土天使・水天使VS桃太郎
境界の内側に住む人間から見ればそれは有り得ない風景だった。
「幻装光臨」
その言葉を放った眼前の男から湧き出るオーラが、男に絡まるように形を変えて実体化していく。
雷音の頭の中に浮かぶのは以前資料で見た、かつて存在したと言われる東の国の武者と呼ばれた者達の鎧兜。
その重厚な姿は男から放たれる力と相まって恐ろしいほどの力を感じさせた。
「天上天下恐れる者無し! 幾多の鬼を切り裂くこの刃………我が名は桃太郎! いざ尋常に勝負!」
圧倒的な、圧倒的過ぎた武威は空気を震えさせ、もしも神力を持たぬ者がいれば気を失っていたであろう。
「ど、どうして……桃太郎が神装を纏えるんだ!?」
Eクラスをはじめ、学園の生徒達は御伽の存在自体は授業で習っていた。だが雷音達、人間の様に神装を纏える事実は知らされていなかった。
気分は最悪だろう。
素の状態でさえ彼らを圧倒していた男が鎧を纏った結果は――絶望としか言いようがなかった。
「はぁ……桃太郎さんよぉ、戦いたくはねぇんだがな。俺ってさぁ、なんつーか平和主義者な訳だから見逃してくれねぇか?」
「先輩……流石に纏っちゃった奴相手にそれはないかと思うのです」
そんな状況でもウルスとチェルシーは至極当然と言わんばかりに冷静だった。あくまで表面上を見る限りは、だ。
それに比べて生徒達は混乱を隠せていない。
この状況で何をすれば良いのかという判断さえも下せない程に。
「ね、ねぇ……あーしから見てもこの状況ヤバすぎると思うんだけど。っていうかあんな強い奴が神装なんて纏ったら……勝ち目なんてないし……」
弱気に呟いたヴィオに桃太郎はいち早く反応する。
「そこの褐色の嬢ちゃん、それは間違っておるぞ。拙者が纏っているのはお主らの神装ではなく幻装。まぁ、そちらに勝ち目がないというのは間違ってはおらんがな」
幻装、それが御伽が纏いし鎧の名。
名は違えど神装と何が違うのか。
「あー桃太郎さんよ、ウチの生徒はお前らがそんなもん纏えるなんて知らねぇんだわ。こいつらの担任としては余計なこと教えて欲しくねぇんだわ。びびっちまうだろうよ。
それとE組の皆は知らなかっただろうが……今お前らの目で見えるものが真実だ。本当は卒業してから軍で教わるもんなんだがな。まぁ遅かれ早かれだ、しっかり覚えておけ」
「人間は面倒だのぉ。そんな事なんぞ秘密にせんでも良いだろうよ?」
「この話が広がるのはなんだかよろしくないらしくてな。昔からの決まりなんだよ。お前さんのような怖い奴がパワーアップしちまうって知ったらみんなびびっちまうだろ?」
「ぶはははは! そうかそうか。して、そろそろ始めようか?そちらはどちらが戦う?二人一緒でも拙者は構わんぞ?」
「それでは私か「もちろん二対一だ!!」」
「ちょっと先輩!?」
「いやいや、お前どうやって勝つつもりだ?」
「そんなの気合です」
「阿保!気合で勝てるか!」
「卑怯じゃないですか!」
「お前さっき俺の影からこっそり攻撃したじゃねぇか。あれ卑怯じゃねぇのか?」
「あれは戦術です」
間違い無く生死をかける戦場だというのに緊張感の無さが辺りに漂った。
「むむ……チェルシー殿が意外と脳筋だったとは。ああ見えて冷静な御仁かと思っていたでござる」
「リン、それは本人の前では言わない方がいいやつだからね。それにしても……僕の目にはあの桃太郎って男の神力のようなモノが先生達よりも圧倒的に見えるんだけど……大丈夫かな?」
ネイルの不安を他所にウルスとチェルシーは落ち着いている。もしかすると生徒を気遣って落ち着いているかのように見せているだけなのかもしれないが、慌てる様子は一切見えない。
「なんだなんだ、随分ゆっくりとしているようだが拙者の方から仕掛けてもよいのか?」
「いや、二対一で俺達が先行で……ってか援軍呼んで多対一じゃダメか?そうすればお前さんもひりつくような戦いができるぜ?」
「ふむ、それは良い考えだが……拙者の刀はすぐにでも肉を斬りとうて斬りとうて仕方がないのよ。済まぬが却下させていただこうか」
「仕方ねぇな……チェルシー、やるぞ。相手は将格、気ぃ抜いたら死ぬぞ」
「分かってるですよ。先輩。それじゃいきますか!」
チェルシーの纏う神装はウルスと同じ二対六枚の羽根、そして透ける様な水色の神装から水が溢れチェルシーの手に集まっていく。
「『受胎告知』……生まれるのです、勇騎士」
現れたのは水とチェルシーの神力で構成されたスピアと盾を持つ騎士。
「ほぅ……此奴が拙者の相手とな?」
「私は剣技がさっぱりなので接近戦が苦手なのです。だから私の代わりに戦うのです。もちろん……私も攻めるのですよ!」
水の騎士が桃太郎に向かって行くと同時にチェルシーは視界を埋める程の大量の水の矢を生み出し
