月女神VS戦闘神 〜覚醒〜
「「神装光臨!!」」
響き渡る声と共にルナとウォードの二人を淡い光が包み、肉体を囲う様に形成されていく。
その閃光の様な強き光、『神力』が各々に、意識を持つように、絡みついていく。
二人を包む光が完全に晴れた時、纏うそれは神々しい輝きを放っていた。
ルナの身体に装着されたのは、月の光が放つような孤高の銀色を放つ、胸当てをはじめとする軽鎧、そしてその光を目立たせんとばかりに漆黒の夜を示すかの様なマントを羽織り、そして手元には銀色の弓矢を番えていた。
「闇を照らす白銀の光! 月女神のルナ!!決して狙いは外さない!!」
対照的にウォードはフルプレートメイルに似た全身を包み込む蒼鎧。両肩には肩には血を求める鷲の意匠が彫られ、その眼光は獲物を狙っているかのようだ。
「ふしゅうぅぅぅ……狂乱に荒ぶれよぉ?戦闘神のウォード! ぶっ潰してやるよ!」
二人が纏うは己の神力を媒介に、生まれし時から持つ守護たる力――守護。
それを宿す者は鎧として顕現させる。
――その名を『神装』
「いつ見てもひ弱な神装だなぁ!?所詮は女の持つもんだ」
「月の女神の力舐めないでよね、串刺しにしてやるわウォード!」
「あぁ?ズタボロにしてやるよ、テメェの尊厳も何もかもな!!」
先に一歩踏み出したウォードは先手必勝と言わんばかりに神力で創りあげた手持ちの剣で勢いよく斬りかかるウォード。
しかしルナはそれを余裕の表情で避け、ふわり、と宙に舞えば、手にしている神器――月光弓を構え、番えた矢をウォードに向ける。
「本当アンタはせっかちね。アタシの腕前みせてあげるわ……針鼠になりなさい!」
ルナの放つ光の矢が無数に分かれて四方八方からウォードを狙う。しかしウォードもこれを分かっていたのか剣と全身を包む神装で防いだ。
「何が外さないだぁ?全部弾いちまったぞ?」
「ふふ、せっかちさんは気付かないのね」
「なんだぁ……? ぐうっ!?」
ウォードが違和感を感じて左足を見ると神装の僅かな継目の隙間から太腿に銀色の矢が刺さっていた。
「油断しすぎよ。本気出してたらその足千切れてたわよ?」
「このクソ女ァ………ブッ殺す!」
またも右手に持つ剣でルナに斬りかかるがその斬撃は一撃も当たらない。フェイントを交え瞬時に左手に創りあげた盾でシールドバッシュを加えようとするが、彼女はひらりひらりと舞う様に飛び上がり、それさえもいとも簡単に避けていく。
「力押しだけで倒せると思ってるの?その程度じゃわたしは倒せないわよ!」
「ハンッ、こんなもんが俺の力だと思うんじゃねぇよ」
「ふぅん……ならアタシの月光弓から逃れてみなさいよ!」
宙を舞うルナから放たれる矢が今度はウォードの右足に刺さる。その一撃でウォードの足は止まってしまった。
「ぐぁっ!? クソがぁ……心底腹が立つぜ。仕方ねぇ……おいテメェら力貸せ」
C・Dクラスの不良達四人がウォードの後ろに並ぶ。ニヤニヤと笑いながら彼等は力を解放する。
「「「「神装光臨」」」」
四人はそれぞれ一対二枚の羽根を持つ天使を模した白い軽装の鎧や悪魔の様な黒い鎧の神装を纏う。但し、四人共にルナやウォードに比べるとその貧弱さは否めない。
「悪いけどC・Dクラスの連中じゃ束になってもわたしに勝てないわよ?見下す訳じゃないけど……力が違いすぎるわ」
その言葉を聞いても彼等は邪な笑みを絶やさない。その筆頭であるウォードもだ。
「姫様よぉ、俺様の奴隷を舐めてもらっちゃ困るんだけどなぁ……さぁ行け、テメェら」
一斉に襲いかかる四人の不良達、しかしルナはそれさえも難なく避けていく。だが違和感を感じていた。
「(全然避けられるけど……おかしいわね。CやDクラスの生徒ならもっと身のこなしは遅いはず。それに全員名無しの守護よね?)」
ルナは攻められる中で疑問を感じていた。
守護には名有りと名無しのものがある。前者と後者では大きく力の差が出る傾向にあり、それだけは持って生まれた才能としか言い様がない。
故にルナは名有りの自らの守護と不良達の名無し の守護の差、更にはSクラスである自分とC・Dクラスの不良達の神力の力の差も分かっている。
それなのに彼らは自分の想定している以上に力が有る。Dクラスの者がCクラス、いやBクラス並の力が有るのではないかと思っている。
そうなってくると最早雑魚とは言えないのだ。
そしてウォードも動く。流石にルナの身のこなしが速いとはいえ、五対一、それに彼の取り巻き達も弱くはない。
