兄弟〜剣神(ヌァザ)vs武神(ルー)〜
「一勝一敗か……ここで負けるとちょっと不利かな。相手が相手だけに勝てるか分からないけど精一杯やってくるよ」
「某が不甲斐ない故に……某の分まで頼むでござるよネイル」
「ああ、行ってくるよ」
次の試合は中堅戦、Eクラスからはネイルが舞台に立つ。
その甘いマスクと華麗なる剣技からか彼が登場すると黄色い声援が巻き起こる。
それはEクラスと嘲笑われていた彼には有り得ない風景だった。
「少しでも力を持つと掌返されるってのは本当だねぇ。全く」
「フッ、それが力を持つ者の責務というものだ、ネイル」
「キール・リード……」
対峙するのはSクラスのまとめ役とでも言える、ネイルの腹違いの兄でもあるキールだった。
こちらも舞台に上がると更に黄色い声援が増していく。半分血が繋がるだけありネイルとは似通った顔だがネイルのように温容さはなく、どこか冷淡な、近寄り難い表情をしていた。
「お前さえ良ければ兄と呼んでも構わないぞ?」
「遠慮しておくよ。僕はあの家のことなんて忘れたいんだ。それに面識も無い人を兄なんて呼べるわけない」
「すまなかった。私はお前という弟がいたということさえも知らなかったんだ」
ネイルの顔色が変わる。普段はまず見せない、不快感極まりない怒りを表す表情に。
「君の言っていることが本当かどうか僕にはわからない。それでも……僕を人間扱いしなかった者達の所へ戻るわけないじゃないか……。
僕はもうただの『ネイル』、それだけだ!」
「そうか。なら考えが変わったら教えてくれ。私はお前を待っている。
……それではそろそろ始めようか。済まない審判の先生」
「う、うむ。それでは中堅戦開始!」
合図と共に始まる中堅戦。
先手はキールだった。それも神装を纏わない状態で右手に持つ剣を振りかぶりネイルに斬り掛かっていった。
ネイルもそれに合わせるかのように両手に持つ二振りの剣を交差させガードする。剣と剣が触れた瞬間火花が飛び散る様な衝撃と音が走る。
「ほう、全力で斬りにいったのだがよく受け止めたな」
「……重いね」
ネイルは鋏のように交差させた剣を捻り相手の体勢を崩そうとするがキールは捻り上げた方向に体ごと回転させそのまま間合いをとった。
「ふむ、力も充分。充分強いじゃないか。この試合が終わったらSクラスに来たらどうだ?ぬるま湯に浸かっているより強くなれるぞ?」
「残念だけど僕はこのままでいいよ。このクラスには僕にとって大事な友人と大切な……いや、なんでもない。とにかく僕はここで強くなるって決めたんだ」
「そうか……では戯れもここまでだ」
「こっちは巫山戯たつもりなんてないけどね……」
二人の身体から溢れていく白い光が形を変えていく。
「「神装光臨」」
二刀を構えるネイル。
一刀一槍を構えるキール。
兄弟と言えばそう見えるであろう二人。
獲物は違えど二刀構える姿は美麗。
「剣神のネイル……さぁいくよ」
「光より生まれし武神のキール……さぁ楽しもうじゃないか」
二人はお互いの同じ色の目と目で見つめ合い構える。
そして同時に前へと踏み込み剣と剣、剣と槍が文字通り目にも止まらぬ速さで交差する。
「速ぇえ!」
「お互い……互角と言ったところでござろうか?某も剣線を追うのがやっとだ。だが……」
「ああ、あの間合いでは槍では不利なはずだ。だけど……」
接近戦になると長槍を持つキールは不利になるはずである。しかし巧みに槍の柄の位置を持ち替えて間合いに対応している。
「中々、だなネイル。流石は我が弟だ」
「勘弁してほしいな、褒めてもらっても全く嬉しくないよ。それに」
