対抗戦開始
対抗戦の朝。
雷音はいつも通りに起き、いつも通りに朝食を食べて、妹の繭と共に学園に向かう。
気持ちは戦場に向かうつもりで高揚していた。
緊張感と己の力がどれだけ高まったかという期待がより彼の気持ちを持ち上げていたのだ。
「お兄ちゃん、とうとう本番当日だね。調子はどう?」
「体調はバッチリだな。昨日一日休んだし身体のコンディションも悪くない」
「そっか。どう?勝てそう?」
「そればっかりは分からないな。でもやるだけのことはやったし勝ちたいっていうのが本音だな」
「正直こんな事今言うのもあれだけど……神力が使えない頃の、学園に入った時のお兄ちゃんは見てて辛かったよ。
何かね、全てに絶望しているかのようで……あ、でもね今は凄く生き生きしてるよ。
お父さんとお母さんが生きていたときみたいに……って、ごめんねいきなりこんな話しちゃって」
涙を目に溜める繭。彼女にも思うところはあった。唯一の肉親である兄の学園での評判は自身が入学してから嫌でも入ってきた。
それが元で彼女にも罵詈雑言を投げつけられたこともあった。しかし、兄に心配をかけまいと雷音に言う事はなかった。
「いや、繭の言う通りだ。あの時まで俺は周りの景色が灰色にしか見えていなかった……でも今は違う。色々としんどいことはあるけど毎日が充実しているんだ。心配かけちゃって俺の方こそごめんな」
「んーん、今日は精一杯頑張って優勝したら美味しいご飯食べよ! 勿論お兄ちゃんの手作りで」
「俺かよ! こいつめ……」
「えへへへ、って学園着いちゃったね。一年生は皆観戦するだけだから応援してるね。じゃーねー」
我ながら優しい妹だ、と繭の後ろ姿を見送りながらそう思う。
もしも繭がお嫁に行く時はお兄ちゃんは泣いてしまうかもしれない、なんて考えなければ彼はとても良い兄なのかもしれない。
「なぁに変な顔してるのよ」
「あ、ルナおはよう」
銀色の髪を靡かせながら現れたのはルナ。彼女も対抗戦に出場はするが、雷音のように気合いを入れている様な感じは特に無く、普段通りだ。
「どうせ繭ちゃんのこと考えてたんでしょ、このシスコン兄貴め」
「くっ、言い返せない……」
シスコンの気があるかもしれない、それは彼自身も思っていた。当然兄妹愛という意味でだが。
「まったくアタシのこともそれぐらい……」
「え?なんだ?」
「なんでもないわよ! それはそうと今日最後まで勝ち抜いてきてね?もしアタシと闘う事になっても手加減したら許さないわよ」
「ああ、勿論だ。決勝まで行ける様に頑張るよ」
「よし! お互い頑張りましょ! またね!」
ルナがSクラスの方へ向かうのを見送り、雷音も自分の教室へ足を進めた。教室のドアを開けるといつもと変わらない面子が揃っていた。
「雷音っちおはよー。こんな日でも来るの最後だねぇ」
「うるせぇよ、一般庶民は朝忙しいんだよ」
「この学園は身分の差は関係無いし。遅いのが悪いし」
「今日も遅刻はしてないだろ……ったく。ヴィオは全く緊張してなさそうだな?」
「まぁね〜。万年ビリっけつのあーしらが今更失うものなんてないし、気楽にやってけばいいし」
「まぁ確かにな。欲張って足下すくわれたら意味ないもんな」
「でも雷音っちはルナちゃん辺りに発破かけられたんじゃない?」
「うっ……なぜそれを」
「やっぱしねー。だってそんな顔してるもん」
女の勘は恐ろしい。彼は顔には出してないつもりだったがいとも簡単に見抜かれてしまった。
そんなやりとりをしていると教室にティナが入ってくる。
「皆揃ってるみたいね。おはようございます、とうとうこの日が来たわね。今日は皆の全てを出し切りなさい。ではさっそく会場に移動しましょうね」
