決勝戦開始〜風天魔王(パズズ)の恐怖〜
連戦の後に学年最強であるSクラスと試合するのは不公平だとティナが学園に訴え、試合は明後日に変更になった。
英気を養い準備も万端になった今日、落ちこぼれと呼ばれたEクラス、そして学年最強集団であるSクラスとの試合が執り行われることとなった。
会場には全学年集まっており、今や今やかと試合が始まるのを待っている。
Sクラスは別格……それが生徒・教師達の共通の認識であり、事実その認識は間違っていないだろう。
学園に通う生徒達の中でも選ばれた者のみがSクラスに行ける、それは生徒の羨望と願望であり学園に入学してからの目標にもなる。
対抗戦でも以前までは連戦の後に決勝でSクラスと戦うことにも意味があった。
それは圧倒的な力を見せつけて勝利し、他の生徒達にSクラスの力を見せ付ける意図があったからだ。
勿論、過去に何度かフェアじゃないと日を置いてから試合をすることもあった年もある。
しかし結果は全てSクラスの圧勝。
それ以来無駄なことと謳われ一日でクラス対抗戦は終わらせることになっていた。
今回は担任代理の猛抗議の末に連戦では無くなったが、所詮最弱と最強、結果は分かっているが無駄だと言うことを落ちこぼれ達に分らせてやろうということで教師達は最終的に納得した。
そんな闘いの場にEクラスとSクラス、お互い五人ずつ会場に入っていくのだった。
「では只今より二年生によるクラス対抗戦、決勝戦を始めます。では……え?えぇ!?、あぁ……今日はゲスト観覧者として国王陛下と王妃様がいらっしゃいました!」
騒めく会場。
何故学園にわざわざ国王が?そんな声が聞こえて来る中、目線は舞台の上に集まっていく。
もう試合が始まるのだ。
生徒の過半数は最早Eクラスが蹂躙される想像しかない。
Eクラスはまぐれとはいえ決勝までいった。しかし相手がSクラスで有ればそんな奇跡も起きることは無いと大半の者達は思っていた。
とはいえ少数――強さの本質が分かる者達は違かっていま。もしかするとEクラスがSクラスに勝つのではないかと。そんな期待もあったのだ。
但しそれは次鋒戦以降の話である。
すでに先鋒は二人ともに武舞台の上にいる。あとは試合開始の合図を待つだけだった。
「では先鋒戦……始め!!」
Eクラス先鋒は変わらずヴィオである。
対するSクラスの先鋒は背の低い、ピンク色の髪をした見た目も幼ない少女であった。
とても雷音達の同級生には見えず、下手すると初等部の生徒でも通じるかもしれない容姿だ。
「あたしはフィリアだよ、よろしくねぇ。あのね、ボクねぇ、キミと闘いたかったんだぁ」
「え?それってどういう――」
「ボクらはね、くじ引きで出順決めたんだけど絶対に先鋒戦が良かったんだ。だってキミさぁ、どう見ても最弱でしょ」
幼女とも見える少女のその口角がつり上がる。
その表情は可愛らしくも残酷で。
「ぶっちゃけボクね、楽したいんだぁ。それにキミみたいな子大きくて大人びた子はさぁ好みじゃない……って危ないじゃないか」
ヴィオはフィリアが話している最中に創り上げた手持ちの槍で何度も何度も突き刺そうとするが、フィリアは目線も逸らさず表情も変えずにに避けてしまう。
「不意打ちなんて無駄無駄。神装も纏えないザァァァコがこのステージに上がる姿勢がおこがましいよ」
「うっさいし……このクソチビ!」
その言葉にフィリアの眉尻がピクリと動く。
「あー……言っちゃったねボクのいっっちばん嫌いなこと。可哀想だから一発で倒してあげようかと思ったけどやーめた。
誰でもコンプレックスをいじられるのは嫌なんだよぉ?神装光臨」
深い深い、邪悪を感じさせる黒い風が渦を巻く。その渦の中心でフィリアの身体から眩い光が発せられる。
黒い風は姿を消し、現れたのは獅子の頭をもしたヘッドギア、蠍と蛇頭の尾を持ち、二対四枚の翼を生やす黒い神装に身を包んだフィリアだった。
「朽ち果てて朽ち果てて死んじゃってぇ!風天魔王のフィリアちゃんだよぉ。さぁ、始めようね。あ、これはね勝負なんかじゃないよ?公開処刑だよ」
そうフィリアが言うと彼女の身体から黒い霧が発生していき、それは舞台全体に広がっていく。
「さぁ、いつまで耐え切れるかな?」
