リコリス
先月、祖母が死んだ。
もうだめかもしれないと母から電話があった次の日の夜の事だ。
癌だった。痴呆もかなり進んでいて最後にあった日は私のことを覚えていなかった。
お葬式は家族と仲の良かった数名で行われた。
泣き上戸の母や姉はもちろん、痴呆が進んだ祖母にあんなに悪態をついていた十歳も離れた弟は顔を赤くし鼻をすすらせ泣いていた。
あぁ、本当はちゃんと好きだったんだな…
ー私とは違う。
違う、でも私だって嫌いだったわけじゃない。
一粒も流れない涙。
そして懸命に母を抱き寄せ励ます…ふりをしている自分に心のそこから寒気がした。
ふと祖母の葬儀を思い出した。
朝からやまない雨がうるさいくらいに髪の毛を広がらせまったく気分が上がらない。
「優、ゆーう、ちょっと聞いてる?」
「ん…あぁごめん、聞いてるよ」
「あんたのこと心配して言ってるんだからねっ。それで彼の事どうするの?」
もうぬるくなったアイスティーをストローでくるくるさせながら
私のだらしなさに呆れているのはもう5年ほど付き合いのある友達。
高田皐
長身で手足が長く、そのスタイルとはまったく合わない童顔。
愛嬌のある彼女は友達も多い。
同じアパレル企業についているが職場では接点が少なく
たまたま社員食堂で会い仲良くなった私たちは今もこうして仕事終わりに近くのファミレスにきていた。
「だからやめとけって言ったのに」
「でも最初は紳士的だったんだよ。だから今度こそいい感じかなぁと思ったんだけどねー。もう連絡とるのやめようかな。」
「いっつもそう、最初に盛り上がってすぐ冷めるんだから。
それ本当に末永さんのこと好きだったの?」
「好き…ねぇ…」
「あっ明日早番なんだった、もう帰らなきゃ。またどうなったか聞かせてよね、」
バタバタと会計を済ませ車に乗り込む。
私も重い腰を上げ
「わかった、明日も頑張ろうね」
そう言って車に乗りいつもの帰り道を走る。雨は強くなりフロントガラスにぶつかる雨音がうるさい。
しばらく走るとバックの中で携帯が光った
多分先程まで皐が心配していた末永敦だ。
「今日はもうかけ直さなくていいか…」
末永と会ったのは3ヶ月前、高校の友人の結婚式だった。
彼は新郎の先輩として出席していた。
第一印象はよくも悪くも普通の人。ただ屈託なく笑う顔や意外と話すと面白くて二人で趣味の話や映画の話をたくさんした。
そして久しぶりの楽しい時間に飲み過ぎて酔った私を介抱し家まで送ってくれたらしい。
いわゆるお姫様だっこをしてくれたと後日友人から聞いた。
そんなよくある話で気持ちが盛り上がったのは言うまでもない。