雷神(ゼウス)vs狼王(フェンリル)〜決着〜
対抗戦一ヶ月程前、放課後の空き時間に雷音がルナの兄であるサンを相手に実戦形式で訓練していた時のことだ。
「雷音も中々強くなってきたね。というか君達のクラス全体でもだね」
「ああ、自分でも実感できてるよ。やっとサン兄にも一発当てることができたし」
「うんうん、いい事だ。僕が言うのもなんだけど君達は凄いよ。たった二ヶ月でここまで強くなれたんだから。ただ……」
「構わないよ。言ってくれ」
サンは言い淀んだが、雷音の自分を見る真っ直ぐな目を見て仕方なく率直な意見を述べた。
「正直なところあと一ヶ月だけの鍛錬ではAクラス以上には勝てないだろう。分かる者には分かるだろうが君達Eクラスの才は素晴らしいものだ。下手すれば僕達聖徒会……三年の現Sクラスを凌ぐ程に。ただ惜しむべきは神力が使える様になったのが余りにも遅かったことだ」
「……」
「もっともっと時間があれば追いつけることも出来ただろうね。だけど僕は二年のAクラスとSクラスの実力は知っている。だから……」
「サン兄、そんなことはわかっているよ。俺達が経験不足なことも。だけどそれで諦めたら何の意味も無いよ。俺はもっと強くなりたいし誰にも負けたくない……神力は心の強さ……そうだろ?」
「ふっ……ふふふ……あははは! 確かにそうだね、僕ともあろう者がそんな事も忘れてしまっていたよ。よし、雷音今日からは僕も疲れなんて気にせず全力で付き合ってあげるよ」
「うん、一切の手加減なんていらない。だからあと一ヶ月よろしく頼むよ」
「ああ。ただ少し訓練の仕方を変えようか。手合わせだけではなく、格上相手にも優位に立ち回れるようにしよう。ただ本気で死ぬ可能性が高いから頑張って耐えてね?」
満面の笑みを浮かべながらそんなことを言うサンに雷音の決意はどこへいったのか若干引いてしまった。
「お、お手柔らかに頼むよ……」
――――
雷音が粉砕する雷槌で舞台の一部分を破壊して破片を飛ばしたのは攻撃の為ではなく、目眩しの為の弾幕だった。
その隙に一旦間合いを取った雷音はある行動に出た。それはサンとの特訓の末に会得したもの。
雷霆から迸る雷を自身に目掛けて放ったのだ。
「いくぞ……天を貫け!『雷光蒼天翔』」
雷音の身体に蒼く輝く稲妻が落ちると同時に爆発するかの様な勢いで目を潰さんばかりに眩い光が周囲にひろがっていく。
「うぉ!?なんだこりゃあ?み、見えねぇ!」
ルーフェの目はそれを直視するも、あまりの眩しさで腕で目を覆ってしまった。
光が収まり目を開くと、目の前にはまるで雷を身に纏い、光り輝く雷音がいた。
「テメェ……何かしやがったな?」
「あぁ」
「へっ、よくわからねぇが俺様のスピードに着いてこられるもんならついて来やがれ!」
「それは……こっちの台詞だよ!!」
雷音が足を前へと踏み込むと、先程迄の動きとはまるで次元が違うと思わんばかりの速さであった。
一瞬でルーフェの背後に回り込むと強烈な殴打を叩き込んだ。
「なっ!?……がはぁぁああ!」
「さっきのお返しだよ!」
雷音は意趣返しとばかりに高速で拳を叩き込んでいくが、それをルーフェは躱すことが出来ず防御するだけであった。
「なんだぁ……さっきまでと違うじゃねーか!」
「こいつが俺の切り札だよ……っらぁ!」
「くっ……ガードしてんのに身体が痺れやがる…………テメェ身体に電をブン流してやがんな?」
雷音の拳や蹴りはルーフェに当たるたびに電流を流し込んでいた。それにより若干ではあるがルーフェの体勢を崩していった。
「御名答、これが俺の盾でもあり羽でもある新しい技、『雷光蒼天翔』だ」