黒い霧の中、ヴィオは止まらないように動くが突然膝の辺りに痛みが走る。
「痛っ……何これ?何かに噛まれたみたいな……」
しかし今度は腕や首にも痛みが走る。それは時間を追うごとに徐々に増えていく。
「痛い痛い! なんなんだし!?って……霧の中で何か動いて……」
あまりの痛みに動きを止めてしまったヴィオ。
原因も分からずただただ襲い掛かる痛みにはなす術がない。
そして霧の中を暗躍している何かがヴィオに襲いかかってくる瞬間、ヴィオは腕を伸ばし黒い霧に紛れるものを掴みとった。
「これって……虫?」
ヴィオが手を広げると、そこにはヴィオの握力に潰された飛蝗の死骸があった。
「これがあーしの身体を傷付けていた正体……」
「ありゃりゃ気付くの早かったね。ボクの眷属は砂漠飛蝗って虫さんだよ。ボクの神力で生み出した眷属なんだ。可愛いでしょ?
でもねー、この子達は腹ペコりんちゃんでね、本来は蝗害って言って農作物を全部食べ尽くしちゃうっ虫て言われてるんだけどね、ボクが生み出したモノだから幾らでも対象は変えられるんだ。
例えばそれがキミみたいな人間でもねぇ」
ニチャァ……と音を立てて口角を上げるフィリアの表情にヴィオの背中に冷や汗が流れる。
もしもこの黒い霧に見えるモノ全てが飛蝗だとしたら……もしもこれに一斉に襲われたのなら……。
生きたままじわじわと喰われてしまうのではないか。
「怖いかなぁ?でも仕方ないよね、弱いキミが悪いんだもん。あ、抵抗はおすすめしないよ?」
飛蝗の群れが容赦なくヴィオを襲う。足には大量の飛蝗がまとわりつき細かな痛みが足中に広がっていく。
「あああぁ! っく、ああ!?」
足に取り付いた飛蝗を手で払い退けるが今度はそれが腕に移る。
その様を見ていた観客席の生徒達の中にはその異様さと気持ち悪さ、そしてそれに絡むようなヴィオの悲鳴に目を背ける者も少なくない。
「いつ見てもエグいわね、フィリアのやり方は」
ルナから見た普段のフィリアは普通に話すこともある明るいクラスメイトである。しかしそんな彼女は闘うこととなると一変して嗜虐的になる。
そして自分の幼い容姿と背の低さにコンプレックスを持っているのか必ず最初に足を狙う。
正確には相手の足を喰らい尽くして相手の身長を強制的に低くすることが彼女の願望なのだ。
「キャハッ! キャハハッ! 楽しいね楽しいね楽しいぃぃぃねぇぇ! 小さい小さい虫達に喰われちゃうんだよ?キミはもう虫以下になっちゃうよぉ?」
「くっ……っこのぉぉお!」
最早形振り構わず手持ちの槍を振り回し、身体に付いた飛蝗など無視してフィリアに向かっていく。
フィリアはヴィオが近づいてきても動く気配はない。
舐め過ぎている、ならば、と有りったけの神力を足と手に注ぎ込み全力でフィリアの背後に周りこみ渾身の一撃を放つ。
「なんで……届かないし!?」
が、全力の一撃はフィリアに刺さる手前で止まってしまった。まるで何か壁に遮られるように。
「そうそう、ボクは風を操ることが出来るんだぁ。キミの攻撃が届かないのはねぇ、風の層をボクの身体の周りに張ってあるからだよぉ。
それにしても神装を纏ってないっていうのに中々な一撃だね。でもいいかい、キミみたいな神装も纏えないザァァァコが何してもムダなんだよぉぉぉ! ほらこれでもお食べ!『熱風接吻』」
フィリアが小さな口を尖らせて息を吹き出すのは広範囲に広がる生温い温風。至近距離にいたヴィオはまともにそれを吸ってしまう。
「かっ……!?ゲホッ、な、なにこれ!?」
「迂闊だねぇ、ほんっっとに迂闊だねぇ! キャハハっ! 教えてあげるよ、それはね人体にとぉっっっっても有害な病原菌だよ!ほらほら身体の奥底からジンジンと熱を感じないかい!?」
ヴィオの身体は息を吸うごとに身体に異変をきたした。立っているのが苦痛と思える程の頭痛と吐き気に襲われ目の前は歪むようだった。
「あ、う……」
「いいねいいね、その顔! 苦しむ顔を見るとゾクゾクぅぅぅってしちゃう! あぁ……いいよいいよ……ほぉぉぉら、もっとボクの虫さんに食べられちゃいなよ!」
意識が朦朧とする中ヴィオは悔いていた。どうして自分がここにいるのか、どうして闘ってしまっているのか?
