雉子と桃太郎
吹き飛ばされたシュウ、ヴィオ、ネイル、リンの四人は皆ほぼ同じ場所にいた。
突然吹き荒れた暴風、周りを見渡してもいるのは自分達だけ。全員が意図的に吹き飛ばされたのには気づいていた。
「いってぇ……みんな無事かよ?」
「いたたたた……あーしはへーき」
「某も平気でござる……」
「僕もなんとか……こんな時片手だと受け身が取りづらいけどね」
「ネイル、ツッコミづらいこと言うのはやめるし!」
「ははは、冗談だよ。……ただこの状況は洒落にならなそうだけどね」
ネイルは既に感じていた。自分達が吹き飛ばされた方向から翼の生えたナニカがこちらに向かっていたのを。
「先生達もいないし雷音もいない……こちらは神装を纏ったばかりのシュウと僕達三人。これは詰んだかな……」
「縁起の悪いことは分かっていてもいうべきではないでござるよ。とはいえ確かに状況は最悪であるが……。来たでござる」
彼らが飛ばされたと思われる方向から飛んできた雉子はあっという間に四人のいる場所まで辿り着き、彼らの前に降り立った。
人と鳥が入り混じったような美しく異形な者が。
「ほぉ……まだ若そうですが神装使いが一人……後は雑魚と言ったところですか」
「くっ……」
「なんですかその顔は?だいたいなんで貴方達のような戦力にもならない方々がここにいるんですか?」
神装を纏えないヴィオ、ミン、アッシュは雑魚扱いされたことで相手を睨む。しかし相手には一笑に付された。
「うっせーよ、この鳥野郎がよ!みんな頑張ってんだ馬鹿にしてんじゃねぇ!」
「鳥野郎ですか……失礼ですね。私には雉子と言う名があります。
それと貴方はみんな頑張っている、と言っていましたけど……それだけで強くなれるなら世話ないですよ。それと昨日の報告を受けた限りだと貴方も昨日初めて神装を纏ったとか」
「っ!?なんでそれを?あそこにいた奴らは皆全滅してだだろうが?」
「言うわけないじゃないですか。馬鹿なんですか?」
「んだとぉ!?」
「落ち着いてよシュウ。で、雉子さん、あなたも僕達と戦いに来たのかい?」
ネイルの問いに雉子は溜息を吐きながら口を開く。そして背中の翼がゆっくりと開き始めた。
「戦い……?そんな上等な言葉使わないでくださいよ。私はね、単純に貴方達を虐殺しに来たんですよ。今は弱くても未来に脅威になる可能性はありますからね。まぁ……それももう大丈夫ですけど」
翼が完全に開くと同時に、雉は力をその羽根に集中していく。輝きは勢いを増し生徒達を照らしていった。
「ここで皆死にますからね!『毒羽』」
「させっかよ! 燃やし尽くせ! 滅炎の大剣」
羽根が翼から放たれるタイミングに合わせて滅炎の大剣から荒れ狂う炎が放たれた羽根を相殺しブスブスと焦げたような煙と臭いが辺り一面に広がる。
「なんかしてくるなんてバレバレなんだよ! 喰らえオラァァァ!」
相殺したタイミングを好機と捉えてシュウが滅炎の大剣を振りかぶって雉子に勢いよく斬りかかる。
「遅いですねぇ。そぉら」
しかし雉子には掠りもせず避けられ、反対にカウンターで蹴りを受けて吹き飛ばされてしまうシュウ。
「くそ……速い……」
「無駄ですよ。後ろのお二人さんもね」
「っ!?」
シュウがカウンターを喰らった瞬間、ネイルとリンは神力を全身に込めて雉子の背後へ回り攻撃を加えようとしたが、彼らの全力とも言える一撃を雉子は簡単にいなしてしまった。
「つ、強い……」
「私が強いのではないのですよ。貴方達が弱いだけです。どうせお遊び気分で境界を超えて来たのでしょう?」
「……お遊びなんかじゃないし……あーし達は強くなりに来たんだし」
「強く、ですか。それで?笑いにもなりませんよ……ねぇ!」
雉子はヴィオの前に飛び、その勢いのまま鳩尾に拳を叩きこまれ、彼女は声にならない悲鳴をあげていた。
「ぐ……ぎっ……」
「ほら、強いならこの程度堪えてくださいよ。胃液臭いですよまったく。って貴方達二人もそんなもの向けて死にたいのですか?早く逃げればいいものを」
