積極思考で飲みすぎ注意
レンとショウエイは重い扉を開け廊下に出た。
「ふう・・・計画ってなんだよ・・・」
ショウエイが詰襟を緩める。
「さあ・・・」
レンが少し考え込む。
2人がまた長い石畳を歩き始めるとすぐにタブが立っていた。
「ショウエイ軍曹。」
何もなかったように無言で横を通ろうとしたが、呼び止められた。
「はい。」
ショウエイは、めんどくさそうにタブに向き直す。
「すまなかった。自分は士官学校をでたばかりで、現場のことは何も知らず、君にとても迷惑をかけてしまった。 君が、あの幻獣たちを抑えてくれなかったら、自分はここには戻れなかっただろう。」
「ああ、自分もそう思います。」
さらっと上司に言う。
「本当に申し訳なかったっ 君だけに手傷を負わせてしまって、自分はどう陳謝したらよいか・・・」
少尉が軍曹に頭を下げる。
その様子をハラハラしながら見るレン。
「・・・少尉、自分、これっぽっちも魔力ないんで無謀なだけだ・・です。」
ため口になりそうなのを言い直すショウエイ。
頭を下げたままのタブ・・・
ショウエイは頭をかいた。袖がはだけ、目立つ傷が見えた。
その傷にタブが目を止める。
「魔法傷・・・」
「・・・こんなかすり傷で済んだんだ。しかしあん時、自分が、もう少し考えれば避けれた傷。これはあん・・少尉のせいじゃないし、油断した自分のせい。少尉が悪いとか、これっぽっちも思ってない。」
その傷を見てますます頭を下げる少尉。
ちょっと困るショウエイ。めんどくさいのは大嫌いなショウエイ。
無視して通り過ぎようとしたが、
「・・・そうだな・・・ボトル一本で手を打とう。」
レンもタブも目をまん丸くしてショウエイを見る。
「せっかく帰ってきたんだ。高い酒くらい飲ませろ。腹も減った。」
そう言いながらすたすたと、この薄暗い要塞の出口に向かう。
「ほら行くぞー。酒だぁ飯だぁ女だぁー」
そのあとをレンがくすっと笑いながら懐かしい笑顔でついていく。
慌ててタブ少尉が追いかけていく。
城門を出ると左右一面にに小ぶりのバラが咲き誇っている。
「お・・いい匂いだ」
ショウエイが鼻をクンとさせる。
「ああ、いい香りですね。ここのバラは精油に使っているんですよ。女性の香水にもなりますね。ショウエイの大好きな匂いですね。」
レンがからかう。
「おう。 おう。 いい匂いだ。」
ショウエイはおなか一杯バラの香りを嗅いだ。
タブ少尉を率いて、町のこじんまりした酒場に入る。
昼時を過ぎたころで、客はまばらだが、兵士や農民、いろんな人たちで賑やかだ。
奥の丸テーブルに着く。まだ前の客の飲み食い後が残っている。
「あら!ショウエイ元帥! 戻ってたのねー!」
ふっくらした女がテーブルを拭きにきた。
「いつものエールでよいかしら?皆さんも?」
タブ少尉をみて、ショウエイのバッチより、タブのバッチには多く星がついていることに気が付く。
「あ、失礼しました。」
そんな様子にはお構いなしに、ショウエイが答える。
「この店で一番いい酒、あの酒!ボトルでもってきて。」
ちょっと悪ガキっぽい目で、ワクワクした表情のショウエイ。
「え?・・・あれ?飲んでみたいって言ってたワイン??」
ショウエイがニンマリうなずく。
「心配すんな。つけにはしねーよ。今日は少尉殿のおごりだ。」
女はタブの顔をみた。
タブはちょっと引きつった笑顔でコクリと答えた。
ショウエイが器用に手巻きのタバコを巻く。
壁に掛けてあるランプの小さな火でタバコに火をつける。
しばらくすると女が、少し埃をかぶったボトルと、小さめの綺麗な陶器グラスを3つ持ってきた。
「はい。お待たせ。今おいしいチーズも持ってくるわね。ちょうどいい時に来たね。いいチーズが入ったのよ。」
古いラベルのあるワインボトルをテーブルに置く。
キュッキュとコルクを抜いていく。
スポンとコルクが抜ける。
コルクをショウエイの前に置く。少しかび臭い。
「こんな上等のワインの飲み方なんて、私、知らないから、お好きに飲んでね。」
ボトルから深いワインの匂いを嗅いで、きゃきゃっと笑う。
