金色の豊穣神
「はぁ、ついつい怒鳴ってしまったな……。というか身体をべたべた触るなリエル」
溜息を吐くのは先程ヴィオと闘ったばかりのAクラスのノアだ。普段は凛として物静かな彼女だが騒ぐだけの弱者達に怒りを爆発させてしまった。
「怒ったノアちゃんやっぱりカッコいいですねぇ。あたくしもノアちゃんに惚れてしまいそうですわぁ。この愚弟達に代わってあたくしの妹になりましょうよぉ?」
「それは遠慮しておくよ。それに君に惚れられても嬉しくもなんともないし、ましてや妹になんかなりたくない」
そんなノアに絡んでいるのは同じAクラスのリーネだ。ピンク色の髪と全体的に細く触れてしまえば折れてしまいそうな身体と美貌の持ち主の彼女は黙っていれば深窓の令嬢と間違えられてもおかしくはない。
黙っていればだが。
「もぅー、ノアちゃんたらつれないんだからぁ。しかもさっきの子にご執着でしょお?」
「ああ、彼女は素晴らしい。鍛えられた筋肉、あの瑞々しい生脚……ああ、堪らない。色々と疼いてしまうよ!」
自らの身体を押さえつけるように座りながら光悦な表情を浮かべるノア。そんな彼女を同じAクラスのクラスメイトは非常に冷めた目でみていた。
「ったくよ、こいつもこれがなきゃまともなんだけどなぁ」
「確かにね。ただの変態じゃんか」
「あらあらルーフェとガトルがそんなこと言えるのかしらぁ」
「「姉ちゃんこそ言える立場じゃねぇだろ」」
リエルを姉と呼ぶルーフェとガトルと呼ばれた顔の似ている二人。彼ら三姉弟はEクラスとCクラスの試合の時にEクラスを否定しなかった者達だ。
ルーフェとガトルは日頃の素行は良くないが決して弱い者虐めなどはしない為にEクラスと関わることは特に無かった。
「君達姉弟も五月蝿いな」
「「誰のせいだよ!」」
「まったくいつも息のあった兄弟だ。ところで真面目な話をするが皆Eクラスを舐めてかかるな。残りの者達が神装を纏えるかわからないが纏えるとしたら厄介だ」
事実ノアは今の試合に余裕で勝ったように見えただろう。しかしそれはノアが神装を纏えるというアドバンテージがあったからだ。
ヴィオは神装を纏っていない状態でも一撃一撃がとても速く、そして重かった。
ノアが神装を纏っていない状態でヴィオの攻撃を受け止めたのは一回、それ以降は全て避けた。それでも後半はギリギリだった。
「ノア、俺様達だって分かってんよ。アイツ等の一回戦での動き見てたら油断なんかしねぇよ、なぁガトル」
「そうそう、兄ちゃんの言う通り。俺達姉弟は闘いだきゃあ真面目に取り組むからさ」
「油断大敵、ね。うふふふふ」
実際に彼らも一回戦の試合を観てEクラスが弱いという認識はまったく無かった。
もっとも嘆くべきは相手のCクラスが弱すぎてEクラスの強さを何も掴むことが出来なかったことだろう。。
だがこの三人にはそんなことは些細なことだ。
彼らは本能で闘いを楽しむのだから。
クラスのもう一人は例外として。
「はぁー、雑魚相手に時間かかりすぎだねノア。僕なら簡単に倒せたと思うよ?」
「おい……ライル、貴様は敵を侮りすぎる。油断をするな」
このライルと呼ばれた男こそAクラスの次鋒であった。しかしノアは正直仲良くしたく無いどころか話す事さえしたくなかった。
他の三人はとても面倒な奴等だが性格的には嫌いではない。
しかしこの男は生理的に無理なのだ。
同じクラスながら次の試合に勝ってほしいと思えない程に。
しかしながらその能力的にEクラスの次鋒では勝てないだろうと思っていた。神装を纏えなければこの男には決して勝てない、と。
「油断もクソもないよ。雑魚なんて秒で片付けてやればいい話さ」
「そう言って一回戦負けたではないか?あれは油断ではないのか?」
「ああ、あれはやられた時のことを体験しておきたかったんだよ。ダメージは装置が肩代わりしてくれるし試してみたかったんだ。でもすごく痛かったからもうやらないけどね。
ま、次はEクラスみたいなゴミ屑相手だから楽勝でしょ?」
