向こう側
雷音が神力を使える様になった日から丸々二週間が過ぎた。
授業では主に神力のコントロールを、放課後はルナやサンに実戦形式で訓練をし、神装を纏った時の神力のコントロールや戦闘方法を習っていた。
普段の生活では、聖徒会に気に入られているという噂が流れた為か、雷音に絡んでくる者もいなくなり順風満帆な学園生活を送り始めていた。
「雷音っち、最近顔が生き生きしてるねー?」
「そうか?自分では分からないんだけど」
「そうだよ。なんか前までは絶望感溢れる様な表情だったしー」
「そんな事言ったら皆そうだろ?ヴィオだって前よりも楽しそうだぞ」
「そりゃあねー。今まで神力使えなくて落ちこぼれって言われてたし。だから今は希望が見えて来たってカンジ。あとは守護が分かればねー」
Eクラスは他のクラスに比べて人数が少ない。
理由としては明確、資質はあるが神力に目覚めていない落ちこぼれはそうそういない為。
今は強制的にとはいえ、全員神力目覚めたので完全に落ちこぼれというわけではなくなった。
それこそ守護を顕現する事が出来ればEクラスより上のクラスにいける。
守護自体にも名有りと名無しがあり、前者であれば大概上のクラスに行く。
逆に後者は下のクラスとなり、神力のコントロールに長ける者は上のクラスに所属することもある。
名無しでも修練を積んでいく内に名有りへと変わることもある。故に名無しだからといって希望がない訳では無いが、生まれ持った守護に左右されてしまうことは間違いない。
幸いにも雷音は名有りの 守護 に恵まれ、本人もそれを喜んではいた。
「じゃあヴィオも頑張るしかないよな。っても何を頑張れば良いか分かんないけど……」
「雷音っちはふつーに神力に目覚めたもんね。わかんなくて当然だし。あーしもひたすら神力のコントロール特訓してようかな、リンリンみたいに」
「リンか、そういえばいつも瞑想してるよな……ってこっち見てるぞ。ってか、こっち来てる」
リンは目力が強く、陶器のような白い肌に黒い髪をポニーテールにした、その名の様に凛とした古風さを漂わせる少女だ。普段から口数は少なく、目を閉じ瞑想をしていることが多いが人付き合いが悪い訳では無い。
「雷音殿、神力を使えるきっかけを作って頂いたことには感謝しているが……女子に向かってジロジロ覗くのは感心せんでござるよ」
「悪りぃ悪りぃ……ってジロジロ覗くなんてしてねぇだろ! あれだよ、今日も熱心だなぁって」
「む?今は寝ていただけでござる。視線を感じて目を覚ましてしまったが、某が目を瞑るだけで勘違いはやめてもらおう」
「わかりづれぇよ……」
「だが中々守護は現れてくれぬものでござるな。焦りばかりが募るばかりでござる」
「それは意外だ。いつもポーカーフェイスを崩さないから焦ってないかと思ってたよ」
「そんなことはないでござるよ。某も落ちこぼれの汚名を一刻も早く返上したいのでござる」
この学園に来ている以上、リンも輝族である。彼女も神力に目覚めないことで苦労したことは想像に難くない。
「普通に考えれば皆そうだよな。俺だってそうだったし。俺に出来たんだからリンだって大丈夫さ」
「ふっ……雷音殿が普段から努力していることは某とて知っているでござる。ならば某もより精進するとしよう」
席に戻るとリンは再び目を閉じた。寝ているのか瞑想しているのかは……本人にしかわからないことである。
雷音とヴィオが暫し雑談をしていると教室の扉が開かれウルスがいつも通り気怠そうに入ってきた。
「おーっす、全員揃ってんな。んじゃ今日もさっさと授業を始めるとするか」
今日もまたいつも通り授業が始まった。
神力に目覚めた為、全員これまで受けていた授業に加えて神力をコントロールする為の授業も追加された。
幾ら強大な神力を持っていようともコントロールが出来なければ宝の持ち腐れ、というのがウルスの論だ。
基礎にして、最も重要であり、今の内にコントロールすることで守護が顕現し、神装を纏った時に身体をスムーズに適応する為にも必死にやっておいた方がいい、とのことである。
「神力をコントロール出来れば身体能力が上がるからな。それに極めていけば神装を纏わなくても守護の力を使う事も出来るぞ」
「それってこないだセンセが見せた大地を割って炎噴き出したやつー?」
「そうだ。お前らもその内守護が顕現する時が来る。その時までにコントロールが上達していれば神装を纏ってもすぐに順応できるはずだ。逆にコントロール出来てないと力に振り回されちまう。ただここ二週間お前達を見てると全員筋はいいからより研鑽していけ。んじゃ全員外出ろ」
Eクラスの生徒とウルスは教室の前のグラウンドに出て、各自神力のコントロールをし始めた。
「そういえば雷音っちは放課後に三年のパイセン達と特訓してるんでしょ?どう?」
