雷神VS戦闘神
神力に目覚め神装を纏う雷音に対して、自分には勝てないというウォード。
そんな自信を隠そうともしないウォードに対して、雷音は怒りを露わにする。
「勝てないだと?だったら試してみろよ!」
再び雷霆を掲げ先程の攻撃をもう一度喰らわそうとする雷音。しかしウォードは一気に間合いを詰める。
「遅ぇ!!」
雷音が攻撃をする前にウォードが雷音に襲いかかった。しかもその刺突は先程よりもずっと速く、雷音避けきれずにいた。
「くっ……」
「トーシロがよぉ、生意気なんだよ?思った通りテメェは神装どころか神力のコントロールにも慣れてないし戦いにも慣れちゃいねぇ。そんな奴が俺様に勝とうなんざ百万年早いんだよ!」
ウォードの攻撃に雷音は防戦一方だった。
雷霆を使うには溜めがいる上に使い慣れてなどいない。
ウォードは先程の一撃でそれを見抜いていたのだ。その為にウォードは雷音に対して間合いを空けることを許さず、連続で攻撃を仕掛けていく。段々とウォードの剣による斬撃が雷音を切り裂いていく。神装により守られており、まだ致命的なダメージは喰らっていないが、それも時間の問題であろう。
「やはり雑魚は雑魚だな! 大体よぉ、俺様以外の人間が俺様の上に立つ事なんざ許されねぇんだよ。しかもテメェみたいなボコられるだけの玩具の分際で名有りの守護を持ってるなんてよぉ……だがそんな奴にも使い道はある。お姫様とテメェで俺に隷属しろ。力も強くなるし、オマケにお姫様と楽しいことができるかもなぁ……ハハハハハ!!」
「傲慢な奴め……お前みたいな奴は許さない!」
「どう許さねぇんだよ?それに俺が傲慢なのも生まれ持った強さと立場のおかげなんてこたぁ最初から知っている。反吐がでるんだよ、正義感出す奴らがよ」
ウォードの表情から能面のように笑みが消えると、再度雷音に対して斬りかかっていく。
「ほれ、手も足も出てねぇぞ。幾らテメェが強い鎧や武器を手に入れようと使いこなせなきゃ意味がねぇんだよ!」
ウォードの言うことは至極真っ当である。
雷霆は確かに強力であるが、中〜遠距離向きである。
なのでウォードはまず雷霆を使わせないように、そして神力を思うようにコントロール出来ない為に接近戦用武器は創れないと判断した為にひたすら間合いを詰めて攻める事にした。
ウォードの持つ剣は神器では無いが、彼自身の神力で作り上げた剣で有る。特異性は無いが、使い慣れた武器だ。
故に自分には一日の長がある。ならば負ける筈が無いと確信していた。
そんな防戦一方の雷音を見て、離れた場所にいたルナもウォードと同じ事を考え、弓を番える。
「雷音! 幾ら神装を纏えても相手は雷音よりもずっと神装や神力の使い方に慣れてるのよ。そいつは力任せじゃ勝てない相手なの……だから後はアタシに任せて逃げて!」
しかし雷音は強い意志を持った眼でルナを見つめた。もう逃げない、負け犬にはなりたく無いという意志を伝えるかの様に。
「ら、雷音……」
「おいおい、お姫様もああ言ってることだし逃げたらどうだい?そしたら明日からはもう少しだけ優しく可愛がってやっからよ。ギャハハハハ!!」
ウォードの斬撃が更に力を増していく。逃す気など毛頭に無いと言わんがばかりに。そして追い込まれた雷音はだんだんと動きが鈍くなっていく。
そして完全に足は止まり、息も上がってしまう。
「ほらほら、逃げてもいいんだぜ? そこから動けたらな。逃げないと真っ二つになっちまうぜ?」
「うる……さい」
「あぁ?」
「俺はもう、逃げない……。昔から……本当は……逃げたくなんて無かったんだ……諦めたくなんて無かったんだ……負けたくなんてなかったんだ。
だから……ここで自分に嘘をついたら俺はもう……男じゃない!」
「だったらそのまま死ねよ!神装が解けた後に本当に真っ二つにしてやるからよ!」
「死ねるかよ! 俺の体内を巡る神力よ、輝けぇぇえええ!!!!」
間違いなくこの時、雷音は神力の扱い方なんて分かってはいなかった。
けれども想いは熱く、精神は目の前の壁を乗り越える為に。
そんな彼の為に、ずっと眠っていた彼の神力は応えたのだ。
「うおおぉぉぉおおおお!!!」
雷音の手に光が集まり輝いている。そしてその光は雷霆を包み込み違う巨大な何かに形を変えていく。
「何だこの巨大な神力は!?しかも有り得ねぇ、なんでテメェがその神器を顕現出来るんだよ!?」
「なんで……雷音の守護は雷神の筈……あれは……あの武器は違う……あれは確か別の守護の神器の筈でしょ?」
雷音の手に握られるのは凄まじい熱量を帯びた巨大な鎚。雷を纏い、狙うのは目の前にいるただ一人。
「粉砕する雷鎚!!、目の前の敵をぶっ飛ばせぇぇぇぇ!!!!」