雷音は雷霆の雷を自身に巡らせ生体電力を活性化させ、肉体を爆発的に強化することが出来た。しかしメリットだけでは無かった。
(ぐっ……たった一、二分しか経ってないってのに全身を斬り付けられた様な痛みだ。もってあと二、三分ってとこか)
しかしその雷は刻一刻と肉体を蝕む。練習中でわかったのは闘えるのは五分ぐらいということ。
それが過ぎれば痛みで動けなくなるのは必死であり、それまでに決着をつけなくてはならない。
だがしかしこの局面においてこの技は補って余りあるほどの価値があった。
「悪いけどこれには色々制限があるんだ。速攻でいくぜぇ!」
「上等だ!かかってこいやぁぁぁ!」
二人の拳と拳のぶつけ合いはもはや下位クラスの者には見えない程の応酬であり、時折血飛沫が舞うのが見えるぐらいだ。
時間は既に四分を経過していた。
「はぁ……はぁ……ぐっ……」
「埒が……明かねぇなぁ……。お前強いよ……いいよ……スゲェ楽しいぜぇぇ」
「そっちもな。流石はAクラスだよ」
「ケッ、クラスがどうとかくだらねぇからやめろ。強ぇのが全てだ。でもそろそろ終いにしようぜぇ。俺の必殺技を全力でテメェにぶつけるからよ、テメェも全力で来やがれ!」
「望むところだ! はあぁぁぁ!」
「見ろ!全てを飲み込む狼王の顎を!」
ルーフェは脚に力を込めると地面を蹴り、上空へ跳び上がり落下しながら空中で前転するように回転する。そして己の神力を利き足である右足に集中している。
それに対して雷音は上空へ飛び上がったルーフェを見据え、神器・雷霆を籠手に変形させ神力を右腕に集めていった。
「喰らいやがれ!狼王滅界牙!」
「砕け散れ!雷光閃烈拳!」…
空中から迫る断頭台の様に落ちてくる踵落としは狼王の顎の如し。そして地上から迎え討つのは雷を纏う雷神の拳。双方が全力で放った技の衝突の瞬間、会場に轟音が鳴り響いた。
「「おおおぉぉぉ!」」
威力はほぼ互角。しかし雷音の足元の武舞台がひび割れていき足が沈んでいってしまう。
「く……」
「さっさと、沈んで呑まれちまえよぉぉぉ!」
落下のスピードに加えて回転の力が加えられたルーフェの技が雷音の技の威力を少しだけ上回っていた。
「まだだ! 身体中の雷よ! 俺の拳に集まれぇぇ!」
「んだとぉ!?押し返される……だとぉ!?」
雷光蒼天翔により全身に行き渡っていた雷を全て右腕に収束し、それを一気に解き放った。
「これで全開だぁぁぁ! 貫けえぇぇぇ!!」
雷音の拳から放たれる閃光はルーフェの踵を完全に打ち返し、そのまま彼を弾き飛ばした。
「ぐっっ……クッソっっタレがぁぁぁぁあああああ!」
舞台を囲む見えない壁に激しくぶつかり、そのまま力なく地面へ落ちると神装は解け、ルーフェはそのまま地面に転がったままだった。
一瞬会場は静寂に包まれるがそれを切り裂く様に審判の勝ち名乗りが上がった。
「勝者……Eクラス!三対二でEクラスの勝ちです!」
「よっしゃあぁぁぁ!」
勝ち名乗りと共に雷音の雄叫びが響き渡る。そしてその日一番の歓声が湧き上がる。
その殆どが驚きではあったが、Cクラスに勝った時の様に罵声を浴びせる者は殆どいなかった。
「ってぇ……くそっ、完敗だ……ダッセェな……」
いつの間にか意識を取り戻していたルーフェ。そんな彼に雷音は近づいて手を差し出していた。
「良い勝負だったな。一歩間違えたら俺が負けてたよ」
「けっ、その勝負ってのは一歩がデケェんだよ。まぁ、次は負けてやらねぇけどな」
ルーフェは顰めっ面しながらも雷音の手を取り立ち上がる。お互い足元はおぼつかないが。
「俺も負けないさ。これから俺だってもっと強くなるんだからさ」
「そいつは俺の台詞だ。まぁ今日の所は負けを認めてやんよ。ただ俺達に勝ったんだ、Sクラスに負けんなよ?」
