲んで食べているのか雷音には理解出来ていなかった。

小さな子供の頃は自分の立場など分かっていないのと両親が国王夫妻と仲が良かった為に可愛がってもらった記憶はあるのだが、今は没落し尚且つ成長し国王たる者への接し方を知らないわけではない。

なので急すぎる目の前の状況にどうすればいいのかわかるはずもなかった。


「雷音よ座って食べたらどうだ?せっかくの料理が冷めてしまうぞ。まぁ火にかけてあるから冷めぬがなワハハハハ」


(あー、こういうとこ変わってないなぁ……)


「いえ国王陛下、私のような者が一緒の席など……」

「あー、雷音そういうのいいから。大体立場もあるってのに押しかけてくるウチの両親が悪いのよ」


(それお前もだから!)


「まぁそういうことだ。昔みたいに気を使わぬようにしろ」

「そうそう誰も気にしないわよ。それにウチのルナちゃんもほぼ毎日来てるでしょ?ごめんなさいねぇ」

「いえ、ルナとは昔からの付き合いですから」

「娘はやらんぞ……」

「え?」


ジト目で雷音を睨む国王だったがすぐさまその目を逸らした。


「ゴホン!……いやな今日は頑張ったな。お主の父の姿と重なるようだったぞ。特にあの万物切断(アダマスの鎌)を振るう姿は刻斗を思い出すようだった」

「父さんの……」

「そうだ。あいつは俺の良き友であった。あの時も俺が王という立場であれば……」

「……」

「あなた……」

「ああ、すまんな。だがこれからも励めよ。そして父を超えるほどに強くなれ」

「はい……ありがとうございます!」


父を知る者に、父の強さを知る者に激励を受けることに雷音は喜びを感じていた。大好きだった父に少しでも近づけたならば、と。


「そんな訳でおかわりはあるか?王城暮らしだとパンばかりでな。白飯はやはり美味いの。あ、山盛りで頼むぞ」


蛙の子は蛙、と言うべきかルナの父も大食漢である。ルナは容姿こそ母親似だが中身は確実に父親似だと再確認できた。


(さっきの感動を返してくれ……)


そんな親子に肉を殆ど食われてしまい、野菜を淋しく摘む、とても今日一頑張った者とは思えない雷音だった。

食事も終わり夜も遅くなってきたところで玄関のチャイムが鳴った。


「はーい、ってあれ?サン兄!?」

「やぁ雷音、もしやと思うんだけど僕ハブられてない?」

「い、いや、そ、そ、そんなことは」


そんな冷や汗をかく雷音の元に国王夫妻とルナがやってきた。帰り支度も終えているところからお暇するところであった。


「あらサンちゃん?どうしたの?」

「なんか第六感が働いてね」

「おおサンか、すき焼き美味かったぞワハハハハ」

「ご馳走様〜」


サン以外の国王一家が玄関の外に出ると中に残された雷音に戦慄が走る。


「ふーん……よく分かったよ。君には特訓の付き合いとかしてた筈なんだけどね」

「いや待て待て! いきなり押しかけてき……」

「ふふ、それ以上言うと不敬だよ」


学園の中で学生同士の身分の差は無いがそれはあくまでも学生だけの為に慌てて口を押さえる雷音。


「なんてね、冗談だよ。でも僕も好きなんだよなぁすき焼き」

「……今度呼ぶよ」

「必ずだよ?父上と母上が居なくなって城の中が混乱しちゃってさぁ。全く内緒でお忍びするんだから参っちゃうよハハハ。まぁルナと僕がいれば護衛は要らないね。じゃあまた明日」


城の中の混乱なんてある意味それは国の一大事ではないか、と心の中で叫びながら国王一家を見送る雷音であった。

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