会場は学園内にある、式典などを行うホールであった。全校生徒が収まるということもあり、クラス対抗戦は必ずここで行われることになっている。
対抗戦はニ、三学年のみで行われて初日は二年生のみ行われ、他の学年は観戦することになっている。
雷音達が会場に着くと既に他の生徒達は学園長の話があるまで今いる場所で待機しているように、と指示される。
「この視線はやっぱりいつもと変わらないね」
ネイルの言う視線とは他の生徒や教師から向けられる冷たい目線だ。彼らが特に何かした訳ではない、だけど力を持たない彼らはまるで異端視されてしまう。
「でもネイルの事を知ってる奴は驚くんじゃないか?」
「確かにね。まぁ普通腕なんて生えてこないしね」
「細けえこたぁいいんだよ。早く試合してぇよ。アイツら全員驚かしてやろうぜ」
「馬鹿シュウー、あーしとリンリンは神装まだ使えないんだからねー。ま、ティナセンセの言う通りにやれば最初だけは大丈夫っしょ」
「油断は大敵でござるよ。だが、気持ちの昂りは確かに抑えきれないでござるな」
五人それぞれ気合いは充分、投げつけられる視線など最早気にしていなかった。三ヶ月前の彼らからであれば萎縮してしまい、この場にいることも辛かっただろう。
そんな外野など気にしない彼らの視線は会場の中央に向いていた。
そこには試合をする為の正方形の舞台があり、そこで生徒達の闘いが繰り広げられるのだ。
舞台は見えない壁で囲われており、入場口からしか入れない事になっている。
対戦方式は基本的には代表者五人ずつの一対一での闘いになる。
試合の勝敗は片方が気を失うか敗北を認めるかだ。
しかし神力を使い、神装を纏った者が全力で闘えば怪我だけでは済まない。
それ故に舞台上には特殊な装置が仕込まれており、その装置の範囲内で闘えばダメージを肩代わりしてくれる。
なので実際にダメージを受ける訳では無い為に実際に死ぬ事も怪我をする事もない。
ただしダメージは受けないが痛みはそのまま身体に伝わってしまう。
例えば斬られたり刺されたりすればダイレクトにその痛みが伝わる。しかも血が流れたり傷口もリアルに再現する仕組みだ。
その痛みで気を失ってしまう様なことが有ればそこで試合終了ということもあり得る。
「しかしあんな装置どうやって作ってやがるんだ?普通に考えりゃ凄え技術だよなぁ」
「ああ、あれなら……」
「知ってるのか雷音?」
「あれは昔、鍛治神という守護を持つ人が中心になって作られたってミーンメイの書に書いてあったのを見たな。現在でも生活で使うものはその守護を持つ人が作ってるって話だ」
「出たな図書館の帝王め。よく知ってやがるこった。オレは本嫌いだからなぁ」
「あはは、シュウの勉強嫌いは筋金入りだからな。本も読まなくて当然だな」
「うっせぇよ! そういえば去年雷音は対抗戦見てなかったんだよな?」
「ああ、俺があの時は繭が風邪をひいて寝込んでたから学校休んじゃったんだよな。話聞く限りでは会長が無双したと言う噂だが。……って始まるみたいだな」
雷音とシュウが雑談をしていると会場の照明が落ち、低めの男性の声が彼らの耳に入ってくる。
『えー、こほん。皆さんおはようございます。今日は年に一度の学年別対抗戦です。日頃の成果を出し切り精一杯頑張ってください。期待していますよ』
壇上に立ち拡声器を使って挨拶をしたのは、白い長髪に眼鏡をかけた理知的な顔立ちの学園長であった。
「っ!?」
何故か最後、雷音は学園長と目があった。
恐らくは偶然であり、Eクラス制度を作った当人がまさか自分達に期待することはないだろうと思い至った。
「では二年生の部の本日一回戦を始めます。まずはDクラス対Cクラスです。代表者五人は舞台に上がってください」
早速最初の試合は始まった。
DクラスとCクラスの試合の舞台上には以前雷音達Eクラスの生徒達に直接危害を加えていた連中もいた。
