終結
「ちーっす!ティナちゃん久しぶりぃ!元気してたぁ?」
「……相変わらずねビュー。とりあえず三人を降ろしなさい」
「わぁーん、態度つーめーたーいー。学生時代はラブラブだったじゃん俺ちゃん達」
「貴方達とは喧嘩してた記憶しかないのだけれど……でもありがとう、ウルスもチェルシーも雷音君も生きてるわね」
桃太郎から三人を連れて戻ってきた黒き翼を生やした神装を纏うビュート。彼こそがティナの言っていた助っ人であった。
「それにしてもウルスは酷いわね……身体の中までズタズタじゃない。あの力は使うなって言われてたのに。はぁ……今日は神力が尽きちゃうかもしれないわ」
「その時は俺ちゃんが抱っこして運んであげるから安心してよ」
「……ここまで安心できない人もそういないわね。さぁ治すわよ」
ティナの見る限りではチェルシーと雷音の怪我は特に問題は無い。神力を使い果たして気を失っていて骨折や大小裂傷はあるが生命に別状は無い。
しかしウルスだけは別だ。桃太郎との死闘の中で受けたと思われる切り傷や、己の技により筋繊維がズタボロになるほどのダメージを受けている。口から吐血しているところを見ると内臓にもダメージがあるのだろう。
「癒しの風よ……生命を癒せ」
ティナからウルスの身体に流れていく。外傷はみるみるうちに塞がっていくが、身体の内部はそうもいかず、ティナは暫く力を注ぎ込んでいた。
「ふぅ……これで大丈夫……とはいかないわね。暫くは入院してもらって……私のリハビリ受けてもらおうかしら……うふふ……」
艶かしい笑みは背筋を震えさせるような怖さをも感じさせた。それは普段は見せない素顔でもあった。
「うっわぁー、ティナちゃんの笑顔怖ぁーい。俺ちゃんチビっちゃうしー」
「ふぅ、はぁ……、冗談ばっかり言ってると昔みたいに刻むわよ?とりあえず応急処置も終わったし帰りましょう。ディーン君、ウルスの事背負ってもらえる?」
「任された。そこの男はどうする?」
「ネイル君ね。彼は今日一日目を覚まさないと思うし……シュウ君頼める?」
「あぁ、オレが背負ってくぜ。そんくらいはできらぁ。雷音とチェルシーさんはどうすんだ?」
「雷音はアタシに任せて」
「ではチェルシー殿は某が」
気を失ったままのネイルはシュウ、雷音はルナ、チェルシーはリンが各々背負っていくことになり、境界の向こう側……自分達が住む領域へと進み始めた。
「つかヴィオの馬鹿力で全員運べんじゃねぇか……ってお前何でそんな遠くでコソコソしてんだよ?」
シュウに話しかけられると、ビクッと身体を揺らすヴィオ。いつもなら話の輪に割って入ってくる様な彼女だが、今は隅の方で大人しくなっていた。
「べ、べ、別にぃー?ちょっと調子が悪いだけだしぃ……」
会話も何処かぎこちなく、何かを気にしているのは誰が見てもバレバレである。
「変なヤツ。あ、そうだティナ先生、雷音達を連れて来てくれたのって……」
「そういえば紹介してなかったわね。この人は境界周辺で警備にあたってるビュートよ。七大罪っていうチームを組んでて、第一印象は最悪だけど実力は確かよ。それに私やウルスの同級生なのよ」
「はぁい、俺ちゃんがビュートでぇーす! シクヨロ〜。ってかティナちゃん毒舌ぅう!」
額の上でピースサインを作りながら舌を出して挨拶をする姿に全員何とも言えない空気が漂った。明らかにチャラい奴だ、と。
「そういえば普段は私達が呼んでも来てくれないのに今日は珍しく応じてくれたわね」
「まぁねぇ、今日は会いたい子がいたからねぇ。なぁ、ヴィオちゃーん」
全員ヴィオに注目がいくがヴィオは顔から大量の汗を流し、露骨なまでに顔を逸らす。
「ダ、ダレノコトデショウカ?ワタシハヴィオナンテオナマエデハ……」
突然片言になりビュートとは一切目を合わそうとしないヴィオ。その挙動は非常に不審極まりない。
