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悲劇の晩餐再び その一

「まったく……会長は自由過ぎるよ……大体雷音は昨日神力(ルミナス)を使えるようになったばかりだよ?」



 雷音が謎の男と女と邂逅している最中、入ってきたのは雷音の知己で、ルナの兄であり、聖徒会の一人であるサンであった。



「ふん、気になったものは試したくなる性質(タチ)故に仕方なかろう」


「悪い癖……頭おかしい……死んだ方がいい……」


「相も変わらず厳しい物言いだな。だが我にそんな口を聞けるのはお前ぐらいだがなアイシャ。ちんちくりんの癖に大した者だ」


「ディルが周りを威圧しすぎなだけ……馬鹿……」



 二人は毒を吐きながらも仲が良さそうに雷音には見えた。しかもそんな二人がこの学園の生徒でも頂点に立つ者だということに驚きを隠せなかった。



「あのさ、サン兄……一体これは?」


「ごめんね雷音、僕が早く来ていれば良かったんだけどね、会長はこんな性格だから遅かれ早かれこうなったとは思うけど。一応紹介しておくね、さっき雷音と手合わせしたのが会長のディル、そっちの女の子が副会長のアイシャ。二人共僕と同じ三年のSクラスだよ」


「……ディル・ユーグドラシルだ」


「アイシャ・セクトリア……副会長やってる……」


「あっ、えっと、二年のEクラスの蒼天雷音です。よろしくお願いします」



 簡単な自己紹介をした後、ディルとアイシャは神装を解いたので合わせて雷音も神装を解いた。



「んー、これじゃ僕が雷音と()()のは無理かな。全く二人共前もって言ってくれよ?」



 神装を解いた雷音は目に見えて息が上がっており、神力(ルミナス)も尽きかけていた。



「我は言った筈だ、面白そうだから会ってみたいとな」


「わかるわけない……ちゃんとアポを取るのこの無能……」


「ほぉ……辛辣だなアイシャ。喧嘩を売るなら買おうぞ?」


「まったく……馬鹿は死ななきゃ治らない……?」



 漏れ出す強き神力(ルミナス)が二人の間でぶつかり合う。一触即発かと思われた時、サンが二人の間に入り込んだ。



「はいはい、ストップ。あのさ会長、会いたいと思うのと会って手合わせするのは全然違うからね?まったくもうどこから僕達の予定を聞きつけたのやら」


「ナディア嬢が教えてくれたぞ。そこの者とお前が訓練すると聞いてな、我も手伝おうと思ったのだ」


「ふぅ……ナディアめ……余計なことを」


「サン兄……なんか怖いよ」


「ははは、気にしなくていいよ。取り敢えず今日はやめておこう。会長と手合わせしたなら雷音も疲れちゃっただろ?今日は帰ってゆっくり休むんだよ?」


「そうだね……じゃあ俺は帰るよ。会長、副会長失礼します」




 雷音も色々聞きたいことはあったが流石に体力的に限界なので帰ることにした。それに夕飯の支度もしなければならないので買い物をして帰ることにしたのであった。



 ――――



 訓練所では雷音が帰った後も三人は残っていた。



「会長から見て雷音はどうだった?」


「そうだな……まだまだ荒削りだが……潜在能力は計り知れんな。我を一瞬とは言え本気にさせたのだからな」


「『粉砕する雷槌(ミョルニル)』使われた時……ディルの顔が一瞬だけ真剣(マジ)になってた……久しぶりに見た」


「へぇ……それは凄いね。ならこれからもっともっと強くなって貰わないとね」


「あらあら何を楽しそうな話をしてますの?わたくしも混ぜてくださいな」



 訓練所の扉が開くとナディアの姿が現れた。その表情は仕組んだ事が成功したせいか微笑みを浮かべていた。



「まったく……僕に内緒で……よくもまぁ来れたね?」


「何のことやら?わたくし存じ上げませんわ。それよりも皆さんお腹が空きません?」


「ふぅ……僕はそっちのけか、やれやれ。お腹は空いたよ」


「我もだ」


「エネルギー不足……」


「では皆さん御一緒にディナーにでも行くとしましょう」



 ―――――




 雷音は訓練所を出て急いで近所の商店街に行った。夕暮れ時の為に人の賑わいは少ない。



 まず雷音が向かったのは肉屋だ。早歩きで向かうと店主は雷音に親し気に話しかけてきた。



「おう雷坊、今日はいつもより遅いな」


「うん、学園で色々あってさ」


「そっか、学生も大変だな。おっちゃんの店も今日はダメダメでよ、今日は肉が沢山余っちまってよ。安くするから買っていってくれないか?半額でいいぜ」


「半額……買った!」


「毎度! いやぁ仕入れたのにたくさんあまっちまったからよ助かるぜ」


「俺も助かるよ。いつもありがとう、おっちゃん」




 肉屋の店主は笑顔で肉を包んでくれた。雷音も半額で肉を買えたので内心とても喜んでいた。


 肉屋を後にすると近くの店では特売で豆腐が安かったので購入する。ついでに少し奮発してチーズを買った。野菜は家にあるから今度買えばいい。

 そうして取り敢えず今日の料理は決まっていった。

 雷音の頭の中では沢山作って明日のお弁当の具、そして冷凍しストックもできるとシミュレーションしていた。

 そして日も暮れて月明かりの中、寮に戻ってくると外から灯りがついているのがわかるので繭が帰ってきていることも確認できた。



「ただいま」



 玄関を開けると繭のものでは無い、女物の靴が置いてある。脳裏に浮かぶのは大食漢な彼女の姿だ。大量に買ったのがバレるとヤバい、そっと忍び足で歩き冷蔵庫へ向かうのだが……。



