「黒炎の巨人 (スルト)vs血の冥界の女帝(ヘル)
「よっしゃあ!これで二勝一敗王手だぜ!」
先にAクラスから二勝を挙げたことでテンションが高いシュウは勝利して戻ってきたネイルの頭をわしゃわしゃする。
反対に試合を終えたネイルは疲れ果てたように顔を下げた。
「いやぁ、強かった……はっきり言ってCクラスとは比べ物にならないよ。一歩間違えれば負けてたのは僕だったかもね。
残りの二人も相当な実力だと思うからシュウも雷音も油断しないでね」
「おおよ! どんな奴だろうがぶっ潰す! さっきの試合はあの兄貴の方が副将だったからアイツが相手か?」
「いや、違うみたいだ。見てみろよ」
武舞台の上にはAクラス、三獣死の長女リエルが既に上がっていた。
「俺の相手はあの細っこい姉ちゃんか。よし、さっさと試合を決めてくるぜ」
「あの子か……さっきの試合はよく分からないうちに相手を完封してた。どんな能力を持っているか分からないが気をつけていけよ?」
「任せろよ。どうせ三獣死とか言ってるくらいだ、あの姉ちゃんも本気になりゃあバリバリの肉体派なんだろ。ガチンコ勝負ならオレの得意とするところだ。よし行ってくるぜ!」
(これはちょっと不安だな……)
AクラスとBクラスの試合を見てた雷音が一番気になっていたのはリエルだった。
彼女の試合中、相手が彼女の間合いに入った途端に崩れ落ちて試合はそのまま終わってしまった。
何が起きたのかなど分からなかったのだ。
そんな雷音の不安を他所に試合は始まりを告げていた。
「では両者前へ……副将戦、始め!」
「よっしゃあ行くぜ神装光臨!」
「騒がしいですよぉ。そぉれ、神装光臨」
二人の身体は光に包まれ神装を纏う。
シュウが纏う神装は紅蓮の炎の如き赤だが相対するリエルの纏う神装も赤。それは血を全身に浴びた様な真紅。しかし下半身は腐敗している様な緑がかった黒さのドレスであった。
「黒炎の巨人のシュウだぜ!燃やし尽くすぜぇ!」
「血の冥界の女帝のヘルです。よろしくお願いします」
「おう、よろしくな姉ちゃん!……って何か三獣死って異名割には獣っぽくねぇな。何かオラオラな感じかなと思ったんだがお嬢様みてぇじゃねぇか」
確かに中堅戦の Aクラスのスールと比べると姉のリールは野獣的な要素を感じられない。不気味な神装を纏う割には本人は寧ろ穏やかである。
「それはそうですよぉ、お馬鹿さんな弟達が勝手に付けたんですから! 全くもぉ、今日日十四歳の男の子でもそんな発想しませんよぉ」
「そっかぁ?俺はカッコいいと思うけどな」
「そういうお年頃なんですね、うふふふふ。なんだかあなたには親近感が湧きますわ。わたしの弟達にそっくりねぇ、脳筋な所とか」
「「「誰が脳筋だ!」」」
見事なまでにシュウ・ガルド・ルーフェの声が重なり合った。
「ほら息もピッタリ。うふふふふ、さて足元をご覧いただけますか?」
「ああ?なんだって?……ってなんだこりゃあ!?あ、足が動かねえ……凍ってやがるのか?」
いつの間にシュウの足元には血の水溜りが出来ていて、その血は足に絡まり凍っていたのだ。
「どうですぅ?わたしの氷冥界は冷たいでしょう?沸騰した頭を冷やすには丁度良いと思いませんかぁ?」
「ヤベェ……足の感覚が無くなってきたぞ。くっ、燃えろ滅炎の大剣!」
シュウが両手で持つ滅炎の大剣から発せられた炎はシュウの足元で燃え盛り、氷を溶かしていく。
「あちちちち! でも溶けたぜ!」
「あらぁ、溶けちゃいましたぁ? 脳筋の割には考えてますねぇ。でもわたくしそんな人は嫌いじゃないですよぉ。ほら、その炎あなたに丁度いいじゃないですか暑苦しそうで」
「こん……の女ァァァ!!」
怒りのままに飛び出して行くシュウ。だがリエルは慌てもせずゆっくりと口を開く。
「行きなさぁい、血喰いの怒龍」
リールの神装から生み出されるように姿を現した龍はその長い尾で、正面から向かってきたシュウを弾き吹き飛ばす。
「ぐはっ……って負けるかよ!オラァ!」
弾かれてもすぐ体勢を整えて、龍の爪を掻い潜りリエルの前に再び近づく。しかし今度は別の獣がシュウを押し倒す。
「いい子ねぇ暗闇の魔犬ちゃん。そのまま脳筋君の首を引き裂いちゃいなさぁい」
「なんだよ眷属が二体って!その上に氷まで操ってズッケェぞ!」
「そう言われてもぉ、これがわたくしの力なんですよぉ。あなたみたいな脳筋と違って力がないから仕方ないんですよぉ。その炎の剣みたいな神器持ってないですしぃ」
「クソっ! 力がねぇって、眷属を同時に使役して凍らしたりどんだけの神力を抱え込んやがる!?」
「それは乙女の秘密ですよぉ。でも脳筋さんはつよそうだからわたくしもこれだけ神力を使ったんですよぉ」
シュウは暗闇の魔犬にのし掛かられ、背後には血喰いの黒龍が迫ってきている上に再び足を凍らされてしまった。
「くっ……だったら全開の炎でテメェの眷属ごと燃やし尽くしてやるよ! 燃え盛れ! 滅炎の大剣!」
しかし黒炎はなんの反応も起こさない。
それどころか試合開始時は激しく燃えていた滅炎の大剣はただただ小さく燃えるだけ。しかも炎はどんどん小さくなっていく。
「くそっ……なんでだ!なんで燃えねぇんだ滅炎の大剣、つかなんか力が入らねぇ……」
「残念でしたぁ。では冥途の土産に……って死にませんけどねぇ。あ、脳筋君ってメイド好きそうな顔していますよねぇ」
「どんな……顔……だ、よ……」
「あらあら辛そうですわねぇ。さて種明かしするとわたくしの神理『歩み寄る死』は、わたしに近づけば近づく程に歳を取るように衰えていくんです。わたしは脳筋の弟二人と違って力はないんですけどぉ……こうやって闘うしかないんですよぉ。ではトドメを刺しますね」
リエルは一歩一歩シュウに近づく。
それと比例するようにシュウの身体は重くなっていく。
「分かりましたぁ?脳筋だけじゃダメなんですよぉ。ほらぁ、素の筋力では脳筋君よりずっと劣るわたくしが優位に立てちゃうんですからぁ」
リエルは体の自由が効かない倒れたシュウの顔の上に自分の右足で踏んだ。
「クソっ……」
「あらあら顔を真っ赤にしてしまいまして……もしかしてわたくしの下着でも見えてしまったのかしらぁ。いやらしい殿方にはお仕置きですわよ」
龍の顎と魔犬の顎が同時にシュウを引き裂き、そこで試合は終了したのであった。




