雷神(ゼウス)vs狼王(フェンリル)
「面目ねぇ……」
控えの席に戻って来たシュウはリエルに手も足も出なかったことにショックを受けていた。
そんな彼に雷音は声をかけられない。
言葉を口に出せなかったのだ。
友になんと声をかけていいのかわからなかった。
だが――そんな空気を物ともせずヴィオはシュウの背中を思いっきりぶっ叩いた。
「いってぇぇえええ!! 何すんだよヴィオ!?」
「いつまでもしょぼくれた顔してるからだし。負けは負け! 悔しかったらもっと強くなるだけだし。馬鹿シュウなんだからこれぐらいで落ち込むな!」
ハッ、としたようにヴィオの顔を覗きこむシュウ。彼女は目に涙を溜めてシュウを叱咤していた。
負けて悔しいのはお前だけじゃない、と訴えるように。
「……済まねぇ。正直言ってくやしくてよ。せっかく頑張って来たのに……いきなり負けちまってよ……でもヴィオの言う通りだな。次は勝つ!」
「全くあーしがいないとダメダメだね馬鹿シュウは。つーか油断しすぎだし」
「うるせぇ! もう油断なんてしねぇよ!」
何だかんだとこの二人は相性が良いのだろう。
シュウの先程までの落ち込み具合は一体どこへ姿を消してしまったのだろうか。
その一方、一人感情を昂らせる男が一人いた。
「次は俺の出番か……シュウが負けたのは残念だったけど……楽しみだ」
緊張と同時に血が滾る。
やれる事はやった、後はそれを全て出し尽くすだけだと自らを鼓舞する。
力み過ぎているところもあるがそれが良い塩梅にスパイスになっているのだろう。
「……よし行ってくる!」
「頼んだぜ……勝てよ!」
「頑張れし!」
「頑張ってね」
仲間達に背中を押され雷音が舞台に上がるとAクラス、三獣死の最後の一人、ルーフェが同じ様に舞台に上がってくるなり雷音に睨みつけた。
「テメェが噂のEクラスで初めて神装を纏ったやつだよな?」
「噂になってるのか?」
「いきなり使えるようになってSクラスのウォードをぶっ飛ばしたって聞いたぜ?違うのか?」
「あぁ、間違ってはないよ。でもその時勝った訳でもないぜ?」
そう、あの時ウォードはまだ全力では無かった。
それが本心でなのか虚言なのかはわからない。
だが、今度こそ確実に白黒をつける為にもこの勝負は負けられない。
「まぁどっちでもいいぜ。俺様もアイツは大っっっっ嫌いだからな。テメェはよくやってくれたよ。だがこの勝負勝つのは俺だ!」
「俺だって負けるつもりはない!」
「上等だぁ……審判さっさと始めやがれ!」
ルーフェは目の前にぶら下げられた好敵手に飛びつきたくて飛びつきたくて仕方なかった。
その血に飢えた獣の如き眼光は審判の教師を震えさせた。
「で、では大将戦、始め!」
「神装光臨!」
「「神装光臨!」
白金の神装を纏う雷音の前に現れたのは獣だった。
狂狼を思わせるルーフェの神装は銀色に近い、世界を燃やし尽くした後に残る灰の色だ。
太く鋭い爪はまさに狼の頂点に立つ者の姿。
「破滅の顎、狼王のルーフェ! 好きなモンは喧嘩だ」
「雷神の中の雷神!雷神の雷音!! この勝負受けて立つ!」
「上等だぁ! かかって来いやぁ!」
「遠慮なくいくぜ!雷霆!」
その手に持つ雷霆からいかづちがルーフェに向かって迸る。発動時間は以前よりも速い。雷音は訓練の末に雷霆を使うまでのタイムラグを抑えることが出来たのだ。
「ハッハー!その程度か!」
雷はルーフェに直撃するが、それを物ともせず雷音に向かって拳が飛んでくる。両手でガードするも、その拳の重さに後方に押し出されてしまう。
「ぐっ、重い一撃だな。だけど、負けられるかぁ!」
雷を受け身体の表面から煙が立ち上るが、そんなこと関係ないと言わんばかりに拳を突き出す。
雷音も負けずと前へ前へと足を踏み出し、拳を突き出す。そこからはお互いの拳と拳がぶつかり合う乱戦となっていった。
「やっぱり殴り合いってのは楽しいなぁ! だけどこのままって訳にゃいかねぇからな。狼には狼らしい獲物で攻撃させてもらうぜぇ!この狼爪で削ってやんよ!」
ルーフェの神装の籠手から鋭い獣の如き爪が伸び、それを振りかざし攻撃してくる。
まともに受けられない、ならば。
間合いを詰めルーフェの手首を掴む。これなら爪は喰らわない。
「そいつは悪手だぜ?狼には牙もあるんだよ!」
脇腹に響く強烈な痛み。ルーフェの足はまさに狼牙の様に鋭く雷音の脇腹を抉ったのだ。その痛烈な一撃に雷音は腕を離してしまう。
「悪りぃな足癖が悪くてよ……って何だそれ!?」
「コイツが俺の本命だよ!粉砕する雷槌」
ルーフェの油断したところに取り出すは雷神では持ち得ない雷神の神器である粉砕する雷槌。
それを至近距離で勢いのままルーフェに向かって振り抜いた。意趣返しと言わんばかりに脇腹に叩きつけると、ルーフェはその衝撃で吹っ飛んだ。
が、しかし地面に転がりながらもすぐ立ち上がった。
「ってぇ……な。ヤベェもん持ちやがって」
「今ので倒したかと思ったんだけどな……」
粉砕する雷槌が叩きつけられあ瞬間、ルーフェは力を流す為に、粉砕する雷槌が向かってくる方向とは逆方向に自ら跳び衝撃を半減させていた。
本能的に動きダメージは半減したものの、強烈な雷神の一撃に身体は悲鳴を上げる。
とはいえ雷音が喰らった足技も鳩尾に喰らっており、今のところダメージはお互い半々と言ったところだ
。
「強いな……さっき喰らった蹴りがまだ痛いよ」
「テメェこそなかなかやるじゃねぇか。あんなぶっ飛ばされたのは久しぶりだぜ」
「ぶっ飛ぶだけで済まされると俺も困るんだけどな」
「はっ、よく言うぜ。とにかく今ので分かったぜ。このままじゃ勝てねぇってな。だから本気でいくぜ?」
「今のが本気じゃなかったと?」
「一応本気だったぜ?あのよぉ、俺の神装は一つ面倒なところがあってよ。以前よ、もっともっと強くなりてぇと思ってたら守護が応えてくれちまってたんだ」
「応えた?」
「ああ。コイツはありがた迷惑なやつでよ、俺に枷をかけてくるんだよ。すっげぇ重いやつをな。
動きを制限されちまうぐらいにだぜ?
