黒
「ルナっち!? どうしてここにいるんだし?それに隣にいる怖そうな人って……」
絶体絶命の窮地に陥った四人を救ったのはディーンとルナだった。
しかし何故彼らがここに来れたのかがわからない。
「では私から説明致しましょうか」
先程チェルシーが纏っていた神装に似た三対六枚の翼、そして優しく輝く黄の衣の様な神装を纏う美しい女性がディーンとルナの背後から現れた彼女の姿に生徒達は見覚えがあった。
「あれ?……ティナ先生じゃねぇか?」
シュウは心無い連中に怪我を負わされることも多く、保健室にはしょっちゅうお世話になっていた。
そして所謂、保険室の先生がこのティナだった。
「そうよ、シュウ君。キミはよく怪我をして保健室に来てたものね。ちょっと待ってね……説明の前に。えっと……毒を喰らったのね。治療はしているみたいだけどまだ少し残ってるわね。おまけに傷も多数、こっちの女の子……確かリンさんはだいぶ傷を負っているわね……先に治療しましょう。さぁ、吹きなさい『癒しの風』」
穏やかな風が四人を包むとみるみるうちに身体中の傷が消えていき、軽く痺れていた身体も楽になっていく。
「どう?楽になった?」
「ああ、ありがとよ先生」
「一瞬でここまで回復するとは……かたじけない」
「身体がかるーい! ありがとティナセンセ。で、どうしてここにいるの?」
「それはね……ってまた待っててもらえるかしら」
ティナが生徒達の後方を見据えるとがさごそと草木をかき分ける音がしてきた。
「さて、そこの鳥さん……退いて頂けないかしら?」
ティナは微笑みながらそう言うが表情とは正反対に冷めた声である。その視線の先には吹き飛ばされた雉子の姿があった。
「私も昔はこちらにいたことがあってね、貴方のことも知っているわ。確か……将格・桃太郎一味のナンバー4でしたっけ?」
「……女、訂正してください。私はお館様に次ぐナンバー2です。あんな奴等の下では無い!!」
生徒達と戦っていてもあれだけ落ち着いていた雉子が声を荒げる。ティナのいう順位とは雉子のプライドをよっぽど傷付けるものだったのだろう。
「しかし……貴女の言う通りですね、今は退却させてもらいましょう」
「そうそう、平和が一番よ。せっかくだから向こうで戦っている貴女の主人も説得してくれないかしら?」
「ふっ、無理なことは言わないでください、私が斬り殺されてしまいますよ。では私は去りますが……次に会った時は貴方達全員……殺しますからね?特にそこで寝転がっている少年……彼にも伝えておいてくださいね。ではまたお会いしましょう」
雉子は翼を羽ばたかせると宙に浮き始め、一気にスピードをあげて去っていったのだった。
「はぁ……助かった」
「馬鹿シュウ気を抜いている場合じゃないし!今から雷音っちのとこに行くんだし!」
「その必要はないわ。ディーン君、ルナさん、E組の皆さんはここで待機します」
「えっ!?でも先生達が!」
「そうよ、アタシもまだ何もしてないわ。雷音を助けに行かせてよ!」
「静かになさい」
静かだがに威圧感のある声が響くと皆喉が開かなくなるぐらいの重圧を感じてしまう。
普段は優しい保険室の先生というイメージが一気に崩れ去る。
「雉子に手も足も出ないようじゃ貴方達が行ったところで足手まといよ。ここから先は悪鬼羅刹の住処、力が無い者に待つのは死よ」
「……」
「それにね……もう他にも援軍は行っているから。あなた達の先生のお友達がね」
――――
ウルスと桃太郎は熾烈な争いをしていた。その余波は地形を変えてしまう程だ。
しかしウルスは徐々に、徐々に桃太郎に押されていった。
「ぐっ……はぁ……はぁ……くそっ、やっぱり強いな。俺達が現役バリバリで戦っていた……いやそのずっとずっと前からお前さんの強さは知れ渡っていたが……いざ戦ってみるとやべぇな」
「ふむふむ、御主達にも我が武功は伝わっていたのだな。そうだろうそうだろう、拙者は強い。健全な肉体に健全な魂が宿ったからのぉ」