「えー、ヴィオちゃん悲しい事言うなしぃ〜、お兄様は悲しんじゃうぞぉ!」
「「お兄ちゃん!?」」
「う、うぅ……」
「ヴィオちゃん、小さい頃はお兄様大好きって言ってたじゃんよ?反抗期ぃ?」
「わーわー! 知らないし! そんなの知らないし!てかなんで兄上がここにいるんだし!?」
「俺は軍の人間だぜ?ここら辺は俺の庭も同然、可愛い妹の為なら地の果てまでってな。だけど来て良かったぜ、ヴィオちゃんどころかウっちゃんまでヤバかったしな」
「「「ウっちゃん?」」」
「あら、貴方達知らなかったのかしら?ウルス先生はね、学生時代から仲の良い人達からはウっちゃんって呼ばれてるのよ」
「に、似合わねぇ〜。ウっさんってよりはオッさんじゃねぇか」
気を失っていたから良かったものの、ウルスが聞いたらショックを受けたに違いない。
しかもここには同い年のティナもいるわけで。
「シュウ君、今度怪我をしたら念入りに手当してあげるからね。うふふ」
「え……あ、ああ……はぃ……」
絶対零度の微笑みはシュウを完全に萎縮させた。地雷を踏んだのはシュウ自身な為にフォローする者はいるはずもない。
ちなみにティナは独身である。
「そういえば兄上と一緒ってことはティナ先生も黄金期って言われてたメンバーの一人?」
「あら、そんなことよく知っているのね。学園の過去の記録にも目を通したのかしら?まぁ当時は貴女のお兄さん達との仲は最低最悪だったけどね」
「ティナちゃん過去は蒸し返すものじゃないって。今は仲良しこよしだし〜。まぁそれもウっちゃんのおかげだよね」
「そうね、当時のSクラスの私達四熾天と七罪魔はしょっちゅう喧嘩してたわよね。そのおかげで許可無く神装を纏うのは禁止されてしまったし」
現在、学園のルールでは教師達の許可無く学園内で神装を纏うことが禁じられている。違反すれば罰則もあるのだが、そのルールが作られた原因がティナ達にあるということは知られていなかった。
「今はオフの時にお茶に行くような仲になったけどね。あの時代は壮絶だったわ、目が合うだけで神力全開にして喧嘩が始まったわよね」
「チェルシーちゃんも喧嘩っ早いもんねー。ウチらも血の気が多かったし。ホント仲悪かったよねー」
「でもね、ウっちゃんがいつも間に入ってくれて喧嘩を止めてくれたのよね。彼は義理人情に厚く、困った人を見過ごす事ができないのよ。素行は悪かったけど素敵な人だったわ」
過去を強調して言う辺り生徒達は察した。今は無精髭の上、服装にも無頓着で常に気怠げ、やる気があるようにはとでも見えない。
しかし落ちこぼれと言われた彼らを差別もせず、対等に扱ってくれた恩師の過去であるのならば納得は出来た。
そして二人の昔話を聞いているうちに境界の外側、人間の領域に辿り着いた。
「あら、お話していたら着いたわね。やっぱり人の世界に入ると安心するわね。じゃあ、皆あそこに私達が乗ってきた馬車があるからみんな乗ってね。ビュート、貴方は先に報告よろしくね」
「へいへい、相変わらず人使い荒いねぇ。俺ちゃんをパシリにするなんてティナちゃんぐらいよ?んじゃヴィオちゃん、お兄様は仕事にもどるからねー」
「勝手に行けだし!」
「それとヴィオちゃんのクラスメートちゃん達、日頃からヴィオちゃんと仲良くしてくれてあんがと。俺ちゃんはまだまだこっちで戦ってっから、もし学園卒業してから一緒に戦いたいって奴はシクヨロ!」
ビュートはそう言い残すと流星の如く、何処かへと飛び去っていった。
「う……こ、ここは? っ!?桃太郎は!?」
ビュートが飛び去った直後、もぞもぞとルナの背中で目を覚ました雷音。戦いの途中から意識を失ってしまった為に今の状況が掴めていない。
代わりにその手に掴んでいたものは彼を背負っていた者の柔らかいものであった。
