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白の闘諍  作者: 死者モ
壱_洗礼
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壱-8 e62f8b_遊戯

 ルキが右手をすっとあげ、挑発するようにくいくいっと動かす。お兄さんは持っていた肩掛けのランチャーをセットする。自分の親指をがりっ、と噛み、普通のランチャーなら銃弾を装填するであろうところに開いている穴に垂らす。がちゃ、とその穴を閉じ、数秒後、トリガーを引くと、大量のもみじの種のようなものが飛び出した。大きさは両翼合わせて5センチ程度だろうか、色は白。あれが抗体の弾丸か。

 

 ルキはぬらりと避ける。たん、と地面を蹴った次の瞬間には10数メートルは離れていたであろうお兄さんの目の前に立ちはだかっていた。お兄さんはあからさまに顔色を失い、慌てて後ろに飛び、逃げる。


「ん?」


とサトイさんが怪訝な顔をする。


「どうかしましたか?」

「う~ん、ルキ、ちょっとおかしくないか?残像がやたらとはっきり見えるんだが…。」


 そう言われればそうかも知れない。速い動きをすると尾を引いているように見える。


「中継のカメラの性能なんじゃないですか?」

「まぁ、そうかな…。」


と言ったものの、サトイさんの表情はどんどん曇る。


「ど、どうかしましたか?」

「ルキの動きがおかしい。」


 ボクにはさっぱりわからなかった。ルキは相変わらず、次々ランチャーから発射される抗体を、涼しい顔をしてひょいひょいと避けている。


 じっと見ていると、ボクも違和感に気付いた。このルキは重さがないように見える。あまりにすいすいと動きすぎだ。移動をするとき、ステージを踏み込んでいるのだが、こんな甘い踏み込みであんな距離を飛べるわけがない。


 残像も、言われてみれば残像で言い包められないくらい尾を引いている。止まると、遅れてきた部品がぴたぴたとくっつく。


 最初の方はひょいひょいと避けていたが、次第に変な動きをするようになってきた。


 ついには立ち止まってしまった。お兄さんは少し戸惑ったような表情を浮かべたが、次第に勝利を確信したような笑みを浮かべ、ランチャーの照準を丁寧にルキに合わせ、発射する。


 ばらららという音と、ばちゅ、ばちゅんという弾丸が当たった音が場内に響く。流れ弾が地面に当たり、もうもうと土煙があがる。

 視界が晴れるとそこには、顔面に抗体の弾丸が突き刺さったルキが立っていた。


「ひっ…。」

「あ。」


と、ルキの声が聞こえる。……ん?顔面に抗体が刺さっているのに、あ、で済むのか?どんな体なんだ…。頭がこんがらがっていると、画面の中のルキはさらさらと崩れ落ちた。


 まさに崩れ落ちたのだ。内臓もなにもない。まさに雪だるまが溶けるのを早送りで見ているかのような感じだった。ボクはあまりの衝撃に目が釘付けになった。会場からも音が聞こえてこない。シーン、と静まり返り、皆なにが起きたのか理解できずに固まってしまっている。


「はぁ~~~。」

「うひっ。」


 サトイさんがクソデカため息を吐いたので、びっくりして小さく叫んでしまった。


「ルキ~?出といで。」


 ボクは頭の中が?でいっぱいになった。3秒後、彼女は寝室から、部屋着を身に纏い、あくびをしながら出てきた。


「は?えっ、ちょ、ルキさ…、えっ??」

「会場に連絡入れるわ。ちーちゃん、無線繋いで。」

「まったく…。なにかおかしいと思ったんだ。ずっと部屋にいたのか…。」


 サトイさんはテレビ横にかかっている無線を取り、ボタンを押す。二言三言指示を出し、どこかにつながったそぶりを見せ、ルキに渡す。


「あ~、こちらAO01、オキ。只今の試合は下克上戦の前哨戦となる。実際の下克上戦は1時間後、対戦者は用意しておくように。」


 会場は全員の目が点になっていた。もちろんボクの目も点になってしまった。


「ルキ、公式の場で実験するなんて…。なにを考えてるんだ…。あとであの隊員に謝っておけよ…。」


 サトイさんは呆れかえっている。


「あの、今のはどうゆう…?」

「あら、ちゃんと見てたのね。」


 あたかも今ボクの存在に気付きましたと言わんばかりの口ぶりだ。


「あれは抗体で作った人形よ。ワタシね、エンラージメントさせた抗体を自由に動かせるの。銃の火薬なしに飛ばせるのよ。それを応用して人形にしたの。」


 なんてチート能力なんだ。ボクなんてひとつもエンラージメントできないんだぞ。


「そもそもエンラージメントできる抗体は何種類あるんですか。あんなに複雑な人形が作れるなんて…。」


 ルキはきょとん、とする。しかし、やがてにたりと笑みを浮かべ、


「たくさんよ、ふふっ。」


と上機嫌に答えた。結局その後、休憩を挟んでから正式にお兄さんと闘ってボコボコにしていた。と言いたいところだが、軍の隊員に殴打は出来ないらしく、抗体で作った大きな手で優しく場外に運んだ。お兄さんは場外負けとなった。


「あ~もう…。今日も始末書か…。」


 サトイさんはずっとボクと一緒に居室にいたが、呆れと疲れでへとへとになっていた。


以来、今目の前にしているのは本当に本物のルキなのか確かめるのが癖になってしまった。


「もう、めんどくさいわね~。喋ってるんだからワタシに決まってるじゃないの。あと、あれ疲れるからめったにしないわよ。準備に時間もかかるし。」


 あまりにしつこく確認するので怒られてしまった。怒らせると怖いことになるのは百も承知なので、とりあえず喋っていたら本物だと安心することにした。


 それにしてもこのお嬢様はただのお嬢様ではなく、もしかしてむちゃくちゃ強いのかもしれない。謎が多すぎる。まぁ、追々知って行けばいいか。ルキの楽天家な性格が少し移ったようで少し嬉しく、いや、嬉しくはない。なぜ今、嬉しいと思ったのだろう。あんな傲慢お嬢様に似てしまったなんて、どんよりするはずだ。


 その日は脳内にクエスチョンマークをたくさん作りながら残りの業務をこなし、床に就いた。一日中部屋の中で運動量は少なくても、考えることが多く、夜はぐったりでぐっすりだ。


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