ネイルはキールの剣と槍を弾き、相手の腕が上がったタイミングを見計らって連続で突きを放った。
「勝手に弟なんて呼ばないでくれ!」
当たれば血液さえも塵になるかと思わせる高速の突き。
流石に拙いと思ったのかキールは上半身を後ろに反らし、その勢いで回転しながら間合いを空けた。
「強い、な。これでも学園最強の剣の使い手だと自負していたのだけれどな。身体も暖まってきた頃だ。そろそろ私も本気でいこうか」
キールは右手に持つ剣を弓に番える矢を持つような構えをとると剣が妖しく光りだす。
「目覚めろ我が剣、応えし者の剣よ、目の前の敵を穿て」
キールの持つ神器・応えし者の剣は彼の声に従いながら右手から離れ勢いよくでネイルの喉元に向かっていく。
「くっ! 剣が……意思を持つように襲いかかってくる!?」
ネイルは矢のように飛んできた剣を上手く弾いたが、剣は空中で停止し、また彼の元へ襲いかかっていく。
そんな光景を見て雷音達は自在に飛び回る剣を見て目を見開いていた。
「おい雷音、あれってAクラスのなんとかって奴が使ってたやつじゃねぇのか?」
「ああ、間違いなくあの……なんとかが使っていた勝利の剣みたいだ」
「だが某が闘った時の物とは違うな。闘った本人だからわかることだが、あのAクラスの傲慢で気持ちの悪い……なんとかが使ってた物とは比べられない程の速さでござる」
「原理は似たようなものでも神力の量やコントロールの差かもしれないな。あれだけ速く動いていても的確にネイルの急所を狙っている」
飛び回る応えし者の剣を必死にいなしてはいるがネイルはその場に足を止められてしまう。
それを当然見逃さずキールは槍を巧みに操りネイルを追い詰めていく。
「中々粘るな。では二つならどうだ?行け!必中槍」
キールは左手に持つ槍を前方のネイルの心の臓に目掛けて投げるが、ネイルは応えし者の剣を防ぎながら槍を弾いた。
しかしそれも同じように宙空で止まりまたネイル目掛けて飛んでいく。
「これは……くっ、流石にちょっと厳しいかな……」
ネイルは二刀で飛び回る剣と槍を防ぐがその場から動くことができていない。それを見ながらキールは更にもう一本の槍を手に発現させる。凄まじい熱量を放つその槍は武舞台の中の温度を一気に上げた。
「ふっ……厳しいと言うなら降参したらどうだ?それとも……渇き死にたいか?」
「僕は……勝利しか望まないよ」
「なら干からびればいい。灼殺槍よ、目の前の敵を灼き尽くせ」
灼熱の槍を車輪の様に回転させながら一歩、また一歩とゆっくりと歩みを進める。
明らかにそれは余裕の現れでありネイルは必死ながらもその様子に好機を抱いていた。
「さて、一差しで決めさせてもらうとしよう。お前は強い……が、私にはまだまだ及ばぬようだった。もう少し力を付けるといい」
灼殺槍を構えネイルに狙いをつけた時だった。ネイルの右眼が真紅に輝く。
「見ろ!バロールの魔眼……うわっ!?」
相手を油断させた上で魔眼で動きを止めるはずだった。だがしかし次の瞬間にネイルの魔眼は血に塗れていていた。
「これは『魔眼殺しの魔弾』だよ。そう来ると思っていたからね。Aクラスとの闘いも見させてもらっていたと言うのに考えが甘いな」
キールの左手から発射された黒い神力を圧縮させた魔弾は見開かれたネイルの目に突き刺さったのだ。
突然響いた右眼の激痛に苛まれ両手の剣を持つ力が弱まった隙に、宙に浮かぶ応えし者の剣と必中槍はネイルを捉え、右肩と左上腕を貫いた。
「うわああぁぁぁああ!」
「奥の手ももう使えまい。そして両腕も思う通りに動かないだろう。詰みだ、降参しろ。血を分けた者を私はこれ以上傷付けたくはない」