レンが、タブから先に3つのグラスに注いでいく。
ショウエイがグラスを掲げた。
「タブ少尉に」
レンは苦笑いしながらグラスを傾ける。
タブが二人にグラスを傾けた。
「軍曹に」
あっという間にボトルが空になりそう。
タブは、ほとんど酒が飲めない様子。一口で顔が真っ赤になっていた。
レンも後に木の実のジュース頼んでいた。
高級なワインは、ほとんどショウエイが飲んでしまった。
タブの歳は23歳。火の魔法も若干操れる魔法剣士。若くして少尉になったのには、所謂コネ。
シェン大佐の甥であり、領主の親戚。
士官学校を首席で卒業して、騎士部隊の遠征隊を任されることになった。
すっとばし出世だが、貴族エリートの人為不足でよくあることだ。
レンの歳は22歳。15歳のころ、ショウエイとともに帝都にきて2人で軍に志願した。
とびぬけた魔法能力を持っていたおかげであっという間にトップクラスの魔法師になっていた。
水も火も操れる。対峙する属性を操れる珍しい魔法師だ。
ショウエイも22歳。
魔法は使えないが、ずば抜けた身体能力をもっている。たたき上げ出世ながら、やはりマイペース。
帝都の地下水路に巣食うモンスターを勝手に一人で追い払ったり・・・ダメ上官をぶっ飛ばしたり・・・
軍的には問題児だったが、腕を買われ、階級をもらって少しはおとなしくなったようだ。
タブの学生時代の話やらで、しばらく談笑していた。
日が傾いてきて、また店のお客が増えてきた。
疲れか酒か、ショウエイはテーブルに突っ伏して寝てしまっている。
枕にしてある右腕の傷が、ところどころ青く瞬くように光っている。
レンが傷を見ながら言う。
「幻魔獣の雷系魔法でやられたんですね。」
「これは、もう・・・痛くないのでしょうか?」
タブが心配そうに言った。
「光が強いほど痛いはずです。回復魔法師に除去してもらえばいいものの・・・」
「え?なんでショウエイさんは治療を受けなかったんですか?」
「ショウエイですから。こんなのかすり傷ですよ。それに多分・・・」
レンがニヤッと笑う。
「え?何ですか?」
「さて、起こして帰りましょうか。」
「なんですかー 気になるー」
なかなか起きないショウエイを起こし、店を出る。
タブは支払いをして、おくれて出てきた。
「くあーっ。」
ショウエイが、猫のように気持ちよく伸びをする。
夜の都は、とても賑やかだ。
煌びやかな女性たちが行きかい、活気があり、おいしそうな匂いも漂ってくる。
派手なドレスを着た女性が駆け寄ってきた。
「軍曹さーん!」
「お・・・おう」
いきなり腕組をされてよろけるショウエイ。
「あら、だいじょうぶ?もう飲んできちゃったの?」
あざとい困り顔でショウエイをのぞき込む。
「飲んだ飲んだ。浴びるほど飲んだ。」
「なーんだ。じゃあまた遊びに来てねー!まってるう~」
女性はくるっと来た道を戻り別な男に声をかけている。
「誰ですか?」
タブはその女性の艶やかさに見とれていた。
「この先の店のお姉さん。ただの客引き。」
「お知り合い多いんですね・・・」
「知り合いって程じゃ・・・」
ショウエイが何かに気が付き、そちらに駆け寄っていった。
2人組の女性に声をかけている。
「タブ少尉、ほら。ショウエイを見て。」
「え?」
ショウエイが腕の傷を女たちに見せている。
女性たちはキラキラ光る傷に興味津々。
「ああ・・・そういうこと?!」
タブは面食らったようにその様子を見ている。
「話のネタにしてますよ。ショウエイはなんでもポジティブにもってっちゃうんですよ。」
しばらくするとショウエイが戻ってきた。
「よし帰るぞ。」
「あれ?さっきの女の子たちは?」
「飲みに誘おうと思ったんだけど・・・だめだ・・・俺が眠すぎる。ふらふらする。」
そう言ってふらふらと先に歩いていく。
「ほんとにマイペースですね。ショウエイ軍曹。」
「ええ。口は悪いけど、とてもいい奴ですよ。」
「部下が彼じゃなかったら、自分。ほんと・・・今ここに居れなかった気がします。」
城に戻り、それぞれの部屋に戻った。
読んじゃってくれて ありがとう