「ああ、負けない。負けられないからな」
「へっ、そこは勝つって言っとけよ。じゃあまたな」
雷音が武舞台を降りるとEクラスの面々が取り囲むように雷音に飛びついてきた。
「雷音っち偉いし!決勝進出だよ」
「流石雷音!次は俺も勝つぜ!」
シュウとヴィオは満面の笑顔で飛びついて雷音を迎えた。が、しかし一人険しい顔をしたネイルはとても冷静に口を開いた。
「雷音、もう君の神力は殆ど残ってない……違うかい?おまけに少しの休憩じゃ回復しない程に」
「…………」
「あれだけ神器を使って限界まで神力まで使ったら当然だよね。おまけにこっちはリンも眠ったまま。そんな状況でSクラスに勝てるなんて思えない」
雷音にもそれは分かっていた。だからさっきルーフェにも勝つとは言えなかった。事実、ルーフェ相手に全力で戦って紙一重で勝ったのだ、神力はもはや底をついていた。
「不本意だけど棄権しよう……。このままじゃ一方的にやられるだけだ」
「はぁ!?ネイル冗談言ってんじゃねぇよ。オレ達が戦ってる間に回復すんだろ」
「無理だよ。僕の魔眼は皆の神力の流れを読めるのは知っているだろう?幾らなんでもそんなに速く回復はしない上に相手はまだ一度も戦っていない万全の状態だ。それに僕らだって決して万全じゃないんだ」
「ぐっ……」
ネイルの言うことは正論だった。この状態では万が一でも勝てるわけがない。雷音自身もそれは分かっていた。
だけど――。
「俺はやるよ、ネイル。こんな状態でもやれるだけやりたいんだ。それは皆同じ思いだろ?落ちこぼれと呼ばれた俺達がここまでこれたんだ」
「はぁ……やっぱりそう言うと思ったよ。このクラスで何気に一番負けん気が強いのは実は君だもんね」
「いやいやそれは無いだろ」
「いや、正解だな」
「うん、雷音っちだし」
お前等がそれを言うのかと心の底から言いたかった雷音だったがクラス一の常識人であるネイルにそう言われてしまうと言い返せなくなってしまった。
「とにかく俺は休むよ。少しでも体力回復に努めて――」
「その必要は無いわよ。学園長に申告して許可ももらったわ。決勝は明後日の午後に変更よ」
Eクラスの担任代理であるティナは皆に近づくと試合が延期されたことを伝えてきた。
「え?ティナセンセ、去年は決勝までやってじゃん?」
「だってフェアじゃないでしょ?前から思ってたのよ、Sクラスばかり有利にさせて。他のクラスの先生共は反対してたけど……私に口で勝とうとしても無駄よね。それに、ね……あれだけ舞台を壊しておいてやれるわけないでしょう?」
ティナの視線の先には荒れてしまった舞台があった。ネイルと雷音の試合の時に破損が生じたのだが、主な原因はガトルとルーフェの兄弟である。
とはいえ対峙していたのは間違いないし、そもそも舞台の強度が耐えきれないのが悪い。
「全力でやってるから仕方ないのでしょうけどなるべく壊さないでね?」
冷静かつ氷の様な微笑を浮かべたティナに雷音達は頷くことしかできなかった。
とはいえティナのおかげでむざむざと負け戦をすることは避けられた。
会場には決勝の日にちが延期されることが放送され、観戦していた生徒達は続々と退出していった。
雷音達も会場を出ようとしたところ、正面には銀色の髪を靡かせる見覚えのある顔が近づいてくる。
「雷音、明後日は正々堂々と勝負だからね。だからゆっくり休みなさいよ。あと今日、その、闘っている姿格好良かったわよ。じゃあね!」
ぽかんと口を開く雷音。対照的にニヤニヤと口を動かし肘で雷音を小突く面々。
しかしティナだけは少し冷めた目で雷音を見ていたようで小さな声でそっと呟いた。
「青春ねぇ……私に春はいつ来るのかしら?」