「雷音おっかえりー! お腹すいたー! あ、沢山買い物して来てるのね。アタシがいるの分かってたのね?流石雷音!」


「ウン、ソウダネ……」



 ストックは諦めよう、そう思わざるを得なかった。

 

 台所に入ると既に繭がお米も炊いていたようなのでおかずをつくるだけだ。

 まずは買ってきた大量の肉を細く切っていく。そしてその肉をひたすら叩く。



「ふぅ、今日はこれが一番疲れるかも……そうだ神力(ルミナス)を使えば……いや、料理に神力(ルミナス)を使うなんて……だけど細かいコントロールの為になるかも」



 邪道だと思いつつも自分の為と言い聞かせて包丁でひたすら肉を叩いていく。



「いい……これはいいぞ……」



 普段よりも挽肉を作るペースがだいぶ早い。これからは料理を作る時、必要に応じて神力(ルミナス)を使おうと誓った雷音であった。



 挽肉を作った後は、微塵切りの玉葱を炒めて冷ましておく。

 絹豆腐はホイッパーで滑らかになるまで掻き回してパン粉と混ぜておく。あとは卵を入れて塩胡椒などを入れて混ぜる。そしてそれに挽肉を入れてまた混ぜる。トドメにさっきの玉葱を入れて再びひたすら混ぜてこねる。


 少し時間を置いてから形成してフライパンで焼いておく。最終的には煮込む為に中まではじっくり焼かずにだ。

 煮込むのはデミグラスソース……とはいえ家にあるソースやケチャップなどを使って作った物であり、以前買った安い赤ワインが結構いい味を出してくれていた。

 そこにしめじや余った玉葱を落としハンバーグを煮込む。


 煮込んでいる時間で別の鍋で付け合わせの人参のグラッセを作ることにした。繭は甘過ぎるのが好きでは無いので砂糖は控えめにしているがその味付けを決めるまで雷音は結構試行錯誤していた。


 そして最後は合わないと言われても関係ない、味噌汁だ。こちらの具材は余った豆腐とネギ、油揚げを入れたものだ。


 この寮で雷音が個人的に気に入っているところはコンロが多いところだ。2LDKの部屋であり、本来はシェアして使う部屋らしいのだが特に使う人もいないので兄妹で一緒に暮らしている。


 ハンバーグが煮込み終わる頃、匂いに釣られた()がキッチンにふらふらとやってきた。



「雷音、お料理出来た?」


「んー、そろそろかな?ちょっとハンバーグを味見してくれないか?お、良い感じかも。ふー、ふー」


「ちょっと雷音、アタシが食べるのにふーふーしてどうするの」


「あ、わりぃ。自分が味見する時の癖でつい」


「もうっ。はい」



 ルナは口を大きく開けた。まるで餌付けを待つ雛鳥の様に。



「なんだそれは」 


「い、いいでしょ! ほら!」


「はいはい。はい、あーん」


「あむ。むぐむぐ……うん、美味しい!」


「そいつは何よりだ」


「ありがと。あっちで待ってるね!」



 お気に召したのか笑顔でリビングに戻っていった。ふと壁際をみると雷音を見つめる繭の姿があった。



「じー」


「うお、居たのかよ」


「まったく……これで付き合ってないなんて信じられないわ……」


「ぶつぶつ言ってないで料理運んでもらっていいか?煮込みハンバーグは鍋ごと持っていって向こうで食べたいだけ食べよう」


「それでいいの?」


「ああ、ルナが大量に食べるのは計算済みだ。ぬかりは無い」


「分かった……ご飯とお味噌汁よそってくね」



 雷音が使った調理器具を洗っていると、いつもはササっとご飯をよそっていくのに妙に時間がかかっていた。繭も疲れているのかもしれないと思いつも洗い物をする雷音も疲労感があった。

 洗い物もひと段落し、晩飯を食べようと居間へ向かった雷音は驚愕した。



「なんで居るの……」



 部屋の扉を開けるとそこには食卓を囲むルナと繭、そして呼んでもいない聖徒会の面々がいた。 



「うむ、お邪魔しているぞ」

「……どうも」

「ごめんね雷音、お邪魔してるよ。君の料理はやはり美味しいね」

「はぁ……やっぱりこのお味噌汁とやらは美味しいですわ」



 一気に疲労感が襲いかかってきてその場に立ち尽くす雷音であった。

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