巨人でさえも打ち殺せると言われる粉砕する雷鎚を振りかぶり、ウォードに叩き込む。とっさにウォードは全力で神力を込めた盾で身を守るが、それは破城槌で破られた門の様に粉々に打ち砕かれ、鎚はウォードの身体に勢いよく叩き込まれた。
「なっ!?馬鹿なぁぁぁぁぁ!?」
雷音の渾身の一撃を喰らって吹っ飛んだウォードは勢いよく学園の校舎の壁に叩きつけられた。
「ぐばぁ!……ぐっ、ぐぅ……」
壁に叩きつけられ身動きを止めてしまうウォード。
辛うじて神力は残っていたのか神装は纏ったままだ。
「はぁ………はぁ……クソ……クソクソクソがぁぁ!このゴミが俺をこんな目に合わせやがって許さねぇ…ぞ!」
しかし雷音は既に次の行動に移していた。いつのまにか粉砕する雷鎚では無く雷霆に再び持ち替えて、トドメの一撃を放とうとしていた。
「おいおい……テメェ……そんなもん叩きつけるってなら本気で許さねぇぞ?」
「お前は……お前はやられる側の……人の痛みを知れ!!雷よこの手に集え!!」
光り輝く雷霆は怒りに満ちた雷音に呼応するように形を変え……彼の右腕を包む様に籠手へと形を変えた。
『俺の雷を喰らえウォード! 雷光閃烈拳!!』
雷霆から発せられた激しい稲光が雷音の右手に宿り、それを解き放つとまるで龍の形の様な雷がウォードに向かい炸裂、爆裂した。
爆風により巻き上がる砂埃と熱に焼かれた地面から煙が舞い上がり、辺り一面の視界は塞がれた。
そして煙が晴れていくと立ったままの雷音の姿が見えてくる。
「ケホッ……雷音は無事ね……良かった。アイツは……ウォードはどうなったの」
更に煙が晴れていくとウォードの姿が見えてくる。剣を杖代わりの様にして立ってはいるが、ウォードは無事だった。否、無傷になる様に守られていたのだ。
ウォードの目の前には雷音の攻撃を防いだ壁のようなものが張られており、その壁の内側には一組の男女の姿があった。
「はいはい、そろそろ喧嘩は終わりにしてくださいまし。わたくし達も暇では無いのですのよ?」
「そうそう、君達これ以上騒ぎを起こすと強制的に退学させちゃうよ?」
いつの間にか姿を現した二人。一人は青灰色の髪と赤い瞳、そして高貴さを感じさせ皆が美形と認めるであろう笑顔を絶やさぬ男。
もう一人は巻いた金髪、紫色の瞳に白い健康的な肌をもつ美しい女性だ。
「お、お兄!?それにナディア先輩!聖徒会の二人がなんでここに?」
「ルナ……どうして僕達がここに来たかわかるよね?」
「あの……えっと……だって喧嘩売られたんだもん……」
「わかるよね?」
「ひゃい……」
ルナに兄と呼ばれた男は笑顔のままだがその気迫はとても恐ろしさを感じさせられる。気が強いルナでさえ、借りてきた猫の様に縮こまってしまっている。そしてその視線は雷音にも向いた。
「久しぶりだね雷音。ずいぶんヤンチャしちゃったようだね?」
「はい……殿下、申し訳ありません……」
「駄目」
「申し訳ありません、もう我慢の限界だったんです。でもルナは俺を守ろうとして……」
「違うそこじゃない」
「へっ?」
「あのさぁ、なんで殿下なの?暫く会わない内にそんな喋り方と呼び方嫌なんだけど。それに雷音は僕の事よく分かってる筈だと思ったんだけどなぁ」
しまった、昔から彼はそんな人だった。雷音の脳裏に浮かぶのは幼い頃から遊んでいたルナの兄としての姿。
「はぁ……分かったよサン兄……」
「よろしい。そんな堅苦しいの嫌いなんだからさ。敬語とかふざけてるの?それにこの学園の校則で身分の差は関係ないんだからね?」
とはいえ年上の先輩かつ、次期国王となる者にそんな扱いをしていいのだろうかと迷ったが、これが最良の選択であると雷音は本能で感じ取った。
「それにしても良かったね雷音。やっと君も神力に目覚めたんだね。おまけに神装と神器まで使うなんてねぇ。
しかもあれ粉砕する雷鎚だよねぇ?ミーン・メイの書に載ってるもんね。どうやって手に入れたんだい?」
ミーン・メイの書……それは古今東西のあらゆる神装に関することが書かれた、守護の研究者ミーン・メイの書物である。
学園の図書室にも写しがあるので自由に見ることができる。
「それが全然わからないんだ。この力が使えるようになったのも今日が初めてだし。神装を纏ったのも神器を振るったのも初めてなんだよ」
「あら、貴方初めてでいらっしゃるの?それでしたら……そろそろかしら?」
雷音の視界に映るナディアは何故か歪んでいく。同時に彼の身体の自由が効かなくなる。
「な、なんだ……ぁ……」
雷音の視界は段々と暗くなっていく。そして指先にも感覚が無くなった頃、彼の意識は闇の中へ消えて行った。
・ミーン・メイの書は◯塾的なアレです。
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