「おい雷音……」
「分かってるよ。でも不思議だよな。あんなにびびって手も足も出なかったのに今じゃなんとも思わないよ」
「同感だな。つーか、あいつら神装纏っているけどよ……」
「ま、実際闘ってみればわかるさ」
試合はCクラスが勝った。意外にも接戦であり、ニ対三という大将戦まで勝敗が持ち込まれた。
ただこの試合の内容に雷音達Eクラス全員が驚いていたということは誰も知らなかった。
その後、AクラスとBクラスの試合が始まり、今度はAクラスの圧勝で試合が終わった。
そしていよいよEクラスの出番がやってくる。
「さあ皆出番よ。今までやってきたことを思い出して思う存分闘ってきなさい」
そう鼓舞するのはEクラスの臨時担任のティナだ。
全員緊張はしておらず、むしろ余裕の表情だ。
そんな五人が舞台に上がると周りから嘲笑と侮蔑の声が聞こえてくる
「おいおい本当にEクラスの奴等出るのかよ」
「うっわー恥掻きに来たのかよ。アイツら神力にも目覚めてないんだろ?」
「おい、引っ込めよ!雑魚はここに来るな!」
会場を見渡しても全学年から罵声が飛んでくる。おまけに教師達も嘲笑っていた。
しかしこんな事にも彼らは慣れている。
むしろ心境的には逆に期待されるよりマシだと思っているぐらいだ。
「それではルールの説明です。自分の神力で作った物であれば武器の使用も相手の急所を狙うのも問題ありません。ただし試合開始の合図まで神装を纏うことも神力を使うことも禁止します」
つまり試合開始の合図が有れば何でもありというルールである。
「勝敗は降参、気絶した時点で決まります。そして先に三勝した時点でそのクラスの勝ちとしますが、クラスの勝敗が決まっても全員闘ってもらいます。……それとEクラスは辞退しなくても大丈夫でしょうか?今ならまだ間に合いますが」
「結構よ。ね、みんな?」
「「「「「はい!」」」」」
「分かりました……後悔しないでくださいね」
審判はEクラスを侮蔑してのことなのか、心配して言ったかは分からないが、ティナが強く睨んでいるのを見れば恐らく前者であろう。
ほどなくして先鋒が舞台に上がる様に指示される。既にEクラスは出順は決まっていた。
「頼んだぞヴィオ」
「まぁ相手もあーしらが相手で油断してそうだしなんとかなるでしょ。いってきー」
Eクラスはヴィオが一番手である。肩を鳴らしながら恐れることは無いといわんばかりに舞台の上に上がっていく。
すると既にCクラスの先鋒は既に舞台上にいた。
「はっ!Eクラスでしかも女かよ。手ぇ抜いてもこいつは勝てるな」
「………」
「なんだよ、黙りやがって。Eクラスらしく陰気なもんだな!」
Cクラスの男はいかにも格下を見下すタイプの男だった。先程の試合で使っていたのは長剣であり、試合後すぐに神装は纏わず、格下相手に舐めてかかっていた。
そんな相手を見てヴィオは思わず溜息を吐いた。
お互い向かい合うと中央に審判が立ち手を挙げる。
「では先鋒戦を始めます。お互い準備はいいですね?始め!」
審判が手を下ろすと試合開始の合図が言い渡される。
同時にヴィオの神力が一瞬で高まった。
「ほらよ、色黒女かかってこ………ひっ!?」
次の瞬間、Cクラスの男は間合いをすぐに詰めたヴィオの拳で顔を殴られ、その勢いで後方に吹き飛ばされそのまま立ち上がることはなかった。
「……………」
先程迄の罵声が嘘の様に静まり、皆目を丸くして舞台上を見ていた。
「き、汚えぞ!不意打ちなんて反則だろうが!」
「そうだそうだ!最低だEクラス!」
「もう退場させちまえ!」
一人の声がきっかけでまたしても会場は喧騒に包まれた。
そして壇上にいる審判は未だ勝ち名乗りを上げず呆然としていた。
「ねー審判のセンセ、あーしの勝ちじゃないの?」