まぁもう慣れちまったがな?
で、だ。コイツを取る条件があってな、俺が相手を認めたり恐怖を覚えた時でな、今回は前者だ。
てな訳で本気で行くぜ。
『拘束、咆哮、解放しろ――魔杭紐』」
ルーフェが紡いだ言葉と共に彼の纏う神装からいくつかのパーツが剥がれ落ちていく。
しかもその一つ一つは落ちると床に沈んでしまったのだ。
「おい、どんだけ重いんだよそれ……」
雷音は笑うしかなかった。確かに本気ではなかったのだろう。雷音がこんなものを付けたら普通に動くことはまず無理だろう。
だがルーフェはこれをつけて自分と同じぐらいの動きをしていたのだ。
ならばこれからのルーフェはどうなるであろうか?
「ふぅ、身体が軽くなったぜ」
「……そんなの付けててよく動けたな」
ルーフェは重しが取れたのを確認する様にその場で軽く跳ねていた。
慣れたのを確認すると立ち止まり雷音と目を合わせた。
「最初は地獄を見たがな。けどよぉ……それがどんな結果をもたらしたかテメェの身をもって教えてやるよ!」
ルーフェは両脚に力を溜めて腰を落とした。
そして一瞬で、瞬きをするよりも速く、雷音の背中を既に捉えていた。
「後ろがガラ空きだぜオラァ!」
雷音の背中に強烈な痛みが走る。先程まで見えていたはずのルーフェの動きが全く見えなかった上に、更に狼爪が雷音の身体に突き刺さる。
「ぐあっ! なんて速さだ……だけど!」
振り向きざま、目の前にいるルーフェに対して粉砕する雷槌を振り抜くが、当たったように見えたそれは高速移動による残像であった。
ルーフェは一瞬で間合いを取り、すでに粉砕する雷槌の当たる範囲外にいた。
「分かっただろう?テメェは近距離・遠距離でも攻撃できる神器持ちだが俺様に当てるには速さが足りねぇ。いいか、闘いにおいて一番重要なのはスピードなんだよ。
いくら攻撃手段が有ったとしても、ものスゲェ威力があってもよぉ、当たらなきゃどうってことはねぇんだよぉ!!」
その機動性を生かした攻撃は一撃一撃は重くはないが、徐々に徐々に雷音を削っていく。
雷音も時折反撃を試みるが、一撃当てることもできない。
「(拙い……このままじゃやられる……)」
「オラオラァ! どうしたぁ!? テメェはこんなもんかオイィ!!」
「くっ……まだだ……まだ……」
この三ヶ月雷音は神力に目覚め神装を纏ってから己の足りない物を必死に埋めようとしていた。しかしたった三ヶ月ではそう簡単に強くなることは出来ない。
確かに境界の向こう側へ行き御伽達との命のやりとりをしたという大きな経験はある。
しかしEクラスの生徒以外はこの学園に入学以前から神力が扱えたという絶対的なアドバンテージがある。
特に目の前の男の様に強くなるために己を鍛え続ける者との神力を使うという意味での経験の差は非常に大きい。
だから血反吐を吐いても、誰にも負けたくないという思いを抱きながら雷音は……雷音達はひたすらに己を鍛えたのだ。
「まだだ!まだ負けるかよ!これでもくらえ!」
粉砕する雷槌を大きく振りかぶり、ルーフェに当てると見せかけ足元の舞台に全力で叩きつけた。すると舞台は砕け散り、大量の破片が高速で飛び散っていった。
「ぐっ、舞台を砕いて弾にしやがるとはなぁ!だがこの程度じゃやられはしねえぜ!」
ルーフェは細かい破片を避けつつ、破壊していたので特にダメージを与えられた様子もなかった。
「はっ、やぶれかぶれでやられても俺様にゃあ当たらねぇんだよ。って、なんだお前身体が輝いて……」