武器の都合上、間合いが有れば圧倒的に優位だが囲まれて接近戦となると優位性はなくなってしまう。
「どうしたどうした!?手も足もでねぇってか?俺様に逆らうと怖ぇんだぞ?」
「そんなこと言うなら一対一で戦いなさいよ。まぁ……アンタが何かしてるから五対一が成り立つんでしょうけどね」
「へぇ……一応分かってはいるんだな。流石は同じクラスなだけはあるんだな。んじゃそろそろ本気をみせてやるよ」
「な、速っ……」
ウォードは先程よりもずっと速くルナに向かって剣を突き刺そうと向かっていった。ギリギリの所でルナは避けようとしたが、避けきれず露出していた腕に切り筋が入った。
「お、よく避けられたな。今の全速力はこんなもんか。どれ、次は避けられるかねぇ?」
「(おかしい……さっきまでと全然違う……。不味いわね、アイツの取り巻きもそこそこ強いし。おかしいのはアイツの取り巻きが戦いに参加してからね。それからウォードも強くなった……まさかこれはアイツの『神理』?)」
「ギャハハハ、不思議かいお姫様?まぁ実力ってやつよ。そろそろ負けを認めてもいいぜぇ?ウォード様すいません貴方の奴隷に一生なります、ってなぁ」
「冗談は顔だけにして。ウォード、アンタ神理を使ってるわね?その特性は条件下で仲間がいればアンタ自身が強くなって仲間も強くなる……ってところかしら?」
「授業中に見せたこたぁないんだがなぁ……流石だぜお姫様」
「てかアンタ授業中に神理を使ったことなかったしね。見せたくなかったのか使いたく無かったのか知らないけど」
「両方だ……見せびらかしたくもねぇし同じクラスの奴と手を組むなんざゴメンだ。だがそれはテメェも一緒だろう?」
「勘違いしないで。アタシは都合上、授業中は使えないだけ。アンタに愚痴っても仕方ないけどアタシの神理は使い難いのよ。
まぁいいわ、そろそろお喋りは終わりにしましょう?全員射抜いてあげる。
喰らいなさい、私の矢を! 月光舞踏・流星群」
ルナが上空に向かって銀色に輝く矢を放つと、雲を射抜いたその矢は無数に分裂し、そこから雨の如き光の矢がウォード達に降り注いだ。
「ぐ、ぐおぉぉ! クソ、厄介なもん打ち込みやがって! テメェら俺を守れ!」
「ひっ……あ、あぁ……」
ウォードの取り巻き達は惑い恐れつつも、涙目になっている表情とは正反対に身を挺してウォードを庇う。盾を作り出した不良の一人はその盾で防ごうとするが、光の矢は盾を破壊していった。そして盾を失った不良達に矢の流星群が容赦なく襲いかかる。
「一応手加減はしてあげたわ。本気でやればアンタ達全員貫かれて即死よ。痛いだけで済むんだから感謝しなさい」
彼等に降り注いだ光の矢の矢尻は丸く、とても身体を貫ける様なものではない。しかし神力で作り出した盾を破壊する程の威力ではあり、そんなものが雨の様に降り注ぐのだ。取り巻き三人は何度も何度も降り注ぐ痛みに耐えられず、その現実から逃げる様に意識を失い、強制的に神装も解除された。
しかしそんな気を失った者でさえも肉の盾にして矢の雨を凌ぎきったウォードは無傷であった。
「(おかしい。もう一人いたはず……逃げたのかしら……ってアレは!?)」
ルナの視線の先には雷音を羽交い締めにし、首元に剣を当てている不良がいた。
ウォードはニタリ、と歪んだ笑みを浮かべて口を開く。
「はーい、お姫様よぉ、そいつに傷を付けたくなきゃその神器を足元に置いてくれよ?じゃねぇと……おい、やれ」
不良の男はウォードの言葉と同時に持っている剣を雷音の首に近づける。
「いっ……」
雷音の首筋に赤く細い線が入り、そこから少量の血が滴り流れていく。
それを見たルナの顔はどんどん青ざめていく。
「ちょっとなにしてるの!?やめなさいよ?」
「だったらそいつをさっさと手離せよ?別にそんな奴死んだって俺には関係ないんだからよ。わかってんだろ……俺がそんな冗談言う奴じゃないってことは」
「くっ……」
ルナは悔しげに弓を足元に置いた。正反対にウォードは邪悪とも呼べるような下卑た笑顔を見せる。
「さぁてお姫様よ、そこにいる雷音を助けたきゃあ選択肢は一つだけだ。俺に対して『奴隷にしてください』って言うだけだ。それだけでいい」
「……それがアンタの神理の発動条件かしら?」
「御名答。よくわかったな?」
「言葉には力が有る……アンタの周りの奴が泣きながらアンタを守っているのを見れば分かるわよ。そうやって隷属の契約を交わしたのね」
