再び日常的に
雷音達が退院した次の日の朝。
Eクラスの教室はいつものように皆休む事なく登校していた。
ただし雷音はやはり遅刻ギリギリ、いつも通り五人中五番目の登校になった。
教室に入り一番最初に目に入るのは廊下側の席にいたネイルだった。
「おはよう」
「おはよう雷音。身体の具合はどう?」
「昨日の今日でいきなり体調変わらないよ。ネイルはどうだ?」
生まれつき右目右腕が欠損していたネイルは先日守護が顕現し、神装を纏う彼の右手には義手代わりの神器、右目には魔眼があった。
不思議な事に、何故か神装を解いた時に、欠損している筈の右腕と右目があったのだ。
しかしいきなりのことに身体のバランス等が取り辛いのではないかと心配をしていた。
「僕の身体なら大丈夫だよ。むしろ前よりも調子がいいぐらいだよ」
そう言ってネイルは右手を何回か握る仕草をする。慣れてはいないものの大丈夫そうだ。
「それなら良かった。シュウとヴィオとリンは……いつも通りだな」
教室の中ではシュウとヴィオがお互い騒がしく怒鳴り合い、リンは目を閉じて座っていた
「てかさ、気になってる事があるんだけどウルス先生入院中だろ。誰が代わりをやるんだろうな?」
「僕もそれは気になってたんだよね。でも短期間とはいえ、僕らの担任になってくれる先生いるのかな?」
嫌われているEクラス、それは生徒だけではなく教師からもだった。雷音達が他の生徒から暴行を受けたりしているのは周知の事実だったが、その現場を見ても気にせずに通り過ぎる教師も少なくはなかった。
「おうおう何朝から暗ぇ顔してんだよ二人共よぉ」
「ああシュウおはよう。いやさ、担任誰になるかってさ。それにクラス対抗戦までも時間ないだろ?」
「俺達嫌われてんもんなぁ。まぁ対抗戦は俺ら神装纏えたしなんとかはなるんじゃ……ぐぇっっっ!」
突如横から飛び蹴りを喰らい吹っ飛んでいくシュウ。教室の壁に穴が空きそうなぐらい強烈に打ち付けられ、潰れた虫の様になっていた。
「馬鹿シュウ〜……あーし達に喧嘩売ってんの?」
「シュウ殿の嫌みにも程にあるでござる」
襲撃犯は勿論ヴィオ。
だがこれは間違いなくシュウが悪いだろう。
ヴィオとリンは未だに神装を纏えないのだから。
「あ、いや、そういう意味じゃ……」
シュウの迂闊な発言に雷音はついつい額を手で押さえてしまう。相も変わらず空気を読めない奴だ、と。
「はいはい、授業を始めるわよ」
ヴィオとミンにシュウが迫られていると突然教室の扉が開かれウルスの代理と思われる教師がEクラスに入ってくる。
全員顔見知りの美しい女性だ。
「あれー?ティナセンセがあーしらのセンセなの?」
「そうよ。皆さんも分かってるだろうけど他の先生は忙しいらしくてね。その為に私がウルス先生の代わりに教壇に立つのよ」
「く、クソ共って……」
「本来ならこの学園は皆平等を謳っているの。それなのに見本となるべき大人達がそれを破ったらクソ以外の何者でもないでしょ?」
差別をしないという意味ではティナは信用出来るのは間違いないだろう。
但し……絶対に怒らせてはならない。
このクラスの全員が本能で感じ取った。
「こほん。少し言葉が汚くてなってしまったわね。ウルス先生が退院するまでの間だけどみんなよろしくね。
ところでウルス先生が他の先生からの喧嘩を買って貴方達を対抗戦に出すって話だけど……」
「取りやめ、ですか?」
「逆よ。出るからにはSクラスに勝ちなさい。落ちこぼれだと馬鹿にする奴らの鼻を明かしてやりなさい」
「「「「「えー!?」」」」」
「私が教えるからには勝ちなさい」
「でもあーし守護ないし……」
「それがどうしたの。守護が顕現してないから負けるなんて思っているから勝てないの。神力が使えるなら神力鍛えることはできるわ」
「でも……」