桃太郎に放つ。
着弾と共に水の騎士が斬りかかり、その剣戟の音が辺り一面に響きわたる。お互いの剣の速さは尋常ではなく、雷音達では神力を目に集中していなければとても見えない。
「遠距離、近距離同時攻撃とはなかなかやるのぉ。だが、拙者は細いことが嫌いでのぉ……さてどうしたものか」
ぱっと見ではチェルシー押しているかの様に見える状況ではある。が、しかし桃太郎は片手のみで刀を持ち、水の騎士と水の矢を全て防いでいた。しかもその場から一歩も動くことなく。
「涼しい顔して……憎たらしいのです!」
「これはこれは失礼してしまったのぉ。ではこちらからも攻めるとしよう。ふんっ!」
桃太郎が刀を振るうと水の矢と水の騎士が一瞬にして霧の様に消えてしまった。そしていつの間にか刀を鞘に納めている。
「童共、避けた方が良いぞ『一天抜刀・飛燕』」
鞘から、神速とでもいうべき速さで抜かれた刀より放たれた研ぎ澄まされし衝撃波は周辺の木々を倒しながらチェルシー、そして後ろにいる生徒達へ向かって猛スピードで飛んでいく
「まずいのです!皆飛ぶのです!」
雷音達の目の前まで襲い掛かる鋭い斬撃。
しかし、彼らに届く前に地中から現れた岩の壁に阻まれ硝子が割れるような音を立てて消えた。
「おーい、生徒達を巻き込むなや。……ったく、なんかあったら保護者に怒鳴られちまうんだからよ」
「こんなとこに連れてくる先輩が悪いのです」
「だってよぉ、こんな所にあんな奴が来るとは思わないだろうよ?こんな境界近くに将格がいるなんて初めてじゃないか?」
「確かにそうですけど油断大敵なのです。大体先輩は現役時代の頃から……」
軽口を叩き合っている二人を他所に生徒達はこれを良い機会と思いジリジリと、ゆっくりだが後ろに下がっていく。
本能で悟ったのだ。自分達にこの戦いに入る余地などないということを。
「おーい、お二人さんよ……拙者のことも相手にしてくれぬか?寂しゅうて寂しゅうて……御主らを即、皆殺しにしてしまうぞ?」
しかし桃太郎から放たれる圧に生徒達の背中がガタガタと震えてしまう。桃太郎の言っていることは間違ってはいない。雷音達など簡単に殺すことができるのだ。例え彼らが神装を纏っていようとも。
「だからよぉ、生徒達がビビってるからそういうのやめてくれねぇか?」
「仕方なかろう、弱い奴が悪い。御主とて分かっているだろう?負ければ死ぬだけよ。そこの童達とていつかは拙者達と戦う運命なのだろうよ?それならば本来花が咲く前に摘んでおくのが兵法というものよ。
まぁ拙者はそれは好まぬ故に殺したくはないのだがな」
「だったら生徒達だけでも逃してやってくれねぇか?中にはまだ神装も扱えない奴もいるからよ。お前さんの相手は俺達がしてやるからよ」
「ふむ……拙者はそれが良いのだが……いかんせんそれを反対するものがいてなぁ」
その時突然、轟音が鳴り響き、凄まじい勢いで嵐のような風が吹いた。木々の葉は吹き飛び、その風量に抗えず数人が遥か後方へ飛ばされてしまった。
「ぐっ……何が……?って……みんな!?」
雷音が周りをみるとシュウ、ヴィオ、ネイル、リンの姿は無かった。
しかし、代わりにと言わんばかりに見知らぬ何かが浮かんでいた。
「お館様、此奴らは敵であり根絶やしにせねばならぬ存在。花が咲く前の蕾となれば私が始末しましょう」
突然現れたのは背中に光沢のある緑色の羽をを持つ、男とも女とも見つかぬ者。手足は本物の鳥のような形でなおかつ鋭利な爪が光っていた。
「ったく……雉子よ、御主は本当にそういう所が神経質じゃの。良いではないか、成長した後に叩きのめせば。まぁ頭の固い御主に言っても無駄じゃろぉなぁ……仕方ない行ってこい」
「御意!」
翼を広げ桃太郎の居る場所から一気に飛び出そうとする雉子。だが水の壁と土の壁が雉子を囲いこむ。
「だから生徒に手を出すなと言っているだろうが?」
「預かってる立場だから何かあると困るのです。既にもう大変な状況ですけど……」
「ちょこざいな……しかし私は一人ではないぞ? お館様!」
雉子がニタリと笑うと水は霧散し土は崩れ落ちてしまう。そのタイミングをわかっていたかのように雉子は脱出し生徒達の方へ一目散に飛んで行ってしまった。
「ちっ、やべぇな……」
「向こう側に行かないと……」
二人が向かおうとするが無数の飛ぶ斬撃が二人に襲い掛かる。これでは振り向くことすらできない。
「そうは問屋が卸さんよ。なに、雉子は拙者よりは数段落ちる。運が良ければ生き延びられるはずよ。それよりも……拙者と勝負せい」
「ったく……ならお前さんをぶっ飛ばして助けに行ってやらぁ!」
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