「だが悪くないぜぇ?俺の《勇敢なる奴隷》に名を連ねれば俺もお前も強くなれる。強くなればなるほどあの『御伽』達にだって勝てる筈だ」
「だから馬鹿言わないでっていってるでしょうが!?アタシ達のこの力は人を守るための力よ! アンタみたいに無理矢理従わせて掴む勝利になんて意味無いわ!」
「くだらねぇ……。だったらゴミを処分するだけだ。おい、やれ」
雷音の掌を剣が貫く。貫かれた掌から血が流れ地面を赤く染めていく。
「がぁ……!ぐああ……っ!」
苦悶の表情を浮かべる雷音。その様子を見てルナは取り乱してしまう。
「や、やめてぇ!!わかったから、わかったから雷音をこれ以上傷つけないで!!」
腰が抜けたように地面に両膝をつけてルナは頰を濡らす。溢れ出ていた神力は彼女の精神状態に合わせる様に勢いを弱めていった。
「ほら、じゃあ言うこと言わねぇとな。ほら、早くしな」
「わたしを………アナタの……ど「駄目だ!!」」
契約の言葉を言いかけたルナの耳に雷音の言葉が割り込んだ。血を流しながらも雷音はルナに叫ぶように言葉をかける。
「やめろルナ!俺の為にそんな奴の言うことなんて聞くな!はやく、ぐぶっ……」
雷音の鳩尾に鋭い蹴りが入る。ウォードの視線は道端のゴミを見るかのように雷音を見ていた。
「うるせぇんだょ雑魚が。せっかくの機会を邪魔するんじゃねぇよコラ! このゴミ虫が! おい、そいつをこっちに連れてこい」
「(くそ……こんな奴らに。でもルナは……ルナだけは……俺の大切な人だけは……)」
蹴りと拳が何度も何度も雷音を襲う。
だけど雷音の目はいつものように諦めたり冷めた眼ではなかった。
「く……そ……俺は……俺は……ルナを……ルナを……大切な人を……守りたいんだよぉぉおお!」
雷音が強く願った瞬間、雷音の全身から金色の光が放たれた。まるで世界を照らす様な、鋭くて眩しい、輝かしいもの。
それは彼がこれまで出すことができなかったモノ――神力だった。
「な、なんだと!? この光は……神力だと?しかもコイツは今まで一度も使えなかったっていうのにこの力強さはなんだ!?」
「これが……雷音の神力……やっと目覚めたのね……とても……とても綺麗な光……」
光を纏い立ち上がった雷音はウォードに向かい合い声を放つ。
それは神力を使える才のある者が修練して使えるモノ。
雷音自身、確信があった。
その力を使える筈だと。
「神装光臨!!」
眩いばかりの光がオーロラのカーテンになり雷音を包み込む。光は白金の輝きを放ち、やがて彼の全身に鎧となって形を作っていく。それは全てを圧倒するような力強さを持つ天を穿つ光。
「俺の雷がお前を穿つ!雷神の雷音!! 」
雷音の周りにはパチパチと鳴るように超小規模の稲妻が放たれている。それは雷を従えし大神の如く。
「雷神、だと?あんなゴミみてぇな奴が? 名無しの間違いじゃねぇのか?はんっ、神力を覚えたての奴がハッタリもいい加減にするんだな。ぶっ殺してやるぜ!!」
ウォードは地面を蹴り猛スピードで雷音に迫り、手持ちの剣で突き刺そうとしていた。しかし雷音はそれをいとも簡単に避けた。
「避けただと!?」
身体の感覚が研ぎ澄まされている。今まで見えなかったものが見えるような感覚であった。
「凄い……まるで身体が俺のものじゃないようだ。身体から力がどんどん溢れていく……これが神力……そして、これは……」
斬撃を避け後ろに跳躍しウォードとの間合いを取る。
そして右手に輝く光に力を込める。
「轟け雷霆よ!!」
掲げた神器――雷霆が輝く。そして雷音が右手を振り下ろすと、閃光と共に蒼白い雷がウォードに向かっていった。
「クソが!神装ばかりか神器まで使えんのか!?奴隷一号、俺を守れ!!」
「やっ、やめっ……!?」
先程まで雷音を人質に取っていた取り巻きがウォードを襲う雷から身を挺して守った……いや守らされたのだ。
「ぐべぇ……酷い……です……よウォー……ドさ……」
一撃で神装が破られ、取り巻きの不良は気を失ってしまう。そこには特有のオゾン臭が漂っていた。
「危ねぇ危ねぇ。だけどやっぱ神装を使い始めたばかりなのがよく分かったぜ。テメェじゃ俺には勝てねぇよ」
神装は某聖◯士や某天空◯記の鎧のイメージです(汗)
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