「あ、いえ……でも……」
審判が中々勝敗を言わないでいると顔を真っ赤にさせたCクラスの担任が審判に向かって怒声を放った。
「おい! あんなの卑怯だろうが! こんなの無効、いやEクラス全員連帯責任で反則負けだ! さっさと退場させろ!」
「で、でもルール上は……」
「黙れ! あんな不正を認めるのか貴様は!」
更に顔を真っ赤にさせるCクラスの教師だが、そこにその場を凍らせるような冷たい声が入る。
「何をいってるのかしら。この子のやったことは至極まともなことですよ。教師だというのにルールも分からないのですか?」
「ティ、ティナ先生?だがこれは卑怯だぞ?こんなこと生徒に学ばせて良いと思ってるのか?」
「面白い事言いますね。そもそもCクラスさんが格下のEクラスの不意打ちも防げないんですか?いえ、そもそもそれぐらいの技量を持たせられない、とてもとても優秀な担任の教師様に問題があるのかしら?」
「な、なんだと? 貴様保険医の癖に……ひっ!?」
ティナから放たれる威圧感にCクラスの教師は声を上げることが出来ない。
それどころか自然に足が下がってしまう。
『あははは、ティナ……じゃないやティナ先生もうやめてあげなよ』
割って入ってきたのは学園長の声だった。
その声色はとても愉快そうだ。
「が、学園長からもこの落ちこぼれ共と礼儀も知らないただの保険医に言ってやってください!」
『あぁ、そうだね』
Cクラスの担任は下卑た笑顔を浮かべる。その表情は自分は絶対に間違っていない、間違っているのはEクラス。さぁ、学園長彼らを早く裁けと期待を込めていた。
『この勝負はそっちの女の子の勝ちだよ』
「はぁ!?」
彼は信じられなかった。何故Eクラスを作った本人が彼らの味方をするのか。
『当たり前だよ?ルール上問題無いしね。問題があるならばティナ先生の言った通りかな。知ってるよね、生徒達は卒業後にどうなるか。君だって知っているはずだよ?それが卑怯だなんだ通じる世界じゃないって知ってるよね』
「は、はい……ですが……彼らはEクラスですよ?Cクラスである私の教え子達が負けるなんてあり得ません。不正をしてるに違いません!」
「はぁ。ねぇ、仮に彼らが不正をしていてたとしてもだよ、生きるか死ぬかの世界でそんなこと言えるのかな?それに君にはその不正とやらはわかるのかい?」
「それは……」
「だろう?じゃあこれで解決だね。じゃあ審判、どうぞ」
「せ、先鋒Eクラスの勝ちです」
再び静まり返る会場。
この学園の最高権力者である学園長の言葉だ、誰も否定できないだろう。
それでもひそひそとEクラスを否定する声は聞こえてくる。
が、近くでその声を掻き消すような大きな笑い声とヴィオを称賛する声も聞こえてくる。
「グハハハハ!やるじゃねぇか! 面白えことしやがりやがって。大体よぉ、負ける奴が悪いんだよ。不意打ちにも対処できねぇなんざ雑魚以下だぜ」
「そうそう、兄貴の言う通りだぜ。雑魚すぎるぜ。大体馬鹿にしてる奴らはEクラスの奴に勝てんのかよ、ダッセェなぁ」
「こ、こら! 駄目よ二人共……本当のこと言ったらあの粗相をなさった情けない方にも失礼ですよ! お辞めなさい!」
舞台の隅、ヴィオに吹き飛ばされた男のズボンをよく見ると濡れており、嗅ぎたくもない臭いが漂っている。言わなければ気付かれはしなかったかもしれない。
「「姉貴が一番ひでぇよ……」」
試合を観ていた顔立ちがよく似ているあ三人はEクラスを否定することはなかった。しかしCクラスの連中を煽るには効果的面だったようで教師も生徒も顔を真っ赤にしていた。
「なんだあれ?知ってるか雷音?」
「あれはA組の連中だよシュウ。確か三つ子の姉弟で……異名は確か『三獣死』って付いてたな」