「健全だって割には物足りなさそうな顔してやがるぜ?」
「まぁの。少し期待していたのかもしれん、強者と戦いたいたくての。十年以上前になるか、御主は知っているかわからんのだが黒い鎧を纏った戦士がいてのぉ。彼奴は強かった……一度戦ったきりで勝負はつかなかったがあのような戦いがまたしたいのぉ」
「(黒い鎧……まさかな)」
ちらりと雷音を見るウルス。その視線は誰かと重ね合わせるように。
「そうそう現れんじゃろうがなあの様な男は。
あぁ、身体が疼くわ。この宮本某とかいう者の身体は何年経とうと戦を求めているのぉ」
「宮本……?何言ってやがるんだ?」
「御主は知らんでもいいことよ。少し喋りすぎたのぉ。ではそろそろ黄泉路への旅支度は済んだか?」
「死ぬ準備なんざしねぇよ。死ぬのはお前さんだからよ」
「ほぉほぉ、拙者が手加減していたのをわかっていたのにそんな口を叩きおるか。威勢があっていいことよ。じゃが、遊びはこれまでよ」
「奇遇だな、俺もだよ。本気でやってやるよ、文字通り生命をかけてなぁ!」
「出し惜しみせずに早ようせい! さぁ! さぁ!」
「(こいつをやると力が暴走する可能性が高い……が、死ぬくらいならやってやるぜ。雷音、チェルシー、巻き込んじまったらごめんな……)」
ウルスの身体から神力が溢れ出る様に湧いていく。しかし輝きは一切無く、真逆に深い、暗き闇。
「全てを奈落の底へ堕とせ……『深淵』」
闇はウルスの神装を侵食するように黒く染めていく。背中の羽は既に半分が漆黒へと変化した。
「なんだか気持ち悪いのぉ……血管が浮き出るように闇が蠢いとるわ。大丈夫なのか己の身体は?」
「大丈夫……だとは言えねぇな。だけどよ……」
「なんじゃ?どうしたのだ?」
「……」
「御主……なんじゃ……既に意識を無くしとるな?しかし纏う其れは獣のようだのぉ。面白い!!」
ウルスの三対六枚の白い翼が完全に漆黒に染まり、そして湧き出る神力は灰の色に染まる。
「だんまりかい。ならばこちらからいくぞ!」
桃太郎は持つ刀を横一線に払うと斬撃がウルスの元に飛ぶ。しかしその斬撃はウルスが素手で掴み取ると、ぐしゃりと握り潰してしまった。
さらにウルスの手にはいつの間にか鉱石で創られた大槌が握られておりそれを勢いよく桃太郎に叩きつけた。
「ぐぅっ……先程とはまるで違う生き物の様じゃな? だがそれがいい……それぐらいで無ければ倒し甲斐が無いわ!」
「……」
刀と大槌は何度も何度も打ち合うがお互い後ろには一歩も引かない。
しかしウルスの持つ大槌は打ち合う度にひびが入っていく。
「そらそら! そのままでは終わってしまうぞ?もっと拙者を楽しませい!」
更に何度目かの打ち合いで大槌は手元迄ひびが入る。そして鈍い音が鳴り響く。
「っ……」
「壊れてしまったのぉ。残念残念、どれ、御主も壊れてしまうが良い。それ、楽になれ……っ!?」
「……開け闇の扉よ『冥地獄』」
砕け散った大槌は地面に散らばっていた。
六芒星を大地に描いて。
その形のまま浮かび上がるは黒い光の柱。
その柱には既に獲物がかかっていた。
「な、なんぞこれは!? ぐぅ……お、重い……押し、潰されるっ!?」
黒い光の柱、その中は超重力が発生していた。もがけばもがく程重くなる蟻地獄。
入れば最後、潰されて死ぬだけだ。
「くぅ……これは金の字と力比べした時以来だのぉ。力比べは得意ではないが……はてさて、どうしたものか」
時間が経つにつれ重力は更に強くなる。
桃太郎は今は地面に片手をついて耐えている状態でだった。
神装と対を成す幻装にも限界はあるようで超重力の中で幻装は歪む様な音を立てる。
「試してみるか……久方ぶりに使うのぉ。出でよ『鬼面』、そして応えよ我が愛刀・童子切安綱、鬼切安綱」
不気味な鬼の面を装着した桃太郎、そして手元にある彼の刀が彼の声に応えるように真紅に染まる。
