上司には礼儀正しく
大人になったショウエイとレン
コツコツコツ・・・
磨き上げられた冷たい石畳。薄暗い通路に早めの足音が響く。
「戻って1日だぞ・・・何の話だよ。・・・はぁ・・・」
「ショウエイ、北の幻獣処理お疲れ様。それにしても元気がない様子ですね。まだ疲れが取れませんか?」
ショウエイが声を低くボソボソという。
「当たり前だ・・・遠征部隊に成り上がり少尉とかありえねーよ。いまさら幻魔獣にビビッて逃げ帰る少尉とか・・・大佐の甥っ子だか何だか知らねーが・・・」
「珍しいですね。ショウエイが愚痴を言うなんて。」
「ふぁあ。。。それにしてもレンはいいよな。有能な上司の下で、それも美人。うらやましいぜ。」
「僕はショウエイがうらやましいですよ。国のいろんな所に行けて。」
「そうかぁ?ただの基地まわりだぞ。女もいないし酒もろくに飲めねーよ・・・」
「ふふ。ショウエイ、健康にはちょうどいいじゃないですか。」
「逆に不健康だ。」
そんな話をしながら奥の大きな扉の前につくと、レンが背筋を伸ばして呼吸を整えた。
ショウエイも軍服の詰襟を整えた。
「失礼します」
レンが扉を3回ノックする。
重い扉を開けると、広めの部屋に大きなテーブルがある。奥の椅子に座り、肘をついた初老の男がいた。
その男性と向き合うように、壁を背にし、2人の人物が立っている。
姿勢を正した長髪の女と、少し幼い表情をした恰幅のいい男。
ショウエイが、立っている男をちらっと見ると、男は慌てて目を背ける。
「シェン大佐!遅くなりました。」
レンとショウエイが座っている男に敬礼をする。
男が二人を見る。大げさな飾りのついた掛け時計を見ながら言う。
「一緒に来たか。時間通りだ。」
しばらくの沈黙。
「ファイズ君。・・・君たちは同じ苗字ラストネームか・・・確か兄弟だったか?」
「・・・はい。」
間をおいてレンが答えた。
奥にいる初老の男性がしばらく書類に目を落としてからショウエイに向きなおした。
「・・・ファイズ・・・ショウエイ軍曹、今回はタブ新・米・少尉の元での動き、ご苦労であった。」
隣に立っていたタブ少尉が少し肩をすくめた。恰幅は良いが小さく見える。
「はっ。・・・少尉には、自分がなれない現場でいろいろ教えていただき、配慮の数々に深謝申し上げます。」
覇気のない幼稚な演劇のような棒読みのショウエイ。
ショウエイ自身も、何言ってんだ俺??状態。
レンはこの様子に顔がこわばる。
「そしてタブ少尉、先日の報告の件なのだが。」
「ファイズ軍曹には助けられました。自分は幻魔獣という生き物に対して・・・経験のないものに対して・・・敏速に対応してもらい・・・」
タブは途中で口ごもる。異様なほど汗をかいている。
「シェン大佐。少尉は慣れない幻魔獣との抗争でお疲れです。」
ショウエイがタブの顔を見ながら発言する。
「ほう・・君はタブ少尉の行動に対して異議を持たぬというのか?」
シェンがショウエイに目を向けた。
「自分はあの幻魔獣に対して恐れを知らなかった。少尉は、知識ある分、自分より用心をした。・・・それだけのことです。部下たちの安全を考えた結果だと。」
ショウエイはシェン大佐にに向きなおして言った。
しばらくの沈黙。
タブはうつむいている。
「・・・北の駐屯地なら幻獣の警戒がないと思っていたんだが・・・ショウエイ軍曹をつけて正解だったな・・・」
「まあよい。」
吐き出すようにシェンが言う。
「・・・レン君、ショウエイ君。君たちには話がある。」
シェンが、タブに左手で部屋の外に出るように合図を送る。
タブは頭を下げ扉を出ていった。
「キリア大尉。新しい部隊を編成したいのだが。」
「はっ。大佐。それはどういうことでしょうか」
キリアが、レンとショウエイを見ながら言う。
「そう。この者たちと一緒にパチル峠の封印幻魔獣の調査を頼もうと思っている。」
「・・・あの破壊幻魔獣と言われている封印石の事ですか。」
キリアの顔が少し曇った。
「とはいえ。まだ私の構想段階なのだが。」
レンはパチル峠封印石について若干の知識はあったが、ショウエイには何のことかさっぱりわからない。
「パチル峠では、数日前、高位の幻魔獣の化石が見つかったという報告がある。数日後には調査団がこちらに戻るだろう。・・・私はそれにとても興味がある。・・・」
大佐は一瞬笑みを浮かべ咳ばらいをした。
「レン軍曹、ショウエイ軍曹。この計画がうまくいけば・・・君たちの昇格も考えている。キリア大尉、君もだ。」
「部隊についてはこれから考えるが・・・。いずれにせよ、まだ心の中にとどめておいてくれ。意義はあるか?」
大佐は3人の顔を上目で見た。
「御意」
3人は大佐に対して敬礼をした。
「2人ともしばらくは帝都にとどまり、ゆっくりするがいい」
「はっ」
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