「それにヴィオレットさんとリンさんだって可能性が無いわけじゃない。いい?可能性を否定しなければ幾らでも可能性はあるの。それは他人じゃない、貴女達が決めることなの」
真摯な眼差しでヴィオとリンを見つめるティナの言葉には偽りなど無かった。
「分かった……あーし頑張るし!」
「某もでござる」
「ふふ、頑張りなさい。さぁ授業を始めましょう。学生の本分として座学も頑張りましょうね。授業の最後にテストもしますけど点数酷い人は放課後補習ですからね」
真剣な表情から一転、ヴィオ、そしてシュウの額からはだらだらと汗が流れていく。
ウルスはそこの所は教師とは思えないほど緩かったがティナはそう甘くは無いようだ。
――――
「じゃあシュウもヴィオも頑張ってな」
「座学も頑張るのでござる」
「じゃあね。分からないことがあったら僕も今度教えるから」
恨みがましい二人の目線を逸らしつつ他の三人はは先に帰宅した。
補習を受けるのは自業自得であるので彼らにはどうすることも出来ない。
むしろしっかり勉強してこいと思っているぐらいである。
学校を後にし、一人寮へと向かう雷音。
今日は放課後サンとの特訓はせずに帰路に就くことにした。というのもサンが聖徒会の仕事が溜まっていること、訓練所を押さえてなかったということだ。
そして雷音自身がガタガタである。
約二ヶ月後に対抗戦が控えているから当然訓練は必要なのだが……想像以上にティナがスパルタだった。
まず基礎体力の向上の為の運動を限界ギリギリまで行い、その後は神装を纏わない状態のティナとの手合わせだ。
ティナは美人でスタイルも良く、最初シュウが鼻の下を伸ばして向かって行ったのだがゴミ屑の様にのされてしまった。
ティナもチェルシーの様に実戦の中でこそ神力の強化に繋がると考える為に、格下の相手だろうが手加減はしない。
全員がコテンパンにのされた後、終わりかと思えば強制的に回復させられ、神装を纏ったティナとの再度の手合わせが始まった。そしてまたコテンパンにのされては回復させられ……のループをティナの神力が尽きるまで実行、全てが終わる頃には全員肉体的にも精神的にもボロボロになってしまったのだ。
そんな中で補習をする二人には同情するしかない。
足が重く感じ、いつもよりも寮が遠く感じられる。
やっとのことで着き家の扉を開くとカチャカチャと音が聞こえてくる。台所の扉を開くとそこにはいつも通り彼の妹の繭の姿があり、弁当箱を洗っていた。
「ただいま」
「おかえりお兄ちゃん。お弁当箱洗うから出して。っていうか顔が物凄く疲れてるんだけど?」
「ああ、今日から臨時の担任がティナ先生でな……」
「ティナ先生って保健室の先生だよね?へー、あんな美人の先生じゃ直視してるだけで疲れちゃうでしょ」
「……お前も教わるといいよ。少し寝るからご飯の時に起こしてくれ」
「もうしょうがないなあ。ちゃんと起きてよ?」
「ああ、わかった」
普段は雷音が食事を作るのだが、退院してすぐということもあり、今日は前もって繭に交換してもらうように頼んであった。
念の為だったが、疲れ具合を考えるとそれは正解だったようだ。
「ふぅ……」
ベッドの上にゆっくりと倒れ込む。
そして先のことを考えた。
一日一日頑張らなければSクラスの者達に対抗できないだろう。
「少しでも……強くならなきゃ……」
身体が軽くなる様な感覚と共に意識が薄れていく。どうやら眠気には抗えないようだ。
「お兄ちゃ〜ん、ってもう寝ちゃったのか」
(今日はルナお姉ちゃん来ないみたいだね。昨日はお兄ちゃんが病院から帰ってくる二時間前から来てたの知ってるのかな?まったく……婚約してなくても恋人ならいいと思うんだけどなぁ……)
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