「つか本当お前詳しいよなぁ。しかし『三獣死』って誰が付けたんだ……」
「それは知らないけどルナに教えてもらったんだよ。でもさっきの試合見た感じじゃ全然本気出してない感じだったな」
「ま、実際闘ってみないとわかんねぇよな。お、ヴィオが戻ってきたぜ」
雷音が正面を向くと舞台からヴィオが笑顔を振りまきながら降りてくる。
足取りの軽さから相当嬉しかったに違いない
「いぇ〜い!まず一勝! リンリン次頑張ってね!」
「見事でござったぞヴィオ殿。流石に某の時には油断はしてくれぬだろうが……全力を尽くすまでだ」
次はリンの番だ。
彼女は静かに、かつ真剣な表情舞台へ向かって歩みを進めていった。その姿には一切の邪念は感じられない。
「では次鋒前へ。では、始め!!」
試合開始と共にリンは神力を手に集めると刀を錬成する。
対してCクラスの次鋒である女子は神装を纏う。
神装を纏わない者が纏った者と闘えば流石に分が悪い、そう考えつつもリンは臆すことなく飛び出していった。
「はぁ!」
右足に力を入れて踏み込み、刀を一閃袈裟斬りにすると相手はなす術もなく糸の切れた人形の様に倒れてしまった。
「え……あ、次鋒Eクラスの勝ち!」
審判が戸惑いながら勝敗を告げても今度は文句の声も上がらなくなった。それはそうだろう、今回はCクラスの生徒も神装を纏っていた。しかも不意打ちではないし油断もしていなかった。
「馬鹿な……私の生徒達が……しかも神装を纏ってもいないというのに」
髪を掻きむしりながらCクラスの教師は怒りを更に増していた。既に二敗、もう後がないのだ。
Eクラスなんかに負けたら……そんな焦りから次に試合に出るであろう生徒に圧をかけていた。
そんな者達を背にしてリンも舞台から降りていった。若干不満そうな表情を浮かべて。
「お疲れ様。見事な一撃だったよ。でもなんか微妙な感じ?」
「いや、勝ったのは嬉しいのでござるが……正直簡単に勝ってしまって拍子抜けしているのでござるよ」
リンは決して油断はしない。
相手の力量も試合を見ただけでは分からない。
「そりゃあそうさ、境界の向こう側で戦った相手に比べたら彼らは緩そうだもんね。じゃ、僕も行ってくるよ」
続けて中堅戦、ネイルが舞台に上がると全体からひそひそと話す声が聞こえてくる。
「アイツ目と腕があるぞ?どうなってんだ?」
「義眼と義手だろ?」
「いやどう見ても本物にしか見えないぞ」
「てか格好よくない?私達のクラスの男共なんて話にならないじゃん」
ネイルの容姿はEクラスの中でも特に悪い意味でも良い意味でも見た目の面で一番目立っていた。そんな男がいきなり五体満足で舞台に上がったのだ。驚かれて当然だろう。
「では中堅戦、始め!」
試合は始まるがお互い一歩も動かない。
どうやら前二人よりは慎重に試合を進めたいようでネイルを凝視していた。
「お前は不意打ちして来ないんだな。身構えて損したぜ。取り敢えずこっから三勝させてもらうから覚悟しろよ。どんなトリック使ったのか知らないが俺には通じないぜ」
トリックと言う言葉が出てネイルは内心溜息を吐いた。先程の試合を見て何故そんなことを思えるのだろうかと。
「ふぅ……それは無理だと思うよ。あ、君はCクラスで一番強いでしょ?恐らく大将だったんだろう?それが君達の担任の先生から急遽変えられたんでしょ。大変だねぇ、同情するよ」
「ぐっ……うるせぇ! どっちにしてもお前はここで終わりだよ、神装光臨!」
C組の中堅が黒い神装を纏う。一対の黒い翼に軽装に近い軽鎧。名乗りを上げないことから名無しなのだろう。
「この俺が神装纏えばたかがEクラスのお前に勝ち目は無い! ぶっ殺してやるよ!」
「ぶっ殺すって……この舞台じゃ無理だよ?話聞いてたかな?」
「うるせぇー!!」