彼が今まで切ってきた鬼、そして人の血を吸い上げてきた証と言わんばかりに。
そして超重力の中ゆっくりと立ち上がり二刀を交差させる。それは桃太郎の必滅の構え。
「我が剣に断ち切れぬ物無し!二天一流『鬼刃断絶』」
桃太郎が渾身の力を込めた紅い刃は黒い光の柱そのものを空間諸共斬り裂き、この世から消滅させてしまったのだ。
「ぶっはぁ! いやぁ久しぶりに本気を出すとしんどいのぉ。だが超重力の檻とは恐れ入ったわい。天晴れじゃ」
渾身の力を使い果たしたウルスの技が消されると同時に、彼の意識は桃太郎の声に引かれて戻ってくる。
「あぁ……クソ……駄目だったか……これが効かなきゃ……もう、どうしようも……ねぇ、な」
意識を失い地面に倒れるウルス。
その身に纏う神装も光の粒子になって消えていった。
「それでは首を頂くとしよう。これも戦場のならい、許されよ」
ウルスの側まできた桃太郎は介錯するように刀を構え首に狙いを定めた。
「さらばだ、強き男よ」
刀がゆっくりと振り落とされた。
だがウルスの姿はない。
「おい……なんのつもりじゃ小童」
「はぁ、はぁ、先生を……やらせはしない」
ウルスの身体を持ち上げて刀を避けたのは雷音だった。しかしその行為に桃太郎の表情は羅刹と化していた。
自分の戦いに水を差されたのだ。例え勝負はついていようとも。
「この糞餓鬼がぁ! 真剣勝負を汚したその罪の重さがわかっておるのかぁ!」
「俺は……みすみす大切な人が殺されるのを見たくないんだよ。次は俺が相手……っ!?」
気付けば雷音は地面に転がっていた。何をされたのかはわからないが目の前の男にやられたのは間違いない。
「餓鬼が生意気を言う。この程度で地面に這い蹲る御主なぞ戦う価値もない……が、戦いを汚した罪はその身をもって償うがいい」
「タダでやられてたまるかよ! 喰らえ、雷光閃烈拳!」
光り輝く雷音の右腕に装備された雷霆は雷を収縮させ、一直線に桃太郎に向かっていく。
「こんなもの効かぬわ。それ、お返しじゃ」
しかし雷は簡単に刀に斬られ、逆に雷音の元に斬撃が飛んでくる。
「ぐあっ……負けるか! 潰れろ、粉砕する雷槌!」
斬撃をくらいながらも前に出て桃太郎に向かって粉砕する雷槌を振り落とす。
しかしそれは刀さえも使わずに手で止められてしまったのだ。
「なっ!?」
「言っただろう、小童に価値はないとな。ふんっ!」
粉砕する雷槌を掴んだ桃太郎はそれを雷音ごと投げつけ、彼は再び地面に這い蹲ってしまう。
「ぐはぁっ!? 全力なのに……ここまで差があるのかよ……」
たった二撃、しかしその二撃に雷音は持てる全てを込めた。だが表情の一つも変えることも出来ずにあっさりと止められてしまった。
「最初からそのことに気づいておれば一瞬で殺してやったものを。もう諦めい。御主の勝ちは一厘もあるまいよ。大人しく死ね」
桃太郎から放たれる無数の斬撃、躱せるのは最初だけで何発も斬撃は雷音を刻む。
「うっ、あ……」
「避けるでない。大人しく死んどけ小童」
「まだ……まだだ……」
打つ手が無くても最後の最後まで諦めはしない。
こんな状況でも雷音の心はまだ折れなかった。
「往生際が悪いのぉ、ならこれではどうじゃ」
一瞬煌めきが走ったかの様に雷音には見えた。
そして同時に激痛が走り雷音の手足は全く動かなくなった。
「ぐああぁぁぁぁああ!?」
「両手両足の腱を斬ったからのぉ。もう動けはせんよ。諦めたか?」
「ぐっ……ぎぃ……まだだ……まだ……」
「しつこいのぉ。男は諦めも肝心じゃというのに。まぁ良い、先に御主を黄泉路へ送ってやろう。安心せい、御主の師もそこのおなごもすぐ同じ所へ送ってやるからのぉ」
桃太郎は雷音の胸の上に刀を翳すと、そのまま心臓に目掛けて刀を突き刺した。
そして雷音はその状態のまま動かなくなった。
――カチッ
刺さった刀を抜くと、下方へ向かって血振りをし雷音に背中を向けた。
「ん?変な音が聞こえたが気のせいか?まぁよい、そこの二人もさっさと済ませるか」