幼い頃、素質はあると見なされたがいつまで経っても神力は使えなかった。
ただ優しい両親や兄はヴィオを責めることはなかった。
仕方ない、その言葉だけで終わらせた。
いつか目覚めるよ、と言われて数年、神力が使えるようになっても未だに守護は顕現しない。
一年前と少し前にこの学園に入学した時、理解はしてはいたが一番下のクラスになった。
それもその年から新しく出来たEクラスだった。
他のクラスの生徒や教師達からは侮蔑の目で見られるのが当たり前だった。
嫌がらせを受けるのも日常茶飯事、どれもこれも神力が使えない自分が悪いと言い聞かせてきた。
二年になり仲の良い、自分と同じような生徒が神力に目覚めた。
そしてあるきっかけで自分も神力が使えるようになった。ずっとずっと欲しかったものが手に入って凄く嬉しかった。
だけど、聞いていた筈の神力が使えると同時に守護が顕現するというのに現れなかった。他の皆も同じなら仕方ないんだろう、そう自分に思わせた。
御伽の国でボロボロになった時に会った兄もそのことについて触れなかった。
年は離れていて一族の中でも才がある兄は昔から優しかったし今でも変わらない大切な家族だ。
でもその存在が自分を余計に惨めにした。
そして他のクラスメイトも守護が顕現していった。残されたのは自分ただ一人。
正直悔しかった。
優しい両親は自分の守護が顕現しなくても何も言わないでいてくれた。
クラスメイトも試合に負けたことを責めることなんて一切しなかった。
それが余計に辛かった。
じゃあどうしてもらえばよかったかなんてわからない。
悪いのは全て弱い自分のせいだから。
「どうして……弱いの」
「ん?いきなりどうしたの?高熱で意識が朦朧としちゃった?それとも虫さん達に齧られすぎて気が触れちゃった?キャハハ、ザァァァコにはお似合いだよ!」
「そうだよ、ね。みんなに肩、並べられ、ない、し」
「そうそう、ザァァァコはザァァァコらしくやられてりゃいいの。ほらもっといい顔みせてよ」
「だったら、こんな、あーし、なんか……」
――っ!?
フィリアの身体が突如震え鳥肌が立つ。
目の前の者から感じるドス黒い何かに怯えてしまったのだろうか?
本能が警鐘を鳴らす。
これはヤバイものではないかと。
「なんか変な空気を感じるねぇ……とりあえず試合を終わらせてもらうよ。虫さん達アイツを喰い散らかせちゃえ!
ついでにカラカラのミイラになっちゃえ! 灼風接吻」
黒い霧から無数の飛蝗がヴィオの身体を貪るように集まり、更には念には念を入れたフィリアの口から超高熱の吐息がヴィオに向かって放たれた。
駄目押しに次ぐ駄目押し。神装も纏えぬ者がこんな攻撃を受けてしまえば耐え切れるわけもない。そしてこん無残な攻撃を喰らえば精神が耐えきれなくなるかもしれない。
「コイツはヤベェだろ! 試合止めんぞ!」
そんなヴィオの姿を見て我慢できず、シュウが試合を止めようと舞台に向かおうとしたときヴィオの声が響く。
「――ブッ壊れちゃえばいい」
繭のようになった大量の虫の隙間からヴィオの身体から発せられた白い光が漏れていく。
そうこれは力の証、蹂躙すべし破壊の力。
「神装光臨」