C組の中堅は錬成した剣を振りかぶり、力任せに斬り込んで行くがネイルはそれを流暢に避けていく。
「ねぇ、本気かい?神装纏っているんだよね?」
「黙れ黙れ黙れ!」
怒りに任せてネイルを狙うがその剣は決してネイルに届く事はない。明らかにハイペースでCクラスの中堅は息が上がっていく。
「ネイルのやつ煽るなぁ。涼しい顔して……シュウだったらもうブチキレてるよな」
「ああん!? 雷音、オレがそんなんでキレるわけねぇだろうが!」
「いや、もうキレてんじゃん」
「確かに」
「馬鹿シュウだしねー」
「くっ……」
「それにしてもネイル攻めていかないな。相手はもう動くのも辛そうだ」
舞台の上ではCクラスの中堅が必死にネイルに一撃当てようとしているが当たる気配は未だに無い。
「どうする?降参するかい?」
「ぐっ……負けてたまるかぁ!」
渾身の力を込めてネイルに近づき全力で剣を振るうが、虚しくも剣は空を切っただけだった。
「素直に降参しとけば良かったのにね。僕もいくよ、神装光臨」
舞台から放たれる眩い光。
より強い神力を持つ者程、神装を纏う時の輝きは強くなる。
これはトリックでも何でもない、強者の証。
「闇を切り裂く光はこの手の中に……剣神のネイル!」
神装を纏ったネイルの姿に会場は騒然となった。
落ちこぼれの集まったEクラスなのに何故名有りの神装を纏う事が出来ているのか。
「な、なんだと!? 馬鹿なEクラスで神装を纏う奴は一人だけって聞いたのに……」
「僕達の先生の指導の賜物でね。まぁ君達の先生の方がプライドが高くて生徒に高圧的に接するとてもとても優秀な先生なんだろうけどね」
ネイルはCクラスの担任を睨めつけながらそう言った。
ヴィオの試合終了後、相手の担任がティナのことを侮辱する言葉を放ったのが彼の耳に焼き付いていた。
彼は自分の仲間や恩人を馬鹿にされる事を良しとしない。かつては力が無く、何も出来なかった。だが今は違う。
今は抗う力がある。零では無く、一以上の力がある。零でなければ――何かは出来るのだ。
だからこれは先程までの試合運びのためにわざと煽っていたこととは違う。
これは彼なりの報復だ。
だから神装を纏わなくても倒せる相手なのにわざわざ神装を纏ったのは自分達の存在を知らしめる為に、自分達の先生の名誉の為に。
「ただ同情はしないよ?君がその程度なのは自分で努力してない証拠なんだから」
ネイルは至高の聖剣と煌堕の魔剣を手に、一気に相手に近づいて十字に斬り裂いた。
動かなくなった相手を審判が確認すると勝ち名乗りが上がる
「勝者Eクラス! よってこの試合三勝したEクラスの勝ちです!」
ネイルの勝利のEクラスの勝ちが確定した。
雷音の横ではヴィオとシュウが手を合わせて喜び、リンは一人うんうん、と頷いていた。
「ふぅ、ちょっと力入れすぎちゃった。大丈夫かな彼」
「お疲れでござるネイル殿。あそこまで毒を吐いておいて相手を気遣っても説得力がないでござるよ」
「はは、これは手厳しいね。兎にも角にも勝てて良かったよ」
ずっと馬鹿にされていた彼らが勝てたことの喜びはとても大きかった。場所が違えば涙を流して喜んでいたかもしれない。
「っしゃあ! じゃああとはオレと雷音の試合だな。全勝しようぜ!」
「油断はするなよ。だけど勝ちに行くのは賛成だ。やってやろうぜ」
クラスの勝敗が決まっても、この試合は個人の勝敗が決まるまで行われる。
雷音とシュウの相手はかつてEクラスの生徒に危害を加えていた者達だ。そんな者達を相手にするのに二人は手を抜くことはなく、むしろ全力で向かっていき見事に勝利した。
倒されたCクラスの生徒は二人とも気を失い、プライドと優越感を失ったことだろう。
かくして落ちこぼれと言われたEクラスはCクラスに対して圧勝したのであった。