「あ……れ?みんながいる……って俺は何を……ん?この感触は……」
「何をじゃないわよ! この変態!」
「へぐわっ!?」
この世界に柔道があれば一本取っていただろう。それ程に見事な一本背負いだった。
「寝惚けてんじゃないわよ! まったく心配かけておいて……」
「ごめんルナ。ってか何でここにいるんだ?」
「たまたま学園でお兄といたらアンタらがピンチだって連絡を受けたのよ。それでディーン先輩が呼び出されたのを聞いて無理矢理ついてきたの」
「そっか……お互い無事で良かったよ」
「ホントよ。あんな鳥人間初めて見たわよ。怖いったらありゃしないわ」
「お話しているところ悪いけど馬車に乗ってね。早く帰りましょう」
雷音とルナの夫婦漫才にティナが割って入ってくる。境界を抜けた場所には馬車が止めてあった。全員馬車に乗り込むが、座席付きの馬車としては相当な大きさだ。普通の馬車の三倍近く、十人は乗れるだろう。
御者台にはディーンが座っている。ティナも止める様子が無いところを見ると行きもディーンが運転してきたのだろう。
しかしEクラスの生徒達は違和感を感じざるを得なかった。
なぜなら馬がいなかった。
牽引する為の馬がいないのだ。
これには堪らず声が上がる。
「ねー、ティナセンセ、これどうやって動かすんだし?馬いないし」
当然ながらヴィオも同じ事を思いティナ先生に尋ねていた。
「それはこれからディーン君が教えてくれるわ。そろそろ出発してもらっていいかしら」
「既に準備は出来ている。それではいくぞ。駆けろ!『八脚馬王』」
「えー!?馬が出て来たし!?」
「ふっ、我の愛馬だ。出発するぞ」
馬車に繋がれた八脚馬王はなんと馬車ごと浮かび上がり一直線に王都の方へ文字通り空を駆けていった。
「……何これ?眷属か?」
「雷崋、つっこんだら負けよ。アタシは行きの時に諦めたわ……。それよりも怪我は大丈夫?痛くない?身体は平気?」
ルナの顔には不安が隠せていなかった。死ぬ程の重症ではないものの、皆の元へ戻ってきた時は全身傷だらけだったからだ。
その為か隣に座ったルナと雷音の距離はいつもと比べると近い。少し顔を近づければ触れてしまいそうな状況に雷音の心臓が跳ねた。
「あぁ、少し痛いだけで平気へっちゃらだよ。それよりそんな顔するなんてルナらしくないぞ?」
「だって……雷崋に何かあったら……」
「大丈夫だよ。俺だって少しずつだけど強くなってきてるんだ。昔みたいにルナを守れるようにするからさ」
「うん……」
ルナの頭を手のひらでポンポンすると落ち込んでいた顔が破顔し笑顔に変わる。幼い頃からルナが不安になっている時はこれを雷音がやるとほぼ解決できた。
「(ねぇねぇ馬鹿シュウ、アレって実質プロポーズみたいなものだよね!?)」
「(なんで付き合って無いんだろうな……全く雷音もどんどん攻めてきゃいいのによ)」
シュウとヴィオはそれを見てひそひそ話。
周りから見れば彼らも充分すぎる程仲は良く見えるだろう
再び雷音が隣を見るとルナはいつの間にか眠っており、彼の肩を枕代わりにしていた。
こんな所も昔と何一つ変わらない。
大きく変わったのは雷音の立場。
変わらなければ婚約者として過ごしていたのだろうか。
それでも変わらない想い。
「(もしも、なんて考えるのは意味がないよな……だけど……)」
馬車の窓から見える。夕陽に彩られた世界が美しかった。こちらの世界もさっきまでいた境界の向こう側の世界もそれは変わらない。
そんな向こう側の世界を見ていたら何故か雷音の脳裏には父の姿が思い浮かんだ。
向こう側で死んだ父の姿を。
蒼天家最後の当主になった男の姿を。
没落する原因となってしまった父の姿を。
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