対抗戦前
クラス対抗戦まであと二日前まで迫った。前日は身体を休めると言うことで今日が最後の訓練日である。
「皆さん今日が対抗戦前の最後の訓練です。この二ヶ月間よく頑張りました。明日の組み合わせですが、トーナメント方式になります。まずDクラスとCクラス、その勝者がEクラスと戦います。その後はAクラス対Bクラス、次に勝った組同士で戦いたい、さらにその勝者がSクラスと戦います。」
「えー、Sクラスだけズルいしー。運良く一回勝てても次はAかBとかマジキツいし!」
「大丈夫よ。D、Cクラスはハッキリ言って烏合の衆と言ってもいいわ。一回戦は今の貴方達であれば問題無いわ」
烏合の衆などと、教師という立場上そんなことを言うのは間違いなく拙いだろう。
おまけに問題無いとはいうが神力の扱いはEクラスの生徒よりら間違いなく長いはずである。故にティナが簡単に勝てるような言い方をしてしまうことに生徒達は逆に戸惑ってしまう。
「だからあなた達は相手がA・Sクラスになってからが本番よ?」
「AクラスSクラス相手かぁ……神装を纏えないあーしじゃなんの役にも立たないかな……」
「前にも言ったでしょう?可能性を否定しなければ可能性はあるって。諦めたらそこで終わりよ」
「……しかし某にも守護は顕現しなかったでござる。これまで沢山の努力をしてきた自負だってある。だが……やはり才能には勝てないのではないのでござろうか」
ヴィオとリンはやはり暗い顔をしていた。
結局最後まで彼女達は神装を纏うことができなかった。
だけどそんな落ち込んでいる彼女達にティナは優しく微笑んだ。
「あのね、先生も昔は一番下のクラスだったの。それもクラスの中でも一番下」
「えっ?」
「昔はEクラスは無かったけど先生は皆と同じ歳まで守護を顕現するどころか神力も使えなかったの」
「それってあーし達と同じ……」
「そうよ。でもね先生こう見えても負けず嫌いでね。周りの人達からは凄く馬鹿にされていたし虐められてた……少し前の貴方達と同じぐらいね。おまけに私達の世代は才能がある子が多くて……とても惨めだった。
だから死ぬほど努力したの。それこそ血反吐を吐くぐらいね。負けたくない、負けたくない、って思って……諦めたくなかったの、自分自身の可能性をね。
そうしたらやっと神力が使えるようになって守護が顕現したの。そうね、あれは三年生になる直前ね」
「三年生になる直前って……あーし達よりも遅かったなんて……信じられないし」
「あらあら本当よ?信じられないならウルス先生に聞いてみなさい。とにかくまだまだ貴女達は伸び代もあるし自分を信じて頑張りなさい」
「ティナ先生……某ももっと強くなれるでござろうか……?」
「当たり前よ。私が保証するわ。だがらリンさんももっともっと頑張りましょうね」
「はい……」
ティナのかけた言葉は二人の目に光を宿した。
同じ様な境遇を経験した者の言葉だから余計に信じることができたのだろう。
「っしゃ! 湿っぽい話は終わりにしてさっさと始めようぜ!明後日はオレ様の力を見せつけてやるぜ!」
「あらあら、気が早いのはいいけど気合入れ過ぎて滑らないようにね」
「馬鹿シュウは阿保だし滑って転んで頭割りそうだしー」
「それは馬鹿なのか阿保なのか気になる所だね」
「ネールは細かいこと気にしないし!ちなみに両方だし!」
「ヴィオ……テメェ喧嘩売ってんのか?」
「売ってないし。てか弱い乙女にいう言葉じゃないし」
「か弱い?筋肉貧乳の間違いだろ?」
「馬鹿シュウコロスコロスブッコワス!」
瞬間、必殺の右がシュウの鳩尾に思いっきり突き刺さった。シュウの身体は宙に浮かび上がるほどの打撃だった。
「この……怪力馬鹿が……」
「馬鹿はシュウだし! べぇーだ!」
こんな光景は本来なら日常茶飯事である。
だがここ一ヶ月は強くなる一心で自己研鑽に励む一方で、悪ふざけをする余裕もなかった。
「ははは、久しぶりにこんなシュウの姿見たな」
「ふふふ、ほんとだねぇ。潰れた蛙みたいになってるよ」
久々に教室内に笑い声が木霊する。
対抗戦前の緊張した雰囲気をシュウとヴィオの二人はいい意味で壊してくれたようだ
「そろそろ皆落ち着いてきたかしら?試合前最後の訓練の前に少しお話ししておきます。
神装や神器のことは皆さんわかっていると思いますが、相手が神理を使う場合は気をつけてください」
「なぁティナ先生、オレいまいち神理がなんだかよくわかんねぇんだけど」
「シュウ君、貴方の神装は黒い炎を生み出すし、神器は炎の大剣よね。もしもの話だけどシュウ君の守護が他の人に顕現してもその能力は使えるわ。己で研鑽した技なんかはまた別だけどね。
でも神理というものは己自身の資質によるものなの。だからどんな能力かはわからないのよ」
「神理、か……」
雷音は初めて神装を纏った日を思い出していた。
そう、ある意味彼が神装を纏うきっかけとなった人物――Sクラスのウォードのことを。
ウォードは勇敢なる奴隷なる神理を使っていた。
その能力はウォードに隷属化した者の能力を強化させ、更には契約者の数だけウォード自身の能力を上げる力だという。
その証拠にウォードの周りの者はルナ曰く、Dクラスとは思えない程の強さであった。ただウォード自身の本来の力はわからないし、あの時彼が全力であったかは分からない。
「そういえばティナセンセは使えないのー?治癒能力とかは神理じゃないの?」
「残念ながら違うわよ。治癒能力自体珍しいものだけどこれは私の守護の持つ能力よ。私は神理は使えないし、逆に使える一人の方が少ないわよ」
「へー、そうなんだ。あーしはてっきりティナセンセの治癒は神理だと思ってた。いーなー、あーしも使いたいし」
「ヴィオさんはまず基礎能力からね。神装を纏えてから考えましょうね」
「はーい」
少しいじけ気味のヴィオだが、ここ一ヶ月基礎の大切さをその身をもってティナに鍛えられたが故に素直に返事をするという選択しかなかった。
「そうそう、もしかしたら雷崋君は既に神理が使えているかも知れないわね」
「え?」
どういうことだ、と思ったが彼自身思い当たることは一つあった。神装を纏った最初の日から使えたのであまり気にも留めなかったことだが。
「貴方は別の守護が持つ神器を使っているでしょう?普通ならそんなこと有り得ないのよ。だからそれは神理を使っているということなのかもしれないわね」
「これが神理……」
確かに雷音も自分が何故粉砕する雷槌を使えるのかわからない。しかし自身の神理が、他の守護の神器を使えると考えれば納得できた。
「あくまでその可能性があるって考えておきなさい。じゃあお話しはそろそろおしまいにしましょう。今日で最後、訓練始めましょう」
「「「「「はい!!」」」」」
対抗戦前の最後の訓練とはいえ身体がボロボロになるまでやることをやった。ティナが全員を治療し、後は身体を休ませることが彼らに残された課題であった。
この三ヶ月は彼らを変えるような出来事が連続であった。
神力を行使出来る様になり、境界の向こう側で死にかけ、その後はティナとの地獄の訓練。
でも、彼らの心は折れなかった。
明後日はこの三ヶ月で得たものを全て出すだけ。
落ちこぼれのEクラスと呼ばれた彼らが彼らを見下した者達を見返す為に。