Aクラスの者達は誰もその言葉に応えなかった。
というよりはもうかける言葉さえもなかった。
「じゃ、行ってくるよ。僕が実力の差ってのを見せてあげる。当然君達とは違うってところをね」
舞台の上に上がるのはEクラスのリン、そしてAクラスのライルという男。
目の前の相手だけを見つめるリンとは違いライルは決して相手の事は見ない。
「それでは次鋒戦を始めます。お互い前に」
前に進むリンだがライルは欠伸をしてその場に留まったままだ。
「なぁ、シュウあいつ……」
「ああわかってんよ。あのクソ野郎……」
ライルは二年の中である意味有名だった。
徹底的に自分より下のものを見下し、傷つける性質だった。
それはEクラスだけではない、Aクラスより下のクラスのCやDにも手をあげていた。
故に観戦している生徒達からも忌諱するような目線が送られている。
「何をしている?Aクラス次鋒も前へ出ろ」
「はぁ……こんな雑魚を相手にするなんてよく考えたら面倒臭くなってきちゃったよ。ねぇ君さぁ、棄権しなよ。わざわざ恥かきたくないだろ?それに君よく見ると綺麗な顔してるじゃん。棄権したら抱いてあげてもいいよ?」
「………」
「ねぇ聞いてる?それともビビってるの?」
「Aクラスライル、私語はやめろ。退場にするぞ」
「はいはい、厳しいこと言わないでくださいよ。じゃあとっとと初めましょうよ。秒で終わらせますから」
「ったく……試合、始め!」
呆れ気味の審判の掛け声と共に間合いを一気に詰めたのはリンだった。錬成した刀を手に素早く斬りかかる。
しかし最初の一刀は相手の持つ剣に塞がれてしまう。
「おいおい危ないじゃん。まぁそんなんじゃ当たらないけどねぇ……って、おっとっと」
そのままリンは下から上から何度も何度も斬りかかる。見事な連撃ではあるがそれも防がれてしまう。
それでもリンは止まらずひたすら斬りかかる。
「無駄は止めなよ。そんなに張り切っても僕は倒せないよ?」
ライルが力任せにリンの刀を弾くと同時にリンは反動を利用して間合いを取り口を開いた。
「ふふふ……一分経ったでござるよ?秒で某を負かすのではなかったのでござるか?この口だけのたわけが」
その言葉に武舞台に上がっていないEクラスAクラスの全員がプッ、っと口から吹き出してしまう。
「ッハハー!ダセェダセェ!ダセェライル!」
「口だけだってよ!カッコ悪ぃじゃん!」
「話にならんな。呆れてしまうよ」
「ちょ、ちょっと馬鹿にしすぎですよぉ。本当の事だからってそんなこと言ったらライルさんが惨めすぎますわぁ」
敵ではなく味方に集中的に非難されるライルの顔は赤くなりプルプルと震えているようだ。
「このクソアマァ……」
「お、それが本性でござるか?自業自得でござろう?時間稼ぎにも気付かぬ愚か者め」
「よーくわかったよ。君は嬲り殺しにしてあげる」
「あのぉ、ライルさん?ここじゃ殺せませんわよぉ?」
「うるさいリエル! ったくどいつもこいつもこの僕に向かって……神装光臨」
身体から光が発せられるとライルは黄金の神装を纏い、その手には太陽の様に輝く剣があった。
「金色の豊穣神のライルだ。さぁて……早速だけど……踊り死ねよ。行け『勝利の剣』」
ライルが剣を手放すと、剣は意志を持っているかのをように浮かび上がり一目散にリンに向かって飛んでいった。
「何!?」
リンは勝利の剣を弾くが、弾かれた場所から何度も何度も飛んでくる。そして突くだけではなく斬りかかる様にも襲いかかってくる。
「これはなんとも……面妖な」
迎撃はするがその場から一歩も進めていない。
剣はまるでリンを殺すまで動きを止めない野獣の様だ。
「ほら、もっと頑張ってよ。僕はここで観てるだけだけだからさ」
「くぅ……堂々と戦え、卑怯者が」
「何言ってるの?これは僕だけに与えられた才能であって卑怯とか関係ないだろ?決まってるのは敗者は君ってこと。ねぇ分かる?分かんないだろうなぁ。