「そ、そうは……いかないよ。最後まで……諦める訳にはいかない……何よりもそんな姿を見せる訳にはいかないんだ。
こんな僕と仲良くしてくれた友達の前で……こんな僕を守ってくれた女性の前で逃げる訳にはいかないんだ!」
「そうか……ならば遠慮はしない。真正面からお前を叩き潰そう」
両腕を負傷し右眼が潰された状態にも関わらず、血が滴り溢れてくる両腕は下がる事は無く剣を構えるネイルの左眼は前だけを見ていた。
「……力を貸してくれ至光の聖剣、煌堕の魔剣……奴を斬り裂け!」
呼応するかのように至高の聖剣は白く輝き、煌堕の魔剣は黒い光が溢れでてくる。
「反撃させる前にトドメを刺させてもらおう。行け、応えし者の剣、必中槍。ついでにオマケだ、灼殺槍、魔眼殺しの魔弾」
宙に浮く剣と槍、そして手持ちの槍と左手の指から発射される魔弾が一直線にネイルに向かっていく。
そして最速の魔眼殺しの魔弾が最も速くネイルに着弾しようとしていた。
「神器による四重奏……避けられると思うな!」
ネイルに迫り来る四つの神器。
しかし魔弾はネイルに当たる事は無く、それどころか他の武器も見えない壁にぶつかったかのように弾かれていった。
そして弾かれると同時にキールの右肩から左脇腹にかけて斬られたような傷が突然現れ鮮血が舞った。
「くっ……くはっ……何を、何をしたぁ!?」
ネイルは構えた状態から一歩も動かずに右腕に持つ至高の聖剣を振るっていた。
「これが至高の聖剣の能力……斬った結果のみを残すんだ。
だけど僕の技量じゃ使い勝手が悪くてね。正面の空間を把握して尚且つ狙いをきちんと定めなくてはならないし、尚且つ神力の消費量も半端ないんだ」
現にネイルの手からは至高の聖剣は消え失せ煌堕の魔剣のみを両手で持ち脇構えをしていた。
「なる……ほど……な、油断はしていないつもりだったんだが、な。ぐっ……だがまだやられはせん……」
「僕は……あと一撃ってとこかな。だから……次の一撃に僕の神力を全て込める。これで終わりにするよ」
「ならば……ぐっ……こちらも全力でいくぞ!」
キールは再び応えし者の剣、必中槍を目の前に浮かせ、本人も灼殺槍を構え、魔眼殺しの魔弾を出せる体勢になる。
お互いがお互いを見つめ合う。
そしてどちらかが僅かに動いた瞬間二人は足を踏み込んだ。
「斬り裂け煌堕の魔剣!」
「剣槍一斉に貫け!四重奏!」
ネイルが持つ煌堕の魔剣から発せられた黒い斬撃と宙を浮く応えし者の剣と必中槍、魔眼殺しの魔弾が激突する。
僅かに押しているのは煌堕の魔剣だ。しかしキールが持つ灼殺槍の熱量が上がることで拮抗を保つ。
「おおぉぉぉぉ!」
「はあぁぁぁぁ!」
互いに持ちうる神力を神器に全て費やしていく。息は上がり身体中から汗が流れていく。
どちらかが気を抜いたら終わるだろうと予感させるぐらいの力と力のぶつかり合い。
しかしそんな状態にも終止符は打たれる。
「これで……僕の神力全てだ! いけ煌堕の魔剣!!」
僅かにネイルの力がキールを上回り力の奔流がキールに向かっていく。もはや逆転する術はない、この瞬間ネイルは勝利を確信した。
「がはっ!?」
だがその時ネイルが見たものは自分の胸から生えてきたかのように貫いてきた槍だった。
「な、なんだよこれ……」
「危ないところだった。この不敗の槍はお前の持つその白い剣と似たようなものでね。結果だけが生じる槍なのだよ。
兄として忠告しておこう。
切り札は最後まで取っておけ」
「く……そ……」
ネイルは悔しそうに顔を顰めてそのまま前のめりに倒れてしまう。
キールも殆ど力を使い果たしたのだろう、息荒く片膝を着いていた。
そして無情にも勝ち名乗りが挙げられた。