「某の辞書には友を置いて逃げることなど書いてはいないでござる。力は無くとも立ち向かうが我が魂の定め故、抵抗させて頂く」
「僕もね、大切な友達を見捨てるなんてできないよ。こんな身体で生まれたせいかみんなに避けられちゃってさ……やっとここで友達ができたんだ。それなのに逃げることなんてできないよ」
二人は緊張と恐怖で震えてながら武器を構えていた。彼等は皆落ちこぼれで疎外された存在だ。
同じような境遇故に仲が良かった。だから二人共仲間を守ろうとしているのだ。
神装を纏えずとも。
「お涙頂戴、といったところですか。お館様なら感動して見事と言うかもしれませんが……私はそんな甘い話には虫酸が走りますね。死んでください」
再び雉子の翼から大量の羽が彼等を襲う。
隙間も無いほどに全身に襲い掛かる鋭い羽は彼らを容赦なく――貫いた。
――――
「これが御伽の力……先生達だって相当強い筈なのに……圧倒的すぎる」
自分とは強さの次元が違う戦いに参加することすら出来ない雷音は悔しさから歯噛みしながら三人の戦いを見ているだけだった。
しかしその戦いも一方的なものであった。
「その程度か?拙者を楽しませてくれると思ったが思いの外つまらんのぉ」
「くっ……」
桃太郎の眼前で血を流しながら跪くウルスとチェルシー。二人共に全身に刀傷が走っていた。
「先輩、勝てる気がしないのです」
「奇遇だな、俺もだ」
「どうするのです?逃げるのですか?土下座でももするのですか?」
「それで助かりゃあいいんだが」
「あ、先輩囮になって欲しいのです!その隙に雷音君連れて全力で逃げるのです」
「いや、俺の為にお前がなんとかしろ」
絶望的な状況だが軽口を叩き合う余裕はまだ二人にはあるのだろう。どちらかというともはや諦めの境地に達しているのかもしれないが。
「御主らもう手は無いのか?」
「残念ながらな。俺の岩や石は全部斬られちまうしコイツの水まで斬っちまうなんて反則だろお前。もう俺達に興味を無くして俺達を逃がせ!」
「先輩凄く三下っぽいのです」
「うるせぇ! 三下でも何でも逃げるが勝ちだ!」
「済まんが御主達は逃がす訳にはいかん。拙者の相手にするにはつまらんかったし……御主の言う通りもう興味が失せた。故に殺す」
「くそー、子供達は逃して俺達は逃がさないなんてお前さんロリコンだなこの変態め!」
「口が悪いのです……でも準備は出来たのですよ。桃太郎さん、もうちょいだけ付き合ってほしいのです?十二人の水騎士」
十二体の水騎士を召喚するチェルシー。これが彼女の切り札であった。先程迄はこれが全力と思わせる為に一体だけしか使わなかった。
「ほぉ、一体ずつと見せかけて実は大量に召喚出来るとはのぉ……」
「全員抜刀です!先輩は今の内に雷音君を連れて他の生徒達の所へ!」
「お前!?死ぬ気か!」
「私はそう簡単に死なないのです! 早くするのです!」
十二体の水騎士は桃太郎を囲み一斉に斬りかかっていった。一体なら余裕でも十二体いれば時間が稼げるはず、そうチェルシーは目論んでいた。
「誰が逃がすと言った」
だがしかし、重い声が響くと水騎士達はあっという間に霧散させられ、桃太郎はウルスの元へ向かっていた。
「逃しはせんよ。女、貴様もそこから……なぬっ?」
「後ろ……取りましたです。これが私の真の切り札です。爆ぜるのです! 燃え上がる水剣!」
超高温の炎を帯びた水の剣は水故に折れることもなく、切り裂いた敵を水蒸気爆発させる剣。
剣は使えない、炎を使えないと思い込ませた相手の意表をつく一撃。
「ふむ、これは中々。『二天・鬼火斬豪』」
桃太郎はいつの間にか二つの刀を握っていた。
そしてデュランダルが爆発を起こした瞬間。
「嘘です!?」
桃太郎はチェルシーの動きを捉えていた。
そして油断さえもしていなかった。いや、油断する必要さえもなかったのだろうか、極めて自然な流れでチェルシーの神器の爆発を斬ったのだ。
「娘、誇って良いぞ。拙者に二刀を使わせたことをな」
この物語が気に入った方は下の☆☆☆☆☆による評価・ブックマークを是非ともお願いします。