「してはいるけど……中々上手くいかないかな。やっぱり神力のコントロールが全然駄目だって言われてる。サン兄と手合わせしてるけど正直手も足も出ない」
「サン兄って王太子殿下だよね?兄って呼ぶなんて……雷音っちはルナルナと……お熱いですねぇ」
「変な勘繰り入れるな。幼馴染の腐れ縁ってやつだよ」
「キャハハハハ、じょーだんじょーだん。やっぱり三年のSクラスは別格なんだねぇ。あのくそウォードとは雷音っち互角だったっていうのにね」
「いや、あれはウォードが油断しすぎていたんだろう……ルナもそう言っていたよ、アイツは性格は最低最悪だけど強いって。最初ルナと戦った時も本気は出していないだろうって。まだまだ差があるよ……」
故に雷音は名有りの守護を授かろうとも慢心はしなかった。あくまでもスタートであり、強くなる為に懸命になっていた。
しかしそれは雷音だけでは無い。
「ああクソ! うまくいかねぇ! 何で守護が出てこねぇんだよ!」
怒号が響く。その声の主はEクラスで雷音の親友でもあるシュウであった。よく見るとシュウの身体は擦り傷があり制服も薄汚れていた
「おい、どうした?」
「どうしたもこうしたもねぇよ! クソったれ!」
「お前もしかして……」
「……そうだよ。朝からまた奴等に絡まれちまった。お前から俺にメインターゲットを移したみたいでな」
シュウの言う奴等とは以前雷音に絡んでいた不良達である。雷音の力を目の当たりにした彼らは雷音には絡まなくなったが、シュウに狙いを変えていたのだ。
「……」
「ったく参っちまう。なんでアイツらは誰かを虐めてなきゃ気がすまねぇんだろうな」
「ごめん……俺が今まで絡まれてたのに……今度はシュウが……」
「馬っ鹿野郎! 絡まれんのはアイツらと……オレの実力不足のせいだ。お前のせいなんかじゃねぇよ。ただ自分が情けなくてな……」
「シュウ……」
かけられる言葉が出てこなかった。懸命に努力してもなかなか結果が出ないことを彼らは知っていた。そんな彼らを遊びと称して虐げる者もいるが抗うには力で対抗しなければならない。
雷音はその力を手に入れたが他の者はまだ神力を手にしただけだ。まだまだ上のクラスとは差が縮まらなかった。
「なんだなんだお前ら荒れてるなぁ。だが、それもせ青春って奴だなガッハッハ」
完全におっさんだなこの先生、とクラス全員が静まりかえるがそんなことを気にもせずウルスは再び口を開く。
「青春しているお前達に連絡事項だ。三ヶ月後のクラス対抗戦に我がE組も参加することになった」
「えー!? センセ、それマジ言ってんの?あーし達神力を最近になって使えるようになったばかりだよ?他のクラスに勝てる訳ないし!」
ヴィオが声を大きくして先生に抗議した。それは全員同じことを思っていることだ。クラス対抗戦とはクラスの代表が五対五で全力で闘う学園の催しだ。
当然神力を使い、神装を纏って闘う。
「いやぁ、Sクラスのクソったれな担任がよ、どこで知ったんだかEクラス全員神力に目覚めたことを知りやがったんだよ。勿論雷音以外守護が無い事もな。それで色々ネチネチ言ってきやがってよ……頭来るから対抗戦でテメェらのクラスぶっ潰すって言っちまってよ」
「「「「何やってんだよ!!」」」」
非難轟々とはこういうことを言うのだろう。笑いながら話すウルスとは対照的に生徒達は顔を赤くしている
「まぁ落ち着け落ち着け」
「アンタの行動を落ち着かせろ!」
「お前先生にアンタは無いだろう……先生傷ついちゃうぞ」
はぁ、と溜息が漏れたのは雷音だけでは無かった。雷音以外は明らかに勝算がないからだ。
「まぁそんな訳でお前達を強くする為に強化訓練合宿をすることにしたぜ!」
「………」
「いや、そこはイェーイ!ってなるところだろ?」
「「「「なるか!」」」」
「まぁ、真面目な話をすると俺達は『境界』の外に行く。遅かれ早かれ行かなくてはならない場所だ。
因みに全員強制だ。安心しろ、『境界』のすぐ側に行くだけだ。なぁに俺がいるから死にはしねぇよ」
『境界』とはこの国ととある世界を隔てる壁。
雷音達生徒がこの学園に通うのはいずれこの壁の向こうで戦う為である。
この世界の宿敵を殺す為に。
「そんな訳で明日から一泊二日で行くからな。こっから『境界』ならすぐだからな。
それともう一つ……訓練終了後に学園を辞めたくなったら遠慮せずに言ってくれ。これも遅かれ早かれの問題だ。俺には強制する義務は無いからな」
話が終わると同時に授業終了の鐘が鳴り響いた。
誰も口を開かない。『境界』に行くことは実戦を意味するからだ。
雷音はともかく他の皆は守護さえも発現していない。
その状態でどう戦えばいい。
自殺行為ではなかろうか。
『御伽』に殺されるのではなかろうか、と。
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