だってさ、僕みたいな才能の塊は努力しなくても勝てるんだよ」
「確かに卑怯云々は某の勘違いで………あったな…っく!」
力の限り剣を弾き出来るだけ遠くに剣を弾きその隙に無防備なライルに向かって駆けていくリン。
勝利の剣が再び襲いかかってくる前に刀を一閃、ライルに斬りかかった。
「甘ぇよ。『黄金の猪』」
ライルが手を掲げると牛と同程度の体格を持つ金色の猪が高速でリンに向かって突進し彼女は弾き飛ばしてしまった。
「なんだありゃあ!?」
「あれはディーン会長が境界に来るときに使った八脚馬王と同類の物だ」
「分かるのか雷音?」
「ティナ先生に授業で習っただろ……。ったく、あれは生物型の召喚武具『眷属』と呼ばれる物だよ」
眷属は単純に武器代わりにしたり乗り物に出来たりと多様性がある。ただし神力の消費量が多い為に使い所の難しさもある。
「これは……リンが圧倒的に不利だね。遠隔攻撃、近づけば弾き飛ばされる。これは僕達でも苦戦するよ」
ネイルの言う通りリンは手も足も出ない状況に追い込まれていく。勝利の剣は緩まることなくリンに襲いかかる。
「ぐっ、うう……」
「はは、まだ粘るんだね。それにしても弱っちいなぁ。僕は立ってるだけだよ?ホント雑魚だねぇ」
「ぐっ……自分で攻めることも出来ぬ卑怯者に……」
「だからさぁ、僕は自分の神力で出したモンで攻撃してるんだよ?神器も眷属もぜーんぶ僕の物。弱い奴が文句を言うなよ。そぉら踊りなぁ」
再び弾き飛ばされたリンは突進された腹の辺りをおさえているが再び勝利の剣が襲いかかる。
更にはとどめを刺さんとばかりに容赦なく金猪も襲いかかってくる。
リンは刀を振りながら避けてはいるが段々と動きが鈍っていき勝利の剣を躱すことが出来なくなってきた。
しかも剣の動きは最初とは違って敢えて急所を狙わず嬲るようにしている。
ライルの悪趣味さをそのまま体現しているかのような剣だ。
そして疲れで足を止めてしまったところで金猪の突進に再び身体を弾き飛ばされてしまう。
「どうしたの?最初の意気はどうしたの?もうお終いなの?」
「はぁ……はぁ……貴様の様な輩に……負けたくなどない……だが……」
正直もう限界であった。
ここまで追い込まれ、相手には一撃も与えられない。心がとっくに折れてもおかしくはなかった。
だけど負けたくはなかった。こんな下衆な男には
。だけどどう足掻いても勝てない。
そんな諦め始めたその時、舞台の下から大声が響いた。
「リン! 頑張れ!僕の知っているリンは何があっても諦めなかったはずだ! 頑張るんだ!」
普段大声など出さないネイルが大きく声援を届けたことにEクラス全員が驚いた。
気づけばリンだけでなく皆諦めていたのかもしれない。
「リン、頑張れ!」
「そうだ! そんなクソ野郎に負けんじゃねぇ!」
「頑張れリンリン! ぶっ倒せだし!」
そしてネイルに負けじと他の三人からも大きな声援が送られた。
そんな声が届いたのか……満身創痍のリンは軽く微笑んだ。
「皆手厳しい……。こんな……仲間達に応援されて負ける訳にはいかぬでござるな……」
再び刀を構えるリン。その目には弱さなど微塵も感じさせななかった。そして強い意志の視線を込めて前を向いた。
「ったく、おめでたい頭の鬱陶しいゴミ屑共だね。でもそろそろトドメを刺してあげる。さぁ絶望しなよ!」
「……もう負けないでござるよ。某が弱くても大切な仲間がいるのでござる。某の背中を押してくれた仲間が。だから某もそれに応えようぞ!」
「はは、ごちゃごちゃとうざったいよ。雑魚は雑魚らしくさっさとやられちゃいなぁ!」
明らかに急所目掛けて勝利の剣と金猪がリンを襲う。
その速さは先程とは段違い、確実にとどめを刺しにきたのだろう。
だがその刹那、嵐の様に荒々しい光がリンの身体から放たれた。
「目覚めよ!神装光臨」
ブックマーク十人超えました。
ありがとうございます。
ポイント入れてくれた方もありがとうございます。