桃太郎がウルスの元に向かい雷音にしたように刀を突き刺し、続けてチェルシーも刺した。
「仕舞いか。どれ、雉子の奴は……ん?」
ここで桃太郎は違和感を感じた。
チェルシーを刺したはずだが目の前で刀が刺さっているのはウルスだったのだ。
「呆けてしもうたか?まぁ、もう一度刺せばよいか。ふんっ」
桃太郎は再度チェルシーを刺した。が、チェルシーを刺した筈なのに目の前にいるのは雷音だった。
「な、なんじゃ?何が起きた?幻術でもかけられたか?だが確実に肉を抉った感覚はある……ならもう一度じゃ!」
桃太郎は雷音を再度突こうとするが皮膚に当たる寸前に桃太郎の身体は動かなくなる。
カチッ――
「また謎の音が?本当に……一体何が起きた!? むっ?小童の鎧の色が黒く!?」
ウルスとの戦いの疲れと雷音に対する怒りが混ざり合った為か桃太郎は失念していた。
殺した筈の雷音の身体から神装が消えていなかったことを。人間は気を失った時や死んだ時に神装
が光の粒子になることを。
「此奴も師と同じ様に闇でも纏うのか?だがこれは闇というにはあまりにも鮮やかな黒。しかも……」
カチッ――
カチッ――
雷音の神装は形を変えていった。戦闘の為に形状を一部変える神装は多々あるが、鎧を丸ごと別の形にしてしまう神装に桃太郎は遭遇したことは無かった。
カチッ――
カチッ――
カチッ――
「これではまるで鎧が別物ではないか。だがこれはどこかで……。っ!? 馬鹿な、腱を斬ったというのに立ち上がりおっただと?」
ゆらり、と雷音は立ち上がる。その身に纏うのは黒く、十二の数字を刻んだ神装。
「なんじゃ御主? 長年貴様等を相手してきたが鎧を別のものにするなんざ聞いたことないぞ?」
雷音からは返事がなく、ゆらり、ゆらりと振り子の様に揺れていた。
「しかし喋らんのぉ。なんぞ意識もはっきりしてなさそうじゃが……ん?」
気付けば桃太郎の視界には地面のみが映っていた。
「は?何故拙者は倒れているのだ?」
痛みが遅れて頬に響いていた。
ただ立っていただけの筈の自分が地面に這い蹲っていたのだ。
先程までの目の前の少年程度の実力であれば油断していようが攻撃など喰らうはずがない。それ程までに力の差と経験の差はあると桃太郎は自負していた。
故に不可解かつ不快。
何をされたかも分からないのだから。
再び立ち上がり再び雷音を見つめる桃太郎。その顔には苛立ちが募っている。
「小童、貴様何をした? 答えよ」
ゆらり、ゆらり。
「……」
「答えんかぁぁ!」
しかし怒鳴った桃太郎は再び地面に伏せっていた。今度は右足に鈍い痛みが響いている。これはまるで蹴られた様な痛み。
「何かをされているのは間違いないのぉ。だが目で追いきれぬ程の速さか幻術でも使われているのかわからんな。ならばこちらから仕掛けるとしよう」
再び立ち上がった桃太郎は間髪入れずに斬撃を雷音に向かって飛ばす。が、すでに目の前から雷音は消え去っていた。
「馬鹿な……気配が一瞬消えた?だが今は感じられる。拙者の後方に……瞬間移動……いやそれなら移動した瞬間が分かる筈……もしや以前死合ったあやつの……?」
桃太郎がそんな思考できたのもほんの一瞬だった。気付けば何度も地に伏せ、血を流す。何をされたのかには気付けず、結果だけが残った。
「(殴る蹴るだけとはの……力はそれ程では無いが……これは厄介だのぉ……だが拙者の予想通りであれば)」
自分が倒れていることを確認すると刹那、桃太郎は己に流れる力を速さに注ぎ込み、一つの技を繰り出した。
「……予想通りだのぉ。拙者の刃の盾を掻い潜ることはできなんだ」
雷音の拳は血に塗れていた。
目の前には大量の刀が桃太郎を守る為に刃を外側に、球体の結界を作り上げていたのだ。
「残念だったのぉ童、御主の能力は分かったわ。恐ろしい能力よ、時を操るなんてのぉ。昔の経験が生きたわ」
それを聞いても雷音の反応はない……が、桃太郎が地面に転がることもない。
「この状態では手が出せまいよ。時を止めようとすり抜けることも手を入れることも出来ん。このまま千日手とするか?そうなれば先に力尽きるのは童の方だかのぉ。む?」
袈裟斬りにされた胸の傷。次の瞬間、桃太郎は斬られた事実に気付いた。驚きのあまり目を見開いて雷音を見れば、死神の様に大鎌を持つ姿だった。
「ぐふぅ!? ば、馬鹿なっ!? 拙者の剣を斬り裂いただとぉ?むむぅ……これは些か拙いかもしれんのぉ……」
これでは何をしようと無防備にしかならない、そう考えざるを得ない状況だった。
一番の誤算は刀はまだしも幻装を纏っていたのにも関わらず鎧が切り裂かれたことだ。
力の差は圧倒的であり、取るに足らない存在だったのに、だ。
だが退くことは自分自身許せる事ではなかった。
心の臓を突かれれば間違いなく死ぬ。
「逃げるぐらいなら相討ち覚悟でやるかのぉ。ふふ、血がたぎって……うん?」
有利な状況であった雷音だったが、急にその場に跪き、息も荒く咳混じりの呼吸をしていた。顔を見れば大量の汗をかき顔色も悪い。
「やはり力が尽きたか……久しぶりに命を懸けたやりとりになると思ったんだがのぉ。確か……あやつも慎重に能力を使っておったの。
さて、これで容易く殺せるわけじゃが、さてはてどうしたものか」
雷音はとっくに体力と神力を限界まで行使していた。段々とその身に纏う黒い神装は光の粒子になっていき、雷音は倒れてしまう。
「ぐっ……うう、身体が……動かない。一体……何があったんだ?」
倒れると同時に雷音は意識を取り戻した。力を振り絞り、顔を上げると目の前には顔を腫らして胸から血を流す桃太郎の姿。
何が起こったのかは雷音本人は何も分かっていない。
「お、気付いたか童。いや……力ある者にそれは失礼だのぉ。御主の名は?」
「……雷音、蒼天雷音だ」
「蒼天……ふふっ、ぶはははは! やはりか。さて雷音よ、拙者は貴様達と敵対しておる故に力を持つ御主を殺さねばならん。故に一思いに殺してやろう」
桃太郎は雷音に近づくと刀を振り上げる。が、振り下ろす前から地に伏せていた筈の雷音の姿は消えていた。
「やれやれ、またか」
「へっ、殺気も無いくせによく言ったもんだぜ」
雷音、ウルス、チェルシーは抱え上げられていた。褐色の肌を持ち、金髪に黒のメッシュを入れた黒い翼を生やした神装を纏う男に。
「気付いておったか。まぁ拙者も御主の存在には気付いておったがな。童……いや、雷音が戦っている時に出て来れば良かったものを」
「俺ちゃんは勝算が無い戦いはしたくないんだよ。それに今回はコイツらを助けるって話を受けただけでアンタを倒せって言われた訳じゃ無い。それに新しい時代の力の目覚めを邪魔しないのも先輩の役割ってもんなの」
「ふん、どうもいけ好かん男よ。だが御主もなかなか強そうだな」
「おいおい、そんな殺気を出さないでくんない?俺ちゃんは逃げ足の速いだけの奴なんだからさぁ。大体アンタこの坊主を逃がそうとしてたんだろ?」
「拙者は強い相手を見ると昂ってしもうてなぁ。さぁ、死合おうぞ?して御主の名は?」
「いや、話聞けし。はぁ……一応名前だけでも教えといてやんよ。七つの大罪が一柱、瞬速の蝿王のビュートだ。別に覚えなくてもいいぜ。女ならともかく、男と会う気はないからさ!」
「まぁそう言うな。一期一会と……む、確かに速いのぉ」
桃太郎が話をしようとすると既にビュートは三人を抱えながら飛び去っていた。
「あっばよー!」
空を飛びながらでは見つかりやすいと分かっていたのか、桃太郎と離れると森の中にビュートは入っていった。
「まったく忙しいのぉ。全力でいけば間に合うだろうが……やめておくか。良い楽しみができたわ。さて、良き運動も出来たし戻るとするか。寝坊助共もそろそろ目を覚